「涼宮ハルヒの消失(アニメ映画)」

総合得点
92.3
感想・評価
5209
棚に入れた
23057
ランキング
23
★★★★★ 4.2 (5209)
物語
4.4
作画
4.3
声優
4.2
音楽
4.0
キャラ
4.3

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ネタバレ

蒼い✨️ さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

表現者。

【概要】

アニメーション制作:京都アニメーション
2010年2月6日に公開された劇場版作品。
原作は、谷川流によるライトノベル。
総監督は、石原立也。
監督は、武本康弘。

【あらすじ】

キョン(本名不明)は、ごく普通の県立北高に通う男子高校生であるが、
入学して以来、同じクラスで後ろの席の奇矯な振る舞いが目立つ女子高生、
涼宮ハルヒに振り回される形で、常識的にはありえない数々の体験をしていた。

涼宮ハルヒは願望を無意識に現実化して世界を作り変えてしまう超常的な能力を持つ一方で、
ハルヒのストレスが蓄積することで世界崩壊の危機になってしまうという、
まさに、涼宮ハルヒが世界の中心であった。

そんなハルヒの監視役として、3つの組織からそれぞれ派遣されて、
北高に生徒として潜り込んでいる、長門有希(宇宙人)、朝比奈みくる(未来人)、古泉一樹(超能力者)。
彼女たちはハルヒの現状維持と無用なリスクの回避を基本として、
キョンには協力を求めては自らの正体を明かす一方で、
世界改変能力を自覚させてはならないとの理由があって、ハルヒには彼女らの事実を伏せていた。
キョンを含めた4人はSOS団(世界を大いに盛り上げる為の涼宮ハルヒの団)のメンバーとして、
退屈な日常を面白おかしい日常に変えてしまおうという、
SOS団の創立者で団長であるハルヒの思いつきにつきあって行動していた。

物語は12月16日の冷え切った朝から始まる。
放課後、文芸部の部室でいつもと変わらないSOS団5人の集まり。
クリスマスを控えては、当日のクリパの開催を決めては一人ではしゃぐハルヒ。
役目があるとはいえ付き合いの良い団員たち。溜息をついてはヤレヤレとハルヒに接するキョン。
それは、いつもどおりのSOS団の日常であった。
翌17日も授業が終わってからの部室に集まって準備やらなにやらをやって帰宅。

そして、事件は18日に起こった。昨日までは何もなかったはずなのに学校で蔓延している風邪。
キョンの後ろのハルヒの席も欠席。ハルヒも風邪で休みか?と思ったキョンであったが、
その席の持ち主は、かつて自分を殺そうとして長門有希に消滅させられたはずの朝倉涼子であった。
表向きは転校したことになっているはずの朝倉にはそんな事実はなく、
キョンと周りの認識が全く噛み合わない。
加えて、強烈過ぎる性格で忘れようのないハルヒを誰もが知らないというクラスメイトの反応。
自分が知らない世界に置き去りにされていった感覚にキョンは酷く狼狽するのだった。

【感想】

『ビューティフル・ドリーマー』に多少は影響を受けているかな?と思ってしまったシナリオ。

元々がTV版ハルヒへの満足度が低い自分としては、
いつもと変わらないプロローグ部分にも作画が良くなった以外に感じること無し。

それが消失世界に移行したことで、雰囲気が一変して、
周りの登場人物から見れば錯乱しているに等しく、いつもとは異なる獰猛なキョンの姿に、
小理屈ったらしい長台詞で傍観者を気取ったヤレヤレモノローグ主人公ではなくて、
不安や苛立ちが隠せない感情の生き物としての素が見られて、
キョンに感情移入しやすくなりましたね。

『キョンにとってはハルヒとは何であったのか?』
面倒くさいハルヒにうんざりさせられてばかりの日常が如何にキョンに大切なものであったのか?
を自覚するようになる。それは視聴者におなじみの本質が変化してないハルヒとの再会シーンと、
その後のやり取りで共感性を呼び、ハルヒのハルヒらしさに救いを感じるようになるという、
キョンの心理を視聴者がトレースできるようになる見事な作りです。

原作でもキョンのターニングポイントにあたる重要なエピソードらしく、
キョン自身が自分自身と向き合い、これまで一貫して受け身であったのが精神的に変化する過程。
それは、まさしくキョンがこのエピソードの主人公であったということですよね。

いっぽうで長門有希が、このエピソードのキーパーソンではありますが、
TV版シリーズが『消失』の展開の伏線になっており、批判を浴びた例の『エンドレスエイト』すら、
『消失』の前提として必要な演出であったと理解できるようになりますね。

京都アニメーションの褒められる部分に日常芝居が常套句ではありますが、
仮に2006年のTV版と同じ演出では、あまり心に響かなかったと思います。

言語によるコミュニケーションは必ずしも伝えたいことを全部伝えられてるわけでもなく、
また、言葉が必ずしも真実とは限らないのを考えてみると、

沈黙で間を作り、目と目で感情をキャッチボールするがごとく、
例えばキョンと消失長門の間に存在する空気感を始めとして、そういった作画のお芝居の重視。
消失長門の可愛さが際立っている本作品ですが、自分としてはキョンの表現の変化が一番重要に見えます。

1期目で得た人気を無意味に持ち上げることなく、より良いものを作ろうと技術を磨き上げてきた、
それは単に絵として綺麗か?のみにとどまることなく、
京アニが動画屋として目指してきた、“作画の動きでキャラに存在感を与える”
を考えながら鑑賞すると、その細やかさに目をみはるものがある映画であると思います。

言葉が過剰気味であるキョンにきちんと作画でお芝居させたこと、そこが一番嬉しくもありました。

キャラを表現するのは作画と演出である。
そこから言外の感情の流れを読み取る能力が視聴者に必要とされる京アニの作風の確立。
発表時期が重なる『けいおん!』と並んで、
後の、『氷菓』『響け!ユーフォニアム』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
などの数々の後年の作品に影響を与えた映画作品でありますよね。

木上益治さんがレイアウトを監修して一原画マンとしても参加し、
武本監督や石立太一さん、山田尚子さん、内海さん(『Free!』監督)、高雄さん(『デレマス』監督)など、
数々の人材も一緒に原画スタッフとして参加して作り上げた、徹底した現場主義と学習と研鑽の成果物。

それは、この作品に関わった人たちの財産として後年の作品にも繋がっているはずです。
この彼ら彼女らプロフェッショナルの集団がアニメ制作で学び教えたことの一つ一つを、
絶やすことなく次の世代に繋いで欲しい。この映画作品を見ながら思うことがしきりでした。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2020/05/05
閲覧 : 421
サンキュー:

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