「ID:INVADED イド:インヴェイデッド(TVアニメ動画)」

総合得点
76.5
感想・評価
429
棚に入れた
1534
ランキング
706
★★★★☆ 3.6 (429)
物語
3.7
作画
3.4
声優
3.7
音楽
3.5
キャラ
3.6

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ネタバレ

雀犬 さんの感想・評価

★★★☆☆ 3.0
物語 : 3.0 作画 : 3.0 声優 : 3.5 音楽 : 3.5 キャラ : 2.0 状態:観終わった

ゲームの名は殺人

「そうそう、それ。意味判んなくて正解なの。そういう読み方するの。」
(‎舞城王太郎‎「九十九十九」より)

 本作のレビューはこの引用で十分のような気もする。タイトルの「イド」はフロイトの精神分析の用語で、本能的な欲求という概念である。ただこの作品が精神医学をベースにしているかというと、そうでもないと思われる。どちらかというとこの作品はゲーム的発想で作られているように感じた。

 話の概要を簡単に説明しておこう。主人公の鳴瓢秋人は元刑事。現在は殺人犯として収監されているが、この世界では猟奇的な連続殺人が相次いでおり、彼は「イド」というシステムのパイロットとして捜査に協力している。

 この「イド」システムなのだが、殺人犯の殺意を採取し、その殺意の世界にパイロットは「コックピット」という装置を使って入り込むことができる。パイロット適性があるのは連続殺人犯だけ、という設定がある。イドの世界に入るとなぜか「カエルちゃん」という女性の死体をいきなり発見する。なぜか主人公は現実の記憶を失っているが、自分は名探偵であるという自覚と、「カエルちゃんの死の謎を解かなくてはいけない」という使命感がある。その意志は凄まじく強固であり、謎を解くためには雷に打たれようが高所から落下しようが銃で撃たれようが構わないという徹底ぶりである。

 主人公が頑張って謎とやらを解き明かすと、現実の殺人事件の手掛かりらしきものが浮かび上がる。探偵に現実世界の記憶はないので、システムの外部から謎を解くのを見届けている分析官たちが、ピンポイントで犯人の割り出しに成功する。「え!そんなので犯人分かるのかよ」と突っ込む間もなく、無事に殺人犯を捕まえて1話終了、という流れである。

 凄いことに、このシステムの科学的・論理的な説明、それらしきものは作品を通して一切ない。カエルちゃんの死の謎よりイドシステムの設定の謎が多すぎるだろ!とブチ切れそうになるが、怒っては負けである。なぜならイドシステムの設定は、ゲームのルール設定と同じ感覚で作られているからである。ゲームの設定に道理は無用。本作の設定とシナリオをもう一度振り返ってみる。

 【プレイヤー】はコックピットという【筐体】を使ってイドというゲームを【プレイ】することができる。カエルちゃんの死の謎を解くことはゲーム進行に必要な【イベント】であり、1つクリアすると【フラグ】が立ち、殺人犯という名の【中ボス】を倒すと次の【ステージ】に進むことができる。途中謎解きに失敗しても、何回でも【コンテニュー】することができる。「酒井戸、死亡」「酒井戸、排出」「酒井戸、投入」と、主人公が消耗してようがお構いなしに、非人道的にイドの世界に出入りさせている場面がシュールだったが、ただのコンテニューという感覚なのだろう。イッツオートマチック。

 途中で富久田や本堂町が参戦してゲームは【マルチプレイ】モードになる。もちろん中ボスを全て倒すとジョン・ウォーカーなる【ラスボス】が現れる。彼を倒せば、謎がいくら放置されていてもゲームクリア。【感動のエンディング】が待っている。

 ・・・ということなんだよ。やっぱり良く分からないという人は「ゲーム的リアリズムの誕生」という本を読むと良い。たぶんもっと分からなくなる。
 
 そんなことより、このアニメが面白いかどうかという話をしなければならない。低い点数付けているから予想できていると思うけど、あんまり面白くなかった。ミステリの三要素は、言うまでもなく「フーダニット」「ハウダニット」「ホワイダニット」なのだが、本作はこの三要素が壊滅的なことになっている。

 イドの世界に入るなり、カエルちゃんの死体があり、酒井戸が謎解きを始める。しかし見知らぬ他人ばかりのイドの世界で誰が殺したのかなど知る由もない。イドの世界は無意識の世界で、物理法則も無視できるようなので殺人の方法などどうとでもなってしまう。それこそ何でもありの世界だ。なぜ殺されたのかに至っては、毎回意味なく殺されているのだから推理もクソもない。イドの世界での謎解きは、はっきり言ってつまらない。自称名探偵がどうでもいい謎を勝手に解くのを見るだけの時間である。困ったことに、本作は作画がいまひとつ(特に美術が弱く感じた)なのでイドの世界は視覚的にも面白みに欠ける。

 「ID:INVADED」は現在発生している連続殺人の捜査に加え、連続殺人犯を生み出しているとされる黒幕、ジョン・ウォーカーを捕まえるという大きな目標がある。しかしジョン・ウォーカーに関しても、犯人に意外性はなく順当に怪しい人物だし、イドシステムに関する謎も彼の口から明かされることはない。(まぁ説明してくれるはずもないのだが)そして動機がくだらなさすぎる。「神のような存在になりたかった」ってなんだよ。その歳で中二病か。

 他にも気になる点がある。ジョン・ウォーカーをイドの中のイドに幽閉することで解決としたが、相も変わらず現実では猟奇殺人が起きている。イドシステムを稼働させるために飛鳥井木記は今日も悪夢に魘されるだろう。何も解決などしていない。続編を作りやすくするためなのか?二期を作る余地を残すことがそんなに大事なのか?

 主人公は精神攻撃で人を自殺に追い詰める残虐なサディスト、ヒロインは死に異常な関心を持つサイコパスのまま変わらない。ラストシーンに至っても、二人は殺人事件の発生に待ちかねていたような表情をしている。絵面だけ感動的なシーンを作るのはやめて欲しい。本作は虚構であることに自覚的であるがゆえに、死が記号化され、正義というものが存在しない。

 ゲーム的発想で作られた設定に目新しさはあれど、ミステリの本質的な面白さを見失っては本末転倒ではないか。ミステリの醍醐味である知的な快感は得られなかったし、それに代わるような魅力も僕は感じなかった。

投稿 : 2020/04/18
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サンキュー:

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