薄雪草 さんの感想・評価
4.3
物語 : 5.0
作画 : 3.5
声優 : 4.5
音楽 : 3.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
焦燥は背中から、渇望は眉間から。
人は誰もがストーリーテラーになれます。
善いことも、悪いことも、自由自在です。
簡単な話です。
そう思えばよいのですから。
そう書けば、よいのですから。
但し、条件が "一つだけ" あります。
書き手とキャラの "自由の範囲" 、です。
〜 〜 〜 〜 〜
イドの中に入れるのは、複雑怪奇なシナリオを読むに相応しい者ばかりです。
鳴瓢(なりひさご)は、その一人のようです。
ただ、彼の記憶は不要みたいです。
名前も、来歴も。
なんなら未来も。
彼に与えられるのは名探偵という名。
彼が手にするのは、黒く塗りつぶされ、バラバラになった台本です。
それが彼の舞台で、役まわりみたいです。
彼の推理は行動を、行動は意識を構築します。
名探偵にとっては、イドは生きる意味を見いだせる場所みたいです。
たとえそこが
思念粒子をブーストさせた世界、
作意に満ちた虚構の世界であっても。
〜 〜 〜 〜 〜
残された殺意をたよりに、推理の糸が紡がれていきます。
種明かしが図られるにつれ、新たな登場人物がイドに招かれます。
名探偵は、いつか己が名を知ることとなり、己が人生をイドの中に作り直していきます。
名探偵は、イドの中で鳴瓢(なりひさご)の台本を書いていくのです。
奪われた時間を、取り戻そうとするのです。
イドには、加害者の殺意=動機=因果の法則が隠蔽されているようです。
まるで、底無しの "アビス"
行き先不明の "どこでもドア" みたいです。
入口は出口につながり、上が下を支え、後ろは前を見つめ、光は闇に入れ替わります。
あらゆる記憶の粒子が、遺物然として顔をのぞかせている感じです。
"イド" は、名探偵によって観測され、評価されていくのです。
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どこの誰なら、演じきられるのでしょう。
なぜ、やり遂げなければならないのでしょう。
どの場所へ、カエルことが望ましいのでしょう。
事実とは、一つきりの評価のこととされていますが、
真実には、無数の評価が与えられるものだと思います。
でも、そんな都合のいい解釈ができるものなのでしょうか?
それが、できるのです。
穴のあいた、頭になら。
イドに設えられた、書斎でなら。
イドが招き寄せた別の人格の自分に、なら。
~ ~ ~ ~ ~
彼は、鳴瓢秋人は、収監されています。
名探偵・酒井戸に、自由はあるのでしょうか。