かがみ さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
セカイから日常へ
本作の特徴は、セカイ系的な想像力から出発しつつも「無力な少年」が、その位置を脱して曲がりなりに「父」の位置を引き受ける所までを描き切った点にある。こうした想像力の源泉はおそらく村上春樹氏に由来すると思われる。例えば本作でも物語の重要な鍵となる「幻想世界」は村上氏の代表作の一つである「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」の影響を色濃く受けているとされる。もっとも「世界の終わり」の倫理的作用点が前期村上作品を象徴する「デタッチメント」であったのに対して、CLANNADにおける倫理的作用点はむしろ、後期村上作品で打ち出された「コミットメント」にある。
当初の朋也は、痛めた肩と堕落した父親を言い訳に傍観者気取りで現実から逃げ回る「デタッチメント」に終始していたが、渚の真摯さ、熱さ、純粋さに徐々に心を動かされ、自らも泥まみれになりながら人生へと向きあう「コミットメント」へと踏み出していく。
この成長の過程は今観ても心を打たれる。「CLANNADは人生」という評価は決して大袈裟ではないと思う。けれども同時に、本作に対してはコミットメントのコストをヒロインに転嫁する搾取的構造があるという村上作品に対する批判と同様な批判が当てはまってしまう所がある。こうした本作の限界性は美少女ゲームというジャンルの限界性に他ならない。
しかしながら一方で、本作にはまた別の想像力を胚胎させている。本作のもう一つの特徴は主人公とヒロインの性愛的関係性のみならず、ヒロイン相互の友愛的関係性にも光を当てている点にある。
こうした想像力の中には、ゼロ年代後半以降に花開いた「日常系」の萌芽を見る事が出来ないだろうか。そういった意味では本作は「セカイ系」という前世代の想像力から「日常系」という次世代の想像力にバトンを渡す役割を担った過渡期の作品だったとも言える。