STONE さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
「好き」から生まれる情熱が原動力
原作は未読。
高校生の部活によるアニメーション制作を描いたもので、アニメ制作というと
「SHIROBAKO」を思い出したりしたが、あちらがプロの現場を描いたものゆえに多くの人間が
関わっているのに対して、本作は部活ゆえに少数で制作に臨んでおり、中心となるのは
浅草 みどり、金森 さやか、水崎 ツバメの3人。
少数ということもあってか、この3人のキャラがよく立っており、いずれも魅力的。
それぞれの長所を活かして、同じ目標に向かっていくという王道展開もいい。
アマチュアゆえに「好き」という感情のみでアニメ制作に打ち込んでいく様は心打たれると
共に羨ましくもあったり。
この3人は個としても充分魅力的だが、その関係性ややり取りもまた面白い。
関係性という点では、作中でも言っていた「友達ではなく、仲間」という意識ゆえか、
いいものを作るための我欲を遠慮せずにぶつけ合いつつ、それでいてドライな感じがしない
ところがいい。
それぞれの趣味、こだわりなどは互いに相容れないものがあると分かっており、それでいて
相手のそれを否定しない姿勢も素晴らしい。
やり取りという点に関してはそれぞれのワードチョイスとそれによる掛け合いがそれで、特に
ワードチョイスに関しては随所に昭和感溢れる文言が飛び出してくるし、浅草氏の古い
言い回しも面白い。
この3人の中の人の演技も魅力に一役買っており、金森役の田村 睦心はさすがといった
ところだが、田村 睦心と言うと普段は浅草氏のような役が多い印象のため、それが逆に
面白かった。
浅草役の伊藤 沙莉は本業は女優さん、水崎役の松岡 美里は新人さんで決して正直上手いとは
言えないが、逆に話数が進むに連れ、ドンドン良くなっていくのが分かる。
あと伊藤 沙莉に関しては地声のハスキーボイスがとにかく印象強い。こういう声質は汎用性
こそ低いものの、逆にそれに合った役に出会うとドはまりするが、今回はそういう印象。
キャラに関しては他には音響部の百目鬼、生徒会のさかき・ソワンデ、ロボ研の小野などが
印象に残る。
アニメ制作ということに関しては前述の「SHIROBAKO」に較べて、より細かい技法などを
取り上げていたのが興味深い。
こういったミクロ的描写を見せつつ、マクロ的な金森氏のプロデューサー的役割をも
描いていたのが面白い。
アニメ作品で描かれた作品制作のプロデューサー的業務と言うと、「SHIROBAKO」の
渡辺 隼や「ガーリッシュナンバー」の九頭のように外部との折衝、あるいは
「冴えない彼女の育てかた」の安芸 倫也のようにコンセプトを打ち立て、それに沿った人材
集めといった部分が思い出されるが、本作におけるそれはスケジュール管理や問題点に対しての
対処などプロジェクトマネージャー的業務に焦点を当てていた点が興味深い。
また浅草、水崎がアーティスト気質なこともあって、アートをちゃんとした商品として完成
させるためのかじ取りも結構重要な仕事だったみたい。
具体的作業という点では浅草、水崎の二人だけでもできたのだろうが、二人だけなら収拾が
つかなくなっての頓挫、品質にこだわるあまりの大幅な遅延など充分にありそう。
現実でもアイデアは面白いのにまとまりのない作品が見受けられることもあるが、ああいう
作品は「原作者なり、監督なり、脚本家なりのアート性をうまく制御できる人が
いなかったのかな?」と改めて思ったり。
SF心をくすぐられるのが浅草氏の妄想シーンで、これが現実世界と自然な流れで
つながっていくのが面白い。
それでいて現実と妄想では絵のタッチが変わっているために混乱しなくて済むが、そういった
演出的なものを抜きにしても妄想世界のタッチが浅草氏のスケッチがまま動き出したようで良い
味わいがあり、この妄想世界でのキャラ自身の声による擬音も面白い。
浅草氏の妄想だが、アニメに限らず、漫画、小説、映画、ドラマなどいわゆる「お話」が
好きな人はこういう妄想をする人は多いんじゃないかと思う。
こういう妄想を他者に表現できるかたちにできる人がクリエイターになるのだろうなと
思ったりしますが。
かくいう自分も妄想自体はすることが多く、そういう点で浅草氏に共感できたりする。
他にも部室の秘密基地感にワクワクしたり、日常の街並みに色々な面白さを見出したりと、
浅草氏の厨二病というか、子供心が残っているような感じが凄くいい。
世界観や設定などのバックグラウンドも興味深く、特に芝浜という町の状態、構造などが第二の
主人公というぐらいに面白く、その作画も素晴らしい。
背景美術や舞台設定に関しては放映時期が同クールである「ドロヘドロ」と並んで
素晴らしかった。
芝浜という町だけでなく、その中にある芝浜高校も多彩な部活などが面白く、更に今より
50年後という設定だが、移民が増えたのか、白人や黒人とおぼしきキャラが多かったり、逆に
風俗などは今と変わっていなかったりとか、昔流行った言葉が使われていたりと、その背景を
想像するのも楽しい。
芝浜の構造や最終話の芝浜から地球に至る引きの映像を見るに相当大きな地理的変化が
あったようだが。
構成的には3本のアニメ作品制作を描き、それによって4話×3本といった形になっていたが、
それぞれの最終話では劇中劇のアニメ作品を割とちゃんと見せてくれることで、制作成果が
締め要素の一つとしてうまいこと機能していたみたい。
もっとも最終話の「芝浜UFO大戦」は視聴者がカタルシスを得るような出来にはなっておらず、
その辺では賛否両論ありそう。個人的には浅草氏も感じていたように改善すべき点が多い出来と
いうのはこの先を映像研、並びに浅草氏の成長の余地を残しており、これはこれでありかなという
感じでしたが。
ただ外部の高評価という形で丸め込んでしまった感のあった学校、及び生徒会との軋轢、
「芝浜UFO大戦」の町おこしとしての意義などはもうちょっとちゃんと描いてほしかったかな。
水崎氏の箸の持ち方や変な走り方などに代表されるように、何気ない部分が伏線に
なっていたりと演出的に面白い部分が多く、随所に挟み込まれるパロディも楽しい。
2020/03/28
2020/03/29 誤字修正
2024/12/30 加筆・修正