ウェスタンガール さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
観察者としての旅人
原作は、言わずと知れたベストセラーライトノベル。
作者の時雨沢恵一も影響を受けたとしている通り、銀河鉄道999を思い起こさせる設定も見ることができる。
しかしながら、真っ先に思い浮かべたのは、アーシュラ・K・ル・グィンの『風の十二方位』、中でも「オメラスから歩み去る人々」である。
(非常に感情を動かされる作品、わずか数ページではあるが…)
彼もまた、松本零士と同じく軍事オタクであり、銃マニアでもある。
(ペンネームの由来も彼の持っていた銃、SIGザウアーからきているそうで、詳しく見比べたわけではないが、作中、重要なシーンで登場する筈だ)
主人公のキノが旅する国々は、そこに住む人々の顔、人間の持つ種々の側面を映し出す鏡として描かれており、主人公はその観察者である。
余り出来の良くない寓話は、時に説教臭くなったり、押しつけがましいものとなりがちである。
対して、キノは教訓めいた言葉を発することも、問いかけはすれど論評することもない。冷徹な観察者として旅を続けてゆく。自分の身を守る以外には決して介入をすることもしない。
感情を露わにし、正義を振りかざす冒険者ではないのだ。
しかし、キノ自身も感情を持ち、過去を持った人間であるがゆえに、理不尽さに抗う人々の手助けをしようとすることがある。
旅人にとって大切なこと、それは「決して死なないこと」と、作中でキノは何度か語っている。
この葛藤の中で生まれるドラマも、この物語の魅力の一つだ。
「serial experiments lain」の監督、今は亡き中村隆太郎氏の感性が共鳴し、そこには独特の世界観が醸し出されている。
中村監督自身も、宮沢賢治をこよなく愛する者の一人として、この作品にシンパシーを感じていたに違いない。
作画は、非常に抑えられた色調で、アナログ放送的な横線のノイズ混じりの画面となっており、別次元から映し出された幻灯を見せられているような、或いは、パピルス紙に記された古代の文書を紐解くような、不思議な感覚にとらわれるのである。
俳優の前田愛と相ケ瀬龍史が演じるキノとエルメスの掛け合いも、努めて感情を押し留めた演出も手伝い、この世界にはピッタリの配役といえよう。
そして、OPとED。曲、アニメともに素晴らしい出来である。特にオープニングでキノがリボルバーを振るうシーンのアングルと切り返しは、数あるアニメのガンシーンの中でも一番の出来ではないだろうか。
(最後に、最も気に入ったお話)
第九話-本の国-
何が真実で何が嘘か、現実と虚構が入り混じったお話であった。
冒頭から、幽霊戦車(メルカバ?74式?)との問答でけむに巻かれる。
世界の本が集まる国で、キノが出会う小説家というレジスタンスと評論家たち。
{netabare}「批評家はうんちくを垂れるだけの輩、したり顔で本を採点して悦に入っている連中、作品を貶して偉くなった気でいる者達、やつらは人の楽しみに水を差す亡者どもだ」{/netabare}
つまらぬレビューを書いて悦に入っている我が身…、刺さる。