USB_DAC さんの感想・評価
4.8
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
過去最高のアンサンブルでした(苦笑)
★物語
・原作 : 武田 綾乃 ・演出 : 山田 尚子 他
・監督 : 石原 立也 ・脚本 : 花田 十輝
原作『波乱の第二楽章』を主とした作品。更に多事多難を増す人間関係。
その障壁を越えながら、ひとつの音楽を完成させていく王道ストーリー。
しかし劇場版という尺の問題か、そこに焦点を絞る故に、コンクールに
向けた練習の過程と三年生達が奮闘する姿は抑え気味。原作を良く知る
人には少々物足りなさが残るかも知れません。とは言え、単体としては
非常に良く纏まっているのは確かです。恐らくいずれ発表されるだろう
最終楽章編を含めたプロットに準ずる内容なのだと思います。
★作画
・作画監督 : 池田 晶子 、西屋 太志
・美術監督 : 篠原 睦雄
・色彩設計 : 竹田 明代
雅さを感じる京都の美しい背景。明るい色使いで描く宇治橋や川東公園、
青を基調とした大吉山展望台の夜景は相変わらず見事。もはや作画に於
いては語る必要など無い。そのくらい完成された作品です。
★声優
・久石 奏(ユーフォニアム): 雨宮 天
・月永 求(コントラバス) : 土屋 神葉
・鈴木 美玲 (チューバ) : 七瀬 彩夏
・鈴木 さつき(チューバ) : 久野 美咲
新たな声優陣で特に印象的だったのは、さつき役を演じた久野美咲さん。
一味違う個性的なその声は、他の三人とは正に対称的。次第にシリアス
さを増すシリーズにとって、今後も場の雰囲気を変える貴重なスポット
的キャラとして重宝される気がします。
そして久石奏役の雨宮天さん。礼儀正しい理想的な後輩の陰にちらつく
狡猾さの演技は実に見事。嫌らしく相手を蔑むような巧みな言葉回しは、
胃がキリキリする程の好演でした。w
★音楽
・主題歌:「Blast!」 / TRUE
・音楽 : 松田 彬人
コンクールの合奏曲「 リズと青い鳥 」。フルートとオーボエの美しさ
は勿論、ティンパニーの迫力には本当に圧倒されました。歴代の作品の
中でも明らかに最高と言っていい演奏だったと思います。
★キャラ
・キャラクターデザイン : 池田 晶子
香織に良く似た可愛らしい容姿を持ち、普段は後輩らしさを演じながら、
先輩である久美子や夏紀に平気で本音を巻き散らす久石奏はやはり強烈。
しかしその真の実力と今までの努力を認め、自分と同じ辛いトラウマを
持つ者として、最後まで優しく癒そうとする久美子もまた凄かった。
そして気になるもう一人の異端である月永求。露骨に名字で呼ばれるこ
とを忌み嫌う理由は一切明かされず。その切っ掛けとなる人物はほんの
一瞬だけ登場していましたが、果たして三期でその経緯は暴かれるのか。
葉月の言う「血統書付きの捨て猫」は実に的を射ていて少々笑えます。
[感想]
久美子達が高校生活をスタートして早一年。北宇治の吹部にまた新たな
風が吹き荒れる。全国という変わらぬ目標を目指す中で、自身の立場や
人間関係を顧み、再び体制を整える季節。進級して初めて知る先輩達の
苦労。そしてまたひとつそれぞれが心の成長を遂げる。これがある意味
リアルな部活動、そして学校生活を送るということなのでしょうね。
物静かでコミュニケーション能力に劣り、自ら孤立してしまう美鈴や求。
口は達者。けど常に自己の保身に走り本心をなかなか見せてくれない奏。
そして人懐っこくて明るいさつきなど、一癖も二癖もあるメンバー四人
が低音パートに加わったことで、初日早々、妙な緊張感が漂い始める。
彼女等が持つ上級生をも凌駕する実力。それが生む内に秘めた強い自信。
本来それは臆せず前を進む上でとても大切なものです。しかし、過ぎた
自信は時に周囲を見下し、己が持たぬ別才に嫉妬しては苛立ちを見せる。
そんな自ら厚い壁を築く奏と美鈴に対して、真正面から向き合う久美子。
奏が頻りに問う「頑張るって何?」。それはきっと大好きなものに夢中
になれるということ。好きだからこそ結果に囚われず、純粋にその価値
を見い出すことが出来る。上下関係や周囲の目、極度にしがらみを意識
した行動からは、決して物事の真の楽しさや飛躍的な成長は生まれない。
そしてそこで得た喜びや悔しさ。頑張り続けた者にしか得られないもの。
メンバーに選ばれた者、選ばれなかった者それぞれがそれを理解し信じ
合うから、全力で努力し互いがサポートする美しさが生まれる。その後
美鈴と抱き合う葉月とさつき、悔しさに涙する奏がとても印象的でした。
それにしても「リズと青い鳥」の演奏は本当に痺れました。コンクール
用に編曲されたこの楽曲。ドラマティックで美しい旋律を聴いていると、
改めて童話の世界と物語を思い出し感無量です。メロディに沿うハープ
の指使い、息継ぎの瞬間まで描写する細かさ、そして立体的に飛び回る
カメラアングルは酔うほどに素晴らしく、演奏もほぼ完璧に感じました。
ただ原作に沿っているとは言え、この内容での落選は残念でなりません。
次はいよいよ物語の最終章。原作通りの波乱の展開、あるいは新たな驚
きと感動が待ち受けているのか。そして葉月の初ステージと全国制覇を
どう描くのか(頑張れ葉月)。その瞬間が待ち遠しくて仕方ありません。
[ちょこっとだけ趣味の語り]
{netabare}
この劇場版が公開された2019年、第67回全日本吹奏楽コンクール
高校の部で見事金賞を受賞した8校の中で、特に印象に残った中国代表
岡山学芸館高等学校。自由曲「巨人の肩にのって/P・グレイアム」の
圧倒的迫力とスピードは最早高校レベルを遥かに超える鳥肌が立つ名演。
今現在もYOUTUBEにて一般公開されていますので、高校生の実力、
そして北宇治高校が目指すレベルを知る上でも、是非一度ご覧になって
頂きたい演奏です。因みにこの「巨人の肩にのって」はブルックナーの
交響曲第8番第四楽章を元に生まれたブラスバンド用の編成曲。かつて
アイザック・ニュートンが語った一節に掛け、偉大な先人・音楽家達に
敬意を込め作られた壮大且つスピード感溢れるブリリアントな一曲です。
{/netabare}
以上、拙い感想を読んで頂きありがとうございました。