なばてあ さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
芸術意志によるアフィン変換の日祷
すでにいろんなヒトが指摘していることだけれど、やっぱりまず言いたいのは、あの完結した名作に対して付け足しを敢行したことに賞賛を!ということ。鑑賞者のハードルが青天井になってしまうことは避けようもないのに、なおも物語を深化させることを止めなかったスタッフに拍手を送りたい。
いまはいろんな泣きアニメがそこいらにとっちらかっているけれど「かなしみ」や「くるしみ」や「安堵み」で涙腺を刺激するアニメはめずらしくない。けれども「カッコ良さみ」で涙腺を破壊するアニメは、寡聞にして、シュタゲしか知らない。鳳凰院凶真が再降臨した瞬間、記憶が飛ぶくらい感動した。
おかりんが元気ないままズルズルと話が進む前半の評判が良くないけれど、ストーリィ構造的にあれは必要な鬱パートであるにちがいない。『無印シュタゲ』視聴後の感動の記憶をいったん括弧に入れないと、凶真の再降臨のインパクトがどうしても小さくなる。すべてはあの決めポーズのあの高笑いに賭けられているのだから。
基本、全肯定。ただ、難点は以下のふたつ。
ひとつめは過酷すぎる設定。ちょっとSFマニア以外のぱんぴーには、設定のすべてを追いかけるのが難しくなってしまったということ。とりわけ、世界線。『無印』では都度、ダイバージェンスメーターの表示でいまどこにいるのかが明らかになったけど、『ゼロ』ではそれもなく、世界線変動の瞬間がわかりにくい。
わからなくてもストーリィを追いかけることはできるけど、でも、ストーリィの肝である世界線変動の瞬間がつかまえにくい。リーディングシュタイナーの発動がその表現であるはずだけれど、でもすべての発動が画面に映ったわけではない。とりわけ、一番気になるのは {netabare}シュタインズゲート世界線への移動の瞬間。{/netabare}それはいったい、どのタイミングなのか。
もちろんいろいろ考察サイトもあたってみた。諸賢の深甚なる考察にはうならされるほかない、・・・というか正直、すべてを理解することさえ難しい、か細くこんがらがったロジック。とはいえ、いろいろ手がかりになる仮設を参照することはできる。おそらく尊敬すべきシュタゲフリークの意見を総合すると、それはふたつに集約される。
ひとつは {netabare}2025年、おかりんがオペレーションアルタイルを敢行してから、2通のムービーDメールを送信する瞬間。{/netabare}もうひとつは {netabare}2036年、鈴羽がオペレーションスクルドを敢行するべく、C204号で過去に跳躍する瞬間。{/netabare}・・・このふたつのうち、さらに合理的に突き詰めるとすれば、後者が正なのだろう。
・・・そして、このシュタインズゲート世界線に、 {netabare}ゼロおかりん(通称執念おかりん)の居場所は、ない {/netabare}。なんという切ないストーリィなのか。パラレルワールド理論ではなくアトラクタフィールド理論で行く以上、これが論理的帰結ということになるのだろう。そんな絶望的な状況なのに、{netabare}あの最終話ラストカットのどや顔{/netabare}ときたら。
考えれば考えるほど、シュタインズゲート世界線への移行条件はコストが高すぎることがわかる。『ゼロ』に鑑みると『無印』はなんと脳天気な世界観なのか。ハードボイルドにも程がある。こんな過酷な設定のアニメがよくもこれほど人気を博しているものだと、ほとほと呆れかえるくらいに、感心する。
ふたつめの難点は作画。これは『無印』と比べざるを得ないという桎梏ゆえの指摘だけど、『ゼロ』のスタッフに、『無印』でキャラデザ・総作監を務めた坂井久太氏がいなかった影響はじつはすごく大きい。『ゼロ』の印象がどこかゴツゴツとした引っかかりがあるとすれば、それはあの過酷すぎる設定のせいだけではない。
そうではなく、坂井氏のまるっこいキャラデザや、しなやかな動きが失われたからだと思う。『ゼロ』のキャラデザや動きもけっしてそれ自体、つたないものではないのだけれど、けれど、相対的に比較すると、どうしても物足りなく感じてしまう。無骨なデザインだからこそ、執念おかりんのどや顔が男らしく映えるというのはたしかにある。
あるのだろうけれどでも、男らしくもどこかキュートなのが本来のおかりんの魅力ではなかったかと、思ったりするのだ。坂井作画の喪失については、あまり『ゼロ』批評で触れられることがないので、ぜひここは強調したいと思った。逆に言うと『無印』の作画はいま見てもなお、すさまじい魅力にあふれているということだ。
あとは些末なこと。とはいえ『ゼロ』の魅力も尽きせぬもので、{netabare}まゆ氏はもちろんのこと、萌郁やるか、フェイリス、ミスターブラウンなど{/netabare}『無印』での存在感が限定的だったキャラクタたちが縦横無尽に活躍しまくる点は、構成の精度の高さを感じさせる。続編とはかくあるべきだというお手本のよう。
『無印』の射程をより長く遠くまで拡張することに成功している時点で、この作品は二番煎じなどという消極的評価で終わらせることはできない。『無印』を見たなら、ぜったい、最後まで完走してもらいたい。『無印』のラストや『劇場版』がよりいっそう、とうとみあふれるものに感じられる、そういう世界線に移行できるから。
衝撃:★★★☆
独創:★★★☆
洗練:★★★★☆
機微:★★★★☆
余韻:★★★★