なばてあ さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
応力ひずみ線図におけるキュビスム的陰影
原作未読。
蠱惑的な解像感の高い世界における、予断を許さない残酷な展開、美術と音響のはてしない完成度の高さ、グリグリ動くバトルシーンの作画の良さみ・・・というと『{netabare}メイドインアビス{/netabare}』と重なる。とはいえ、その作品の根幹以外の部分は大きく異なる。こちらはずっと同じ小さな島が舞台。また、こちらは登場人物がとにかく多数。さらにこちらは、頭身高めのスマートなキャラデザ。そしてこちらは、フルCG。
誰もが指摘していることなので、いまさらわたしが言うまでも無いことだけれど、宝石の擬人化ものという内容と、フルCGという方法が、ベストマッチすぎる。耽美に針を振り切ったキャラデザと相まって、とにかく作画の見栄えが良すぎる。いわゆる手描き作画とのズレが、あらゆるカット、すべてのコマ、一瞬一秒、プラスにはたらく。他のキャラクタ作画との違いを認識するたびに宝石たちのリアリティが増す。
どこか得体の知れない、フラットな平穏、ゆるやかなデッドエンドが基調なので、バトルシーンが挿入されることはあっても、雰囲気は「日常系」である。そこはちょうど同じクールに放映された『{netabare}少女終末旅行{/netabare}』に通じるところがある。わたしがこの作品に強く惹かれるのはそこだろう。「日常系3.0」的なスマートさがある。心理的緊張や不穏な動向がありつつも、世界の輪郭が帯びる靱性のために、それらはすぐに凪いでいく。
・・・少なくとも、凪いでいくように、見える。その距離。その屈託。その留保。ヒトによってはそれを「文学的リアリティ」と名指すのかもしれない。わたしはそう呼びたくないのだけれど、別の言い方が思い浮かばない。ただ『{netabare}アビス{/netabare}』や『{netabare}終末{/netabare}』と際だって違う点があるとすれば、主人公フォスがどんどん変化していくところだろう。成長、とは言えない、変化。
「とは言えない」ところが切なくて悲しくて、眼が離せない。「とは言えない」ところにこの作品のアイデンティティが、賭けられている。どんどん、どんどん、フォスから目が離せなくなる。彼がそこにいることが悲しいし、彼が先に進むことが切ない。フォスの見た目が変わるたびに、彼の組成(内面)は変わっていって、それが成長だなんてわたしは口が裂けても言いたくない。ぜったいに。そのくらいこの作品が、好きだ。
フォス役の黒沢ともよさんは好演。『{netabare}響け!ユーフォニアム{/netabare}』と同じくすごくナマっぽい、挑発的な表現を選ぶなら、すごくアニメっぽくない演技で、彼女の声がもたらす違和感も、すべてのシーンでポジティブにはたらく。ヒトっぽさが強調されることで、逆説的に、宝石っぽさが際立つ構造。またアンターク役の伊瀬茉莉也さんも控えめながら印象的な演技だった。『{netabare}アビス{/netabare}』とはまったく趣がちがって、どちらも、すごい。
この作品が苦手なヒトは少なくないだろう。キャラデザが耽美系になるとどうしてもその磁場からはじかれてしまう視聴者が増えてしまう。でも、このキャラデザには必然性がある。あんまり自分の見たアニメを他の人に勧めることをしないわたしだけれど、『{netabare}Occultic;Nine{/netabare}』以外でそんなことしたこともないはずだけど、この作品では禁を破る。未見ならぜひ、見てもらいたい。
衝撃:★★★★☆
独創:★★★★☆
洗練:★★★★☆
機微:★★★★
余韻:★★★★