ぺー さんの感想・評価
4.6
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
明日も仕事を頑張ろう!
オリジナルアニメ全24話
「万策尽きた」のパワーワード。2019年夏の痛ましい出来事。視聴を牽引したのはこの2つです。
深夜アニメデビュー期。作中の木下監督のモデルになった水島精二監督の『BEATLESS』が何度も放送回を飛ばした挙句、点滴の写真に添えて「万策尽きた」と。BtoCのコンテンツ商売であっさり内部事情さらけ出すんだーと一般の社会人目線でいぶかしく思ったあの頃の私。サービス提供する側がたいへんだアピールなんておかしいでしょ?普通(笑) 変な話、もう慣れちゃいましたけど。この「万策尽きた」の語源となった作品とのふれこみです。
それと昨年の夏によく耳に入ってきた「今『SHIROBAKO』観たら…」の声。餅は餅屋でお仕事アニメとしての信頼感は高いことに疑う余地はなさそうです。
そんな強いひっかかりがあって、それでも作品の制作過程知ったところでという気持ちもあり、とはいえ結局好奇心が勝っちゃうみたいな複雑な乙女心。某武蔵野ア…じゃなくて工場で「麦とホップと水だけで作ってます」と聞いて膝を打つような感動体験。工場見学が好きな元少年少女は観ておいて損のない作品になるかと思います。
例によって劇場版を控えての地上波再放送での初視聴でした。アニメーションの制作現場をアニメーションしてる著名な作品です。舞台はアニメーション制作会社中心にはなるわけですが、同時進行で“上山高校アニメーション同好会”の同窓である5名の若い女の子たちの<その後>とドラマを絡ませて業界を活写してるのはうまかったですね。しっかり若人の成長や友情の物語となってます。
【職種がばらけた同好会OG】
宮森あおい(CV木村珠莉):制作進行
安原絵麻(CV佳村はるか):アニメーター
坂木しずか(CV千菅春香):声優
藤堂美沙(CV髙野麻美):3DCGクリエイター
今井みどり(CV大和田仁美):大学生(脚本家志望)
あーひとつクレーム。制作過程がわかると喧伝された本作品。コレほんとかなぁ。みんなすごいよ。
専門用語を矢継ぎ早に連発してくるんでついてくので精一杯です。話の前後関係で想像しながら、理解してるものと自分に言い聞かせてました。
技術的なのになるとさらにハードル上がります。
{netabare}「動画が拾いにくい線 中割りしづらい 動画が溶けちゃう」{/netabare}
うーん、わかるようでわかりません。ただしクレームはここまで。
全24話の劇中で2つの作品を制作した武蔵野アニメーションさん。
よくわからんかったのは一本めまで。二本め制作の頃には新人(新卒?)が入社し、この新人さんらに説明するという体であの手この手で解説がなされこちらの頭にも内容がすーっと入ってきます。
わざとでしょう。右も左もわからない新人の気分を味あわせる前半1クール。
…からのおいちゃん(みゃーもりとも言う)と一緒に成長していった我々視聴者です。
一本め『えくそだすっ』は第1話~第12話、二本め『第三飛行少女隊』が第13話~第24話とちょうど半分こ。うまいことやりおるわけです。
実際の現場がどうかは知る由もないわけでこういうもんだと理解しました。そうそうは外してないでしょうから重箱の隅をつつく必要性を感じません。それに変な話、本場インドのカレーと似ても似つかなくても、元祖大陸に無いと噂の中華そばの存在だって、普段食べてるカレーとラーメンは美味いのです。
{netabare}働いていれば直面するあれやこれや{/netabare}
{netabare}アニメ制作を通して普遍的なことを描いてます{/netabare}
仮に本場インドやChinaと違っても美味いカレーとラーメンということで良し!
私のプロフにも書いてますが、『ご都合展開』は気にせず作品に通底するメッセージに共感できればOKな人なんです。
・一長あって一短ある人たちの調整は職人技ですよね
・新しい技術(潮流)への受容と拒絶ってありますよね
・枯れたとみなされてる人材を再評価したり適材適所で活躍してほしい
・初心に戻るってシンプルだけど重要
・工程管理の精度の高さは基本 でもやるのは感情を持った人間
・夢や志。現実を目の当たりにしてからの身の処し方は?
・同業でも業界の光を多めに浴びた人。闇ばかりを見てきた人。
挙げきれません。劇中作品は二本あってそれに沿って物語が流れていくわけですが、お仕事のなにかしらの気づきは毎話一つはあるんじゃなかろうか。それと同様に、共感できる登場人物も誰かしらいることでしょう。
どこに引っかかるかは各自違うでしょうが必ずなにかしら共感できたり気づきのある場面には遭遇できると思います。
納期と品質
普遍的仕事論は置いといてアニメーションならではの点。経験値で質向上が見込まれるのは納期遵守のための方策でしょうか。品質とは定義が難しい。「面白くない」けど作画や音楽が良いものを品質が安定していると言い切れるものかは微妙です。
主観に負うところが大きく、よって様々な思惑が飛び交い乱れそう。品質を定義しやすい製造業なら経験値で質向上できるところを都度都度のクリエイティビティに左右される怖さがあります。それがアニメーション(憶測)。
「こうしたほうがいい」
「これは許さん」
こだわりも技術も持ってるであろう人たちが、各自の思惑でさんざん錯綜しようとゴールへ向かって結束し協力し合う姿にブレはありません。
ムサニが良い作品をつくろうと懸命に努力する人間が集まってるスタジオなんです。業種関係なくこういうところで働きたいですね。
高梨太郎(CV吉野裕行)や平岡大輔(CV小林裕介)らDQNにも居場所があり成長機会のある職場。杉江茂(CV小柳基)に敬意を払う職場。社長さんの影響もあるでしょうが個人的には人事がまわってるなぁと思いました。煮詰まった『三女』の突破口となったのも新人です。
たしかに喧伝されてる通り好きなアニメにより詳しくなれる本作。視聴後はそれっぽい会話を交わすスキルが得られます。
これ以上深い沼にハマって一般人との溝は深くなっちゃうと心配される方以外はアリだと思います。これはこれで重要なことですので用量・用法を守って服用にはご注意ください。
お仕事アニメへの共感と一緒に、二十歳前後主要仲良し五人組の成長と友情の物語も素敵な結末を迎えたと思います。
中弛みも感じず、全24話の各話に意味を感じとることができる名作でした。
※ネタバレ所感
■上山高校アニメーション同好会のOG五名
山形なのに訛ってない。専門や短大卒で揃いも揃って東京にいる奇跡。…と東北出身の自分が呟いてみる。
{netabare}1話を観返しての気づきで、高校時代五人の中で一番快活で明るい子だったのが“ずかちゃん”こと坂木しずかであるというのが味わい深い。{/netabare}
{netabare}『三女』という作品制作の中枢に“みゃーもり”がいて
裏方ディーゼルさん“りーちゃん”の調査で土台を支え
その原画を“えま”が描き
戦闘機の3DCGモデル制作に“みーちゃん”が携わり
鍵となったルーシーに“ずかちゃん”が命を吹き込む
ずかちゃんが報われたのもそうだし、『ドーナツの誓い』5人で1つの作品に関われたことへの喜びも大きかった。
{netabare}押し殺して泣くみゃーもりに心をもってかれた第23話。ここ台詞ないんですよね。まさに絵が芝居している。
劇中遡って『えくそだすっ』あるぴん「私知ってた」の泣きのカットで熱弁をふるう木下監督とギリギリの中で奮闘するアニメーターたちがオーバーラップします。このシーンにかける気迫というかアニメーターの矜持に心が震えます。{/netabare}
「今私、少しだけ夢に近づきました」
明示はないけど、りーちゃんの『セリフ、一行だけ使って貰えました!』の部分がここだったら素敵ですね。{/netabare}
■おいちゃんが主役
{netabare}第5話だったかフリーの瀬川さんに原画の荒さを指摘されて落ち込んでたえまちゃんとのやりとりで「おいちゃんのこれからは?」に回答できなくて「私の最終目標…?」と自答した宮森さん。最終回で出した答えはシンプルで力強いものでした。
夢を見失いつつも周りの人の夢を守ることを夢とした『第三少女飛行隊』ありあと被るものがありました。つくづくよく練られた物語だったと思います。{/netabare}
■茶沢信輔(CV福島潤)どうします?
野亀先生を担当している編集さんで、本作での恨みつらみを一手に引き受けた?名脇役の彼。
業界の慣習や二者間の契約内容がどうかというのは無視して、こっちがムサニ側とした場合どの時点でどんなアクションを取りますか?
私の場合、
1.{netabare}初回打ち合わせで原作者欠席の時点で他にあたりをつける
:夜鷹書房の上司あたりかな。口実はなんでもよいので。原作者や茶沢がどうこうよりも情報取得先が“窓口の一本しかない”状況は極めて危険。{/netabare}
2.{netabare}キャラデザ変更依頼の時点で発動
:変更依頼が来た時に“青天の霹靂”ととるか“まあそうなるわな”ととるかですが自分の場合は後者になってると思う。もともと一年間ほしいところを9か月間の短納期かつキャラデザ変更の件でさらに1ヶ月スケジュールが後ろ倒しに。納期が最優先事項なら阻害要因は何?の視点が必要っす。
:茶沢や野亀先生のプロファイルを進める。原作TVアニメ化2回目とつぶやいてるシーンがだいぶ前にあったりとヒントはあるんですよね。{/netabare}
3.{netabare}旨味で握らせるか脅す
:原作者との繋ぎを放棄してるなと。合わせたくない理由があるなら何なのかただ面倒くさいだけなのか。敵対行為であると明確に判断できた時点で担当を切るアクションに移ります。自社はもちろんのこと、夜鷹書房に損をもたらすアンチビジネス行為であるというシナリオを事実ベースでまずは作るかなぁ。
:1.2.まではフラグ立てや時期、いわゆるマイルストーンを置くってやつなんすけど、この3.では衝突するであろう具体的行動をとることになります。担当切る前にしっかり闘いますよ。闘わないことでむしろ顔を潰しますから。
敵対する行動を起こす茶沢の行動を変えるには「ムサニの提案に乗ると旨味がある」または「ムサニの提案に乗らないとまずい」のどちらか。そのための「こうすればできる」まで誘導するのが理想。先方のキーマンと握れていたら茶沢の代理で有能なのをつけてもらえる状態にはしたい。{/netabare}
{netabare}※アニメでは監督と原作者のクリエイター同士で呼応しあい意気投合という流れ。わりとポンコツ有能な木下監督の有能な部分が出たと言いますか結果オーライと言いますか(笑){/netabare}
武蔵野アニメーションにも夜鷹書房にも損害を被る状態にはさせません。ほら“Win - Win”って言ってたじゃないですか。
※オマケ
{netabare}・『えくそだすっ』よりも『第三少女飛行隊』のほうが観たいかな。水島努監督の『荒野のコトブキ飛行隊』の時は『ガールズ&パンツァー』ほどではないにせよ『三女』が脳裏をよぎった人がいたかもしれません。{/netabare}
{netabare}・それよりも『ぷるんぷるん天国』に惹かれてしまう罰当たりな私。どこが、クリエイターに敬意を!なんだか。。。さーせん。{/netabare}
なお再放送中は『色づく世界の明日から』円盤のCMがヘビロテしてました。P.Aなのにとわりかし否定的の声も多かった印象の作品。レビュー冒頭の『BEATLESS』にいたっては巷の評価はボロクソでした。
ただこのわたくし、両方の作品とも好きなんですよね。
『ぷる天』を「ギャグにキレがある」と好意的に評価した本田豊。{netabare}後にパティシエに転身した{/netabare}彼に最もシンパシーを感じるのかもしれませんね。
ただひとつ彼と違うのは、、、
万策はそんなに尽きることはない!
知恵を絞り行動に移して、さぁ明日も仕事を頑張ろう!!
視聴時期:2019年7月~12月 再放送
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2020.02.08 初稿
2020.06.28 修正