waon.n さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
スリップストリームってこういう物語の事?
完走につき、タイトル変更しました。それと、視聴後のレビューはすべてネタバレタグの中に隠しますのであしからず。最初は視聴途中のレビュー視聴後のレビューはネタバレタグの中。どうでもいいけれど袋とじって好きだったなって。
リアル~首長竜の完全な一日~
という黒沢清監督の映画とダブる(決してパクッてるとかではない)。リアルは映画で原作は小説だったりするのですが未読なので、語れません。クリストファー・ノーランのインセプションなどともダブるんですが、つまり潜在意識の中に入るというSF的ツールがあり、犯罪者の残留思念的ななにかを媒介に潜在意識の中に入り情報を引き出して事件を解決するという流れのお話でございまする。
この潜在意識の中に潜るっていうのがリアルでのセンシングであり、インセプションである。マトリックス的でもあるかな?
つまり、割とSFでは使い古されたネタなんですよね。って事は私の好みなわけでワクワクしている次第です。
要するに面白くなるかどうかはこのツールの使い方と、ミステリー要素としての脚本の力にかかっている感じですね。
オリジナルアニメでキャラのバックグランドや登場人物の関係性などにも興味をもって見れるなと思います。
とりあえず今のところgood!
ただし、好きな分野だけに簡単には満足できないから頑張ってくれと、勝手な期待の押し付けをしてみる。
10話視聴して・・・
どんどん面白くなっていくこのアニメも終盤に入って展開を一気に加速させました。それだけでなく、しっかりこの主人公の物語が描かれている。正直にこのアニメは着地点さえ誤らなければ最高になるでしょう。
そして、今までも好きだった津田健次郎さんが最高の演技を見せてくれた。少し過剰な演出にも思えたのですが、演技がそれに負けなかった。最高でした。ありがとうございます。最後まで楽しませてもらいます。
さて、もう一度10話を見直してきます。
追記:完走しました。いんやぁ~最高でした。
って事でここからは、ネタバレタグで隠します。
{netabare}
途中までで既視感を覚えたのは、上記であげたいくつかの映画もそうだったのだけれど、最後まで見て思い出したのが、もう一つ。「マイノリティーリポート」だ。
既視感というかMEME(ミーム)といった方が良いかなと思うけれど、じゃあどこにそれを感じるかとりあえずいくつか挙げていきます。
演出が似ている。
蔵でデータを集める機械を操作する作業とか、かなり似ているし、飛鳥井 木記 が入れられていた「箱」の中の描写なんかはデジャブする。
プロットデバイスが似ている。
飛鳥井木記とプリコグ(マイノリティーリポートで予知夢を見る人)同じ夢を媒介にしているという点。イドでは箱と呼ばれ、マイノリティリポートでは聖域と呼ばれる。場所がある。微妙に機能に違いはあるが、夢を仮想空間に映し出す(マイノリ)または映像として描き出す(イド)事の違いかなと。
マクガフィンが似ている。
主人公の子供が亡くなっているという点。
子供の死が主人公の行動の原動力になっている点は同じ動機であると言えよう。イドの場合は母親までもが娘の死に耐え切れず死んでしまうのでもっと辛かった。泣かせる話の代表例として喪失があるわけで、じゃあそれをどうしたら泣かせるようにするのかってのが腕の見せ所なわけですよね、演出面も脚本面でも。結果はボロボロ泣かされたわけですがw
つらつらと似ている点について書き込んでみたんですが、だからといってこの作品がパクリだとか言いたい訳では全くない。
むしろ逆でして、じゃあどこが逆ですか?って話を少し。
本作とマイノリティーリポートでは犯罪の事前と事後という違いがある。これは鏡のように作りが逆になる。
マイノリティーリポートは犯罪者の殺人を予知夢として映し出された未来で殺人をすると、事前に逮捕する事ができるというシステムである。
しかし、イドはこの作品は違う。
犯罪者を捕まえる手立てとして存在するのは同じでも、結果があってそれに対するリアクションの一つの道具として存在するのがミズハノメである。
殺人を行った人の殺人衝動をワクムスビという機械で思念粒子として検知すると、それが蔵に送られてそこでミズハノメを媒介にして殺人者の潜在意識の中に入ることになる。そこで殺人者を捕まえるヒントを得る。
犯罪を未然に防ぐというのは本来見えないものであるはずなんだ。それを見せてしまうのがマイノリさんであり、そのシステムが崩壊した理由にもなる訳です。
対して、イドはシステムを今後とも活かして行くという結果を残している。これは私の考えになってしまうが、犯罪に対する一種の誠実さであると言えるかなと。
これ以上の最善はないんだと伝えられた気分になりました。
そろそろ対比させるのも飽きてきたのでこの作品の魅力について語りたい。
濃密な物語の構成、脚本。
無駄に感じた部分はなかったと思われます。色々なアニメの制作者の人達ならもちろん無駄な部分などないと言うだろう。それだけ意識をして作っているはずだ。しかし、原作のある作品の中には、場面を切って貼ってする事もあるだろう、そんな時たまに訪れる蛇足部分(ラノベ原作だと割と…)というのがあまり感じられなかった。
今回のこの作品はミステリー小説家である舞城王太郎さんがシリーズ構成と脚本を手掛けている。
ふむ・・・知らんかった。ここでファンであれば「うおおおお!」とかテンション上がったのだろうか。まぁそれは置いておいて。Wikipedia先生で調べて作風を見たら納得だった。
つまり、実力は十分にあってこの作品の前に「龍の歯医者」という作品も手掛けているみたいなので、経験も有り。爆発したか…という感じかな?(これから龍の歯医者観てくる!)
メインだと思って観ていたものが実はメインではなくもう一つのメインのためのサブとしての役割を持ったプロットだった。表のメインと裏のメインといった所かな。
表メインとして観ていたのはおそらくジョン・ウォーカーを見つけて捕まえるもしくは殺すまで。その動機として付けられているのが、娘と妻の死である。直接的な原因となった対マンは殺した。でも対マンを作り出したジョン・ウォーカーという真の犯人がいるとなったら捕まえるなり殺すなりしてやろうというのがこの物語のマクガフィンかなって感じですな。
最終的に見えてきた裏のメインはジョン・ウォーカーによるミズハノメの強化による蔵という組織の強化そして、確実に犯罪者を捕まえる事。その目的の為なら多少の犠牲は致し方ないと考える真犯人は局長。ずっと彼の描いた脚本に乗せられていた訳ですな。主人公の鳴瓢 秋人でさえ駒のだった訳だし。真犯人であり真の主人公でもある可能性さえある。まぁ視聴者視点で物語を動かしていたのは間違いなく鳴瓢 秋人だけれど。
表のメインがサブになるぞって裏返る所で一番効果的に物語が捩じれ交差し反転する瞬間にドラマがあった。それは今までメインだったものそしてその物語を補完する為のサブだったものが、どちらもサブになる事で起こる物語の厚さ。ヤバい(語彙消失)ここに最大のドラマティックアイロニーが起こる。
ドラマティックな物語。
メインがサブになり今までのサブと重なり合う形で起こるドラマが10話です。正確には9話と10話ですかね。 INSIDE‐OUTED まさに裏返した。
表のメインと表のサブがただのサブとして重なる。
そのサブとしての役割は言わずもがな、喪失です。今まで喪失した現実を直視できずに、復讐としてジョン・ウォーカーを追うことに囚われようとしていたが、10話でちゃんと別れを伝えられて喪失したという現実を獲得した。という事だろうか。ここまでが構成の良いなと感じた部分。
脚本について。
構成が大まかな流れやプロットだとしたら、脚本は本文であると考えていまして。オリジナルアニメである今作は物語の構成とアニメとしてのシリーズ構成が素晴らしいと感じる、そしてそれらを結び合わせる本文に無理矢理な部分もなく綺麗にまとめられている感がする。特に感じるのは、6話目ですね。物語の中盤に仕掛けがいくつかあって、一つ目は本道町小春の才能を見せる場面とその説明です。自然に行われていく会話の中に、イドに入れる素質について語られる。もちろんそれを持ち合わせているというのもあり、また局長にもちゃんと了承されているという点も最終的には説得力を与える材料になっている。二つ目は蔵のメンバーが葬儀の場所で集まって雑談形式で推理している場面だけれど、実はこれニアジャストこうやって急転直下で視聴者に不自然さを与えないようにしているし、その後の室長が犯人に仕立てられる場面の伏線にもなっていたりする。ここ凄い重要なのがさらっとあるから良いと思う。3つ目は穴あきと対マンの家にあった監視カメラとマイクが同一だったという点を最後に入れた事ですね。クリフハンガーとしての役割もありつつ、伏線回収に向かってく流れを作り出すこれもちゃんとそういうカットを入れているので突然感はなかったりする。
などなど、6話だけ切り取っても上手いなぁなんて思っているんですが、他の話でもあったりしますが、何度か観て見つけてみるのも楽しいので暇な人はやってみてもいいかもしれません。
・・・とか色々書いたわけですが、一番やられたのが、先述してますが、結局10話のあの場面ですな。
「秋君今どこにいるの?」
「パパ、どこかに行っちゃうの?」
「違うだろ、君たちがどこかへ行ってしまったんだ」
うぅぅ…津田さぁん!
うだうだ書いたけれどさ、このセリフと演技だけで十分泣けちゃうよ。
でも最後に彼は言う
「泣けなくのも喜びだ」
でもね、どうして泣けるのかをより考えて観て文章にしていくのは、思考実験的で面白くてその為に書いていたりする。
さて、もう一つ。この物語の最重要で大事なキャラがいる。
飛鳥井木記
このミズハノメというシステムを組むという事でフィクションの部分であり、この物語の根幹になるプロットデバイスでもある。この彼女自身がそういうモノである。
何で、連続殺人犯じゃないと名探偵としてイドに入れないのか、何でジョン・ウォーカーは殺人犯の潜在意識の中に入って殺人を誘導できるのか、ジョン・ウォーカーの手にした力は何だったのか、それによってできた動機を作るところまでこのモノとしての扱いをされている少女。私はね、しかし少女である意味を聞いてみたい。なんでじゃー!終始可愛いしだからこそ可哀想なんだよ…それを引き出すためのキャラづくりなのかもしれませんが、うむ仕方なかろう。可愛かったし。
何で連続殺人犯じゃないとイドに入れないかというのは、彼女の夢の中に入るための資格として連続殺人犯であり、夢の中で彼女を殺すという目的を持っていないと入れないからである。明確な殺意が必要だったという事ですな。それも何度もという性癖に近い衝動。室長の「衝動だけで行動は決まらない」をヘアバンスタッフが「そうですかねー…(中略)人間の理性は衝動に負けないほど強い」これを肯定しないというセリフ回しからも分かるように理性より衝動の方が勝つようにすればジョン・ウォーカーは連続殺人犯を作り出すことに成功できる。9話による鳴瓢 秋人がイドの中のイドに入って観たものが全てを説明してくれている。これを体験するという形でセリフにしないのが良いですね。分かりづらくはなるけれどチープにならない。
不満ではないけれど白駒と局長の関係性が少し語られていないので、んーどういった関係だったのかちょっと興味はありますな。昔からの仲で協力関係だったなら多分殺したりはしないだろうしなぁ。この研究をたまたま知ったのだったらちょっとドラマチックにかけるし…なんか裏設定というか実は私が気づいていないだけだったら知りたいなって思います。
「私、信じます。だから待ってます、ここでずっと」
彼女に未来は来るのか、使われるだけの道具でいつづけてしまうのか、それともこの悪夢から鳴瓢 秋人が抜け出させてくれるのか。思いを馳せてしまいますね。
「俺は君を助けたいだけなんだ」
{/netabare}
ちょっとボリュームがありましたが、とりあえず書き終わりまして満足しています(自己満)。
ほかにも富久田 保津と本堂町 小春この二人も物語を動かすキーになるので、書き込むかどうか迷いましたが十分お腹いっぱい書いたので今は良いかなって。
物語全体が作りこまれているのでちゃんと観ればそれだけ楽しめる作品となっています。アニメでしか表現できないスプリットストリームなんですが、アニメとしての楽しさ以上のものがあると思います。
おすすめ度100%です。っていうかこれ13話なんですよね。マジ凄い。
ご読了ありがとうございました。