takato さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
「祝祭」と引き算の新日常系。百合姉妹を超えた百合夫婦。
日常系、そのスタートを何処にするのか?それは明白ではないが、有名どころなら「あずまんが」であろう。
少女たちの学校での日常とシュールなギャグ、僅かに4巻しかない漫画でありながら「日常系」ビッグバンとでも言うべき影響を後世に残した。
その流れは今でも続いており、個人的には「ゆゆ式」が一つの完成形ではないかと思われる。
しかし、日常系はある意味で危険なジャンルでもあった。そのスタイル故に新たに発展させていくのが難しい、上手くやらないと単なる美少女動物園と化してしまい、山や谷を作りづらいから平板で退屈になりかねない、などなど様々な問題を含んでおり粗製乱造がそれを加速させた。
そんな中で幾つかの新たな発展への回答と言っていい作品が表れ始めたが、その筆頭が「ゆるキャン」であると言いたい。
キャンプ、それは一種の祝祭。いつもの込み入った日常から離れて大自然に抱かれながら、伸び伸びとした心で共に遊び喰らい語り合う。
「ゆるキャン」の日常は、キャンプの前準備のワクワクの日々であり、キャンプの日となればキャラクターたちと一緒にこっちまで高揚感と解放感に満たされる。日常系でありながら作中にメリハリがしっかりあるから圧倒的な多幸感に繋がるのである。
そして、「ゆるキャン」のもう一つの新たな要因、それはリンちゃんに代表される引き算にある。
リンちゃんはソロキャンガールである。
リンちゃんはクールなイケメンガールである。
リンちゃんを一言で表すなら「静けさ」である。
日常系は時に美少女動物園と化し、動物たちのイチャイチャという名の喚き声が延々と続いて平板になりかねない。それは日常系が持つ魅力の一つである、落ち着いた癒しの力とも相性がよろしくない。
「ゆるキャン」においては、常に一歩引いているクールなリンちゃんがいることで作中に間を置くことができている。キャンプという「祝祭」の後のふっと訪れる静かな瞬間、それが本作で豊かなのはリンちゃんあってのことだろう。
個人的にリンちゃんを一番象徴するシーンだと思うのは、最終回で赤富士に見とれる皆を一歩引いたところで見ていて静かに微笑むリンちゃんの姿である。
本作はナデシコという動のキャラと、リンちゃんという静のキャラが百合カップル、いな百合夫婦であるためにバランスのとれた見事な造りになっている。
こういった新しい部分も素晴らしいが、日常系の基本要素であるBGMや背景の見事さは勿論、生き生きとした心を持って世界に隠れている小さな幸せを見つけるという日常系の一番大切なポイントを抑えているから本作は傑作なのだと言いたい。