薄雪草 さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
瑠璃とハイビスカス。
お祭りのあとの酔い醒めが、厄介だってことは、分かってるつもり。
煌々と輝くネオン
陽気で楽しげな音楽
舌つづみを打つお料理
気のおけないお友だちの屈託のない笑顔
お酒まで入ったなら、舞い上がるばっかり
ふわふわする浮遊感のなかに、恋しさみたいな情を覚えてしまうと、ついつい溺れてしまってもいいかなと思ってしまう。
非日常を手軽に味わうならそんなパーティーライクもアリだとは思うけれど、スピリチュアルに包まれるほうが、圧倒的に「ザ・非日常」だ。
だから、たまには「日常のなかの非日常」な映画はやめにして、いつものポップコーンとかコーラとかも、今回だけは見送ることにしよう。
海の祝祭という、なんだか意味深で、わけのわからない「非日常の先の非日常」な世界の真ん中に、ぽーんと自分を放りなげてみてやろう。
そう。きっと、それがいい。
祝祭は、・・・・・・凄かった。
極彩色は、巨大なスクリーンの枠をはみ出して、シアターの上下左右を縦横無尽に跳ねまわっていた。
ソングは、電撃となって脳みそをゆるがし、四肢の神経を痺れさせ、わたしという文明を消し去ってしまった。
劇場のスペースは、琉花の一回の吐息で濃密さを増し、それでいて海のわずかな領域をささやかに潤すだけなのだ。
いったい、何だろう。
何が、わたしに、触れにきているのだろう?
わたしの記憶は、身体からゆっくりと離れていき、いつのまにか海底に横たわっているわたしの中にあった。
10メートルほどの上に揺らいで見えているのは船の底板で、まるで中空に停泊しているような奇妙なカット。
このビジュアルは、たしか、琉花と同じ頃合いのわたしのデジャヴであるような気がする。
鼓膜にかかった圧力、手も足もヒレだったらいいのにと感じたもどかしさ、言葉など何の意味もないと確信が持てた、わずかな時間の記憶。
あぁそうか・・・・・・。
この作品は、絵を見せているだけじゃないんだ。
海洋生命のインターナショナルを、ダイレクトに、脳に感じさせようとしているんだ。
わたしは、琉花の身体に同化を試みる。
海の主人公たちの思念に包まれてみようと念じてみる。
言葉によらないコミュニケーションの進化の実相に触れてみたいと願ってみる。
オーバーフレームな演出
スペクタクル・フルなシーン
壮大なシンフォニー
そう。わたしは、突然、思いついたのだ。
わたしは、知るべきことを知ろうともせず、ただ漫然と生きてきたのではないか。
DNAに織り込まれた命のリレーション。
遠い遠い記憶の撚り糸。
未来も。
ため息を、ひとつ。そっと。
慎重に。もうひとつ、いくらか深めに。
眠りからの目覚めは、このお作法がいつも有効なの。
やんわりと、ゆったりと、たっぷりとした余裕が必要なの。
体のなかの何かが騒めきだしてきている。
これって、なんだか祝祭っぽくなくはない?
身体は、2時間もスクリーンに圧しつけられて、すっかりがちがちに固まってしまっているけれど、不思議と気分だけは、琉花のように坂道を駆け上がってみたくなっている。
そう。彼女のように微笑んでみよう。
うん。彼女みたいに意思を示してみよう。
メッセージは、言葉に限らないのだから。
なぜだか無性に、海に行きたくなった。
わたしにも、会ってくれるだろうか。
あの聡明なクジラは。