キャポックちゃん さんの感想・評価
3.0
物語 : 2.5
作画 : 2.0
声優 : 3.0
音楽 : 5.0
キャラ : 2.5
状態:観終わった
芸術に打ち込むことの意義
【総合評価:☆☆☆】
箏(こと)をフィーチャーした珍しい作品だが、芸術に打ち込むことがいかに心を豊かにしてくれるかが表現されており、単に物珍しさからでなく、芸術に関心のある人すべてに見てほしい佳作である。
正直なことを言えば、新たなメンバーが加わったことで廃部寸前だった部が活気を取り戻すというストーリーは、学園もののド定番でいかにも陳腐である。箏職人の祖父に感化された元不良少年や、母親との軋轢に悩む家元の娘など、登場するキャラも類型的で人間としての厚みに欠ける。作画は、お世辞にもうまいと言えない。表情やポーズに心情がにじみ出すような表現ができておらず、演奏シーンは表面的なエフェクトに頼りすぎ。しばらくは平凡な部活アニメと流し見していた。
ところが、第18話で堂島が箏曲部の指導を担当し始めてから、俄然おもしろくなる。彼女は、技術的に完璧であるにもかかわらず、内面から湧き上がるものがなく、自分には才能がないと自己嫌悪に陥っていた。しかし、真の芸術とは技術を磨いた先にしか存在しないのではないか?内面から湧き上がるのは単なる衝動に過ぎず、技術を磨く際のモチベーションにはなっても、それ自体が人を感動させるわけではない。
箏曲部メンバーに対して、堂島は、一つひとつの音を磨き上げる技術指導に徹した。彼女自身、それが箏曲部のグレードアップにつながるとは信じていなかったようだ。にもかかわらず、コンクールで優勝したときの堂島の凜とした演奏をDVDで見た部員たちは、究極的な技術が何を生み出すかを悟る。こうして部員たちが堂島に深い信頼を寄せるようになり、堂島も、自分が箏の演奏家としていかなる存在なのかを理解し始める。技術指導に徹しながら、堂島と部員の間には、互いに相手を成長させる人間的な関係が醸成されたのである。
第20話で、堂島が手本として部員たちの前で家元の娘と共演するシーンがある。私は、この場面を見ながら、不覚にもポロポロと涙をこぼしてしまった。部員たちの下手な演奏に比べると、表面的には技術が洗練されただけなのに、心を強く揺り動かされたからである。芸術が人を感動させるとはどういうことなのか、そんなことまで考えさせる名シーンである。