薄雪草 さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
ベビーフェイスじゃいられない。
海図は、ロシアンルーレットを挑発する。
それでも・・・・
憧憬を覚えているやさしい過去は
彼女のまなざしの先に、確信ともいえる航路を描かせる。
羅針盤は、狂濤嶮路を指し示している。
それでも・・・・
明かすべき未来を負託された自意識は
操舵輪をして地球の「てっぺん」へと舳先を向かわせる。
祖父の言葉は、いったいサーシャの胸中に何を産み落としたのだろう。
汚名を雪いだあとのサーシャは、祖国に何を見出すことになるのだろう。
男浪が、祖父のパイオニア・スピリッツを体現するものなら
女波は、サーシャのファイティング・シップともいえるだろう。
水火も辞せず真理を証しようと一歩を踏み出させるのは、共なるDNAのなすわざなのか。
フロンティア・ポイントへの飽くなき探究心が、雪氷の海にその切っ先をつき立てる。
息をも凍る、苦悦の旅が始まる。
いっときも目が離せないサーシャとわたしの旅なのだ。
~ ~ ~ ~ ~ ~
まるっきり日本的でない映像体験だった。
あまりにも美しく
しかも、そればかりでもない。
凍れるような忍耐と
ひた向きなまでの信念と
どれほどまでの覚悟が試されるものかと
そう訴えかけてくる。
ブリザードは大咆哮し、幾度となく平伏と敗退を強いてくる。
受難なのか。
必然なのか。
救いなのか。
むきだしの造形のままに、人智を凌駕する洗礼がサーシャを打ちつける。
やがて、サーシャの息遣いは、薄明のなかで祖父の緘黙と交じりあう。
(もっとも心を奪われるシーン)
祖父はその生をかたらず、サーシャの抱擁はかなわない。
それでも彼女は、祖父の死を、生として包容できたのではないか。
時代の先駆者は、いつだって後継者を、高みへと導いてくれるのだ。
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イメージはいとも簡単に裏返される。
誰もがベビーフェイスに騙される。
サーシャはたかだか14歳なのだ。
1882年。
帝政ロシア末期の絶望的な国家運営と支配があった。
祖父に功名をなさしめるのは、帝国への忠誠を問うていたのか。
それとも、名誉を欲する為政者の気まぐれのための道具だったのか。
サーシャは、正義で動いたわけではないし、好奇心で走り出したのでもない。
どんなにささやかな約束であっても、そこに純粋な愛が満ち、侵しがたい尊厳があったと証明するためには、動機としては有り余るものであったろうと想像するに難くはない。
祖父の情熱を熾火として、真実への希望を専心に受け止めたサーシャ。
不名誉の悔しさなど、極北の厳氷の只中では、微塵にして些末なこと。
帰港の歓声に応えた彼女の笑顔は、無慈悲な帝政へのアイロニーをどこかに含んでいたと理解しておきたい。
思うに、一貴族の一人娘に、いったいどんな生き方が選べたというのだろう。
時代が定めた蓋然の枠に安住する生き方を、疑わないままに最善とするのか。
自らのほとばしりでるバイタリティーを、歓びの変化として最善とするのか。
サーシャの鬱屈した表情に、しかし、時代には気負けしないレジリエンスと、真実を体現する人としてのストレングスが見て取れる。
サーシャは太く希求する。
そしてしなやかに振る舞う。
埋没していた真理が、将来へのコミュニケーションと選択を求めてくる。
未来への責任が、多くの女性や若者たちの転換点に確かな勇気を与える。
そう。本作には、時代の最新フェーズへと立ち向かおうとする態度が示されている。
そんな真底に触れつづけた81分の上質な旅だった。
{netabare}
The Arctic(a’;rktik アークティク)
北極です。
原典はギリシャ語の Arktos(おおぐま座)。
天と地と人とを結びつけるキーワードでもあります。
おおぐま座は、北半球の天頂に坐し、数千年にわたって夜ながに現われ、人々に心的・霊的なエネルギーを与えつづけています。
エジプト、メソポタミア、インダス、黄河、ギリシア、そして日本。
今夜も、天のひさごからはたくさんの金銀砂子がこぼれ落ち、ステキな宝物となって手元に届くのかもしれません。
{/netabare}