よす さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
妖精さんはかわいくてやさしいな(そしてシュール)
原作既読です。
人類の文明が衰退した未来を舞台で人間(旧人類)と妖精さん(新人類)を描いた作品です。衰退といっても世紀末という風ではなく、もっと穏やかに文明が衰退した世界です。ファンタジーとも少し違う独特のスタイルを持つ作品で、私はとりあえず「SF寓話」と呼んでいます。
この作品の非常に愉快な点は、「よくわからないことは全部妖精さんのしわざ」と笑って片付けられる世界観でありながらも、敢えて妖精さんの起こす現象をSF的に考察できる余地を残していることです。荒唐無稽なファンタジーと見せかけて実はSF要素が沢山盛り込まれています。またヒト・モノの描写においては権力者から人工物までその特徴をユニークに表現しているのがまさに寓話と呼ぶにピッタリなのです。
主人公の「わたし」はのび太くん並かそれ以上に心が歪んでいて、尚且つダメ人間(おっちょこちょいではない)で、それでも外面は一応まとも、という設定がかえって人間らしさを強調しています。「毒のある真人間」とでも言えば良いのでしょうか。平凡なのに毒がある、こんなに強烈な個性を持っているのにこれほど共感できる主人公は珍しい。描写も心のなか(ひとりごと)がですます調になっていたりして、「わたし」自身さえも超然と引いて観察するような描写の仕方が共感を誘います。主観的に見せているようで、実は「わたし→他人」という構図から一歩引いている描写は流石です。声優にしても、あんな落ち着いた温かい声で毒を吐かれたらもう爆笑するしかありません。
物語の全体的な進行として、「自分や他人の悪い部分(≠悪意)とうまく折り合いをつけながら人と繋がり成長する」という原作者の表現を十分に汲みとって表現している作品だと思います。妖精さんという記号が人々の相互理解を助ける媒介の役割となる、とても優しい世界に毒を吐く(旧)人間たちが織りなすコメディ。世界観と登場人物とのバランスが素晴らしいです。