「歌舞伎町シャーロック(TVアニメ動画)」

総合得点
66.2
感想・評価
215
棚に入れた
759
ランキング
2990
★★★★☆ 3.2 (215)
物語
3.1
作画
3.3
声優
3.4
音楽
3.2
キャラ
3.2

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ネタバレ

ドリア戦記 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9
物語 : 3.0 作画 : 4.0 声優 : 4.5 音楽 : 5.0 キャラ : 3.0 状態:今観てる

ネオンと浮世の十二夜

6話まで視聴。
またこれは評価の難しいアニメだこと。
まず前提となる知識について。

【シャーロックホームズの冒険について】
コナン・ドイルの『シャーロックホームズの冒険』のリメイクです。
数年前にBBCによるリメイク作品『シャーロック』が世界的に大ヒットしました。
これはコメディです。もしホームズが現代に蘇ったらというコンセプトで作られ
ホームズと常に行動を共にするワトソンは現代ではゲイに誤解され
イギリス風の「気遣い」をされて困惑するという鉄板のネタが笑いを呼びました。
愛煙家だったホームズが現代の反煙運動の影響もあって
禁煙パッチを全身に張り付けてニコチンを摂取しながら
思索に耽るシーンもありましたね。
ホームズをめんどくさい「オタク」に描いて振り回される周囲を描いていました。

実はこの『シャーロック』も原作のリメイクというよりは、
カナダのグラナダTVが作成した『シャーロックホームズの冒険』のリメイクです。
名優ジュレミー・ブレッドがホームズを演じて有名になりました。
痩身、神経質で変人のホームズを身体的に表現したイメージは
原作よりもこのグラナダTVの影響が強い。
そのカッコよかったホームズを思いっきりコメディタッチにしています。
BBCが培ったスタイリッシュで斬新な思い切った映像表現も話題を呼びました。

最近では日本でもhuluによって竹内結子主演で日本に舞台に移して
リメイクされました。こちらもオリジナル脚本です。
こちらは1台数千万する映画用のカメラを持ち込んでドラマ撮影し
非常にリッチな画面に仕上げています。キレイどころの女優ばっかりだしね。

最近作られたホームズのリメイク作品の特徴はいずれも現代を舞台にしながら
小説版原作の「まだらの紐」「赤毛連盟」「緋色の研究」等
原作に沿った内容を現代に移して脚本を書き直している点です。
例えば「赤毛連盟」は2話「泣きボクロ」の元になっていますね。
アニメ版『歌舞伎町シャーロック』もかなり忠実に作り込んでいます。
脚本作成に苦労したでしょう。
また古典を現代にリメイクということで象徴として「落語ネタ」を入れたのでしょう。
まあ苦し紛れ感はありますが

しかし、アニメの視聴者は製作者のこうした苦労に気が付かないでしょうね。
原作だけでなくドラマの『シャーロックホームズの冒険』を知らない人が大半ですから。
なので原作やドラマを知らない視聴者をどう楽しませるかということが重要になります。

同じアニメのパロディ作品『フルメタルパニックふもっふ』はここが上手かった。
あれも元ネタになった映画の原作を知らない人が殆どでしょう。
でも知らなくてもみんなが楽しめた。

古典を現代に移植してパロディとして甦らすのはコツが要る。
さらに過去作品の知識が少ない現代の視聴者に向けて
テレビで放映するにはいかに元ネタを知らない人が楽しめるように作るかがミソになる。

頑張ってはいるのです。
歌舞伎町というエンターテインメントな舞台を選んだのも
絵面が派手で華やかだからでしょう。
日本ならではということで海外にもウケがいい。
脚本も演出もオリジナリティがあり、現代日本ならではです。
落語も入れています。
日本のドラマ版の『シャーロック』は中途半端に
イギリスBBCの『シャーロック』をパクっていました。
もうちょっと作り手としてのプライド持てよと思ったものです。

でも何も知らない視聴者が楽しめるかと言えば、うーん微妙。
一部で批判を呼んだ歌舞伎町の「おかま」の記号化された描き方も
わかりやすさを優先したからでしょう。
ただもったいないなとも。
上手く使えば笑いと哀愁の両方が入り混じった
もう一段上の複雑な味わいのオトナのコメディに仕上げることができた。
まあそんなもんよりはとことん軽い口当たりの
洒脱なコメディを目指したのでしょうが。

ちなみに原作の推理寄りよりコメディ寄りにしたのは
世界的な人気を呼んだBBC版『シャーロック』に影響を受け
ネットでの配信売上を重視したのと
パロディという性質上コメディタッチにした方が作りやすいからでしょう。
本格推理にするとどうしても原作と比較される。
また比較的年齢層が低いアニメ視聴者にも敬遠されやすい。
それにアニメの30分未満の尺で推理物の伏線から解決までを描くのは難しいですから。


【なぜ文学作品には「おかま」がしばしば登場するのか】
そもそも「おかま」ってなんで文学作品によく出てくるのでしょうか?
それは男と女の両方の視点を持ち
尚且つアウトサイダーであるからなんです。
アウトサイダーであるが故に客観的な視点から世の中と男女の諍いを眺めることができる。
「中間の視点」を読者や観客に提供できるのです。
もちろん、アウトサイダーにならざるを得ないために生まれる本人の生きづらさもありますが。
ここでは文学的な観点からのみ語ります。

シェークスピアの『十二夜』では男装する女性を描き
男と女を行き来する女性を描いて男女の考え方の違いをあぶりだしていました。
男装した女性は世の中の何物にも属さない人間です。
男も女も一歩引いた目で見ることができる。
観客は炙り出される男女の考え方の違いというものを
提供された主人公によるこの「中間の視点」からあらためて考え直すのです。

その他にも世の中の何物にも属さないアウトサイダーな存在として
「道化」というファクターもシェークスピアは頻繁に使いました。
貴族でも平民でもない、ともすると人間でもない奇怪な姿をした者
小人症や先天的疾患のある人間が道化になって貴族の館に住んでいたとも言われます。

道化は時の王や貴族といった権力者に率直な意見を言っても処罰されない。
なぜなら彼らはこの世のものではないからです。
どこにも属さない化外の者だから
だから王や権力者に生まれて病み死に至る人間の道理を説き
権力の盛衰を語り、この世の儚さを教えた。
もちろん王の気まぐれや逆鱗に触れ処刑されることもあります。

アウトサイダー的な存在をキーとして配置するのは文学作品ではよくあることです。
それは読者や観客に客観的で相対的な視点を提供するためでもあるのです。

古典を持ち出すなら、おかまの視点から男女の諍いをペーソスを込めて
語っても良かったのではないでしょうかね。
笑いは時に人間世界の悲喜劇を持って表現されます。

歌舞伎町という舞台を描き尚且つ推理よりコメディに寄せたなら
この悲喜劇という古典的なコメディ要素をもっと強調しても良かったと思います。
原作を知らなくても楽しめるオリジナルな脚色にもなる。
「おかま」というアウトサイダーを劇を構成するアクセントの機能のみ
「おもちゃ」として描くのは、ちょっともったいないし
色々非難されても仕方がないと思います。
歌舞伎町という「異界」の特性をもう少し脚本に組み込んでも良かったのでは。

ただ個人的にはこうしたチャレンジ精神旺盛な作品は嫌いになれない。
古典のリメイクをオリジナリティを持って解釈し直して作るのは難しい。
そこをクリアしているだけでもかなりの力作です。
『大江戸ロケット』『銀魂』のように軽く洒脱な作品世界の空気感を楽しむ作品なのでしょう。
推理という触れ込みはない方が良かった。無駄に誤解を招きます。

投稿 : 2019/11/30
閲覧 : 385
サンキュー:

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