USB_DAC さんの感想・評価
4.0
物語 : 3.5
作画 : 5.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
この床下にもきっと明かりがある
物語:
原作「床下の小人たち」シリーズ5作の良いと思われる部分を抜粋。
しかし人物の設定や背景、ストーリーのあまりの違いに多くの方が
戸惑い、全くの別物とも評される作品。とは言え逆に別物として見
れば、それはそれで良く練られ仕上げられた作品だと思います。ま
た互いに孤独に悩みながらも必死に生きようとする姿はとても印象
が良かったのは確かでした。決して派手さは無く、ある意味辛気臭
く味も薄い。でも「これからだよ」と言えるだけの高い技術力は感
じられる作品だと思います。
作画:
アリエッティの目線で見る様々な雑草やタマ苔の仲間、ツタのつる
と吸盤、弾力のある水など一切手抜きが無い見どころの多い映像に
驚かされます。また作画とは違いますが、小人の目線で感じる古時
計の音の印象の違いには、改めて感心させられるものがありました。
声優:
アフレコは初というアリエッティ役の志田未来さん。ポニーテール
が良く似合う、明朗活発な彼女をしっかりと演じていたと思います。
また常連である翔役の神木隆之介さんや意地の悪い家政婦役の樹木
希林さん、アリエッティの父役を演じた三浦友和さんたちもまた役
にハマった素晴らしい演技でした。
音楽:
主題歌を歌い、ハープ奏者でもあるセシル・コルベル(仏)。多く
のジブリ作品に影響を受け、自らが作成したCDを売り込み実現し
たというコラボ。懸命に歌う日本語がとても不思議な雰囲気を生み
出し、まるで別世界へ引き込まれる様な魅力的な歌声です。
キャラ:
やはりアリエッティの父ポッドが魅力的。61歳にして最強の大黒
柱。家族を支える知識と行動力。そして未熟なアリエッティを優し
く見守る姿は理想的とも言える父親です。
[感想]
メアリー・ノートンの原作「床下の小人たち」が作られてから彼此
67年。この作品が持つ世界観の面白さは今でも失われていないと
思います。これを題材とした実写映画などは数多く作られています
が、それぞれ制作側のイメージが多分に加えられ、原作とはかなり
内容が違う作品が多い印象です。
先ず米国TVの実写映画 「The Borrowers (1973 film)」。
この作品では小人たちと人間がコミュニケーションを取る生活を送
ります。しかも原作で描かれていた人間に煙で燻され追いやられる
描写は無く、やはり全体的に異なった作風になっています。
次に「The Borrowers (1997 film)」英米合作映画。
この作品は登場人物がとてもコミカル。「ピタゴラスイッチ」の様
なアクション満載の世界で、悪意を持った人間たちと戦う物語です。
内容はまるで違いますが「グーニーズ」の様な冒険活劇に近い印象。
そして米林監督が描く「 借りぐらしのアリエッティ 」。この作品
も上記の通り原作とはかなり内容が違います。
舞台は日本に変えられ、青森県平川市は猿賀石林にある盛美園の屋
敷をモデルにしたと言われる作品。実写映画には無い自然豊かな草
木や花の描写は、スタジオジブリの真骨頂といったところでしょう
か。そして登場人物たちはとても慎ましく暮らし、決して多くの物
を求めない。懸命に生きる人物たちはとても優しく、そして温かい。
日々人間が暮らす世界に怯え隠れながらも、精一杯工夫をして生き
ている。そんな小人たちの目線が感じられる作品です。
生活をしていく為には、人間が作り出した物に頼らなければらない。
しかし彼女たちが得るものに対する我々への対価が全く無い。そこ
を指摘する声があるのは当然のことだと思います。借りているとは
いえ、結局は黙って拝借しているのですから。
しかし、人間が発展をする為に今まで何をしてきたのか。我が物の
様に彼等から奪ってきた自然や様々な資源。それを忘れてはいけな
いと思うのです。生態系の頂点に立つからこそ、その様な弱い生き
物に対して寛容でなければならないし、返すべきものが必ずある。
そう言う意味ではアリエッティが「人間がみんな危険だとは思わな
いわ」と話していたことは、まだ救いがある様な気がするのです。
きっといつの日か翔の様な見返りを求めない人間と彼の地で出会い、
交流をしながら楽しい生活を共に過ごす。そんな明るい未来を感じ
させてくれるラストの別れだったと思います。
さっきまでそこにあった筈の数枚のクッキー。不自然に刈り取られ
たローリエ、シソの実やその葉。それはもしかしたらアリエッティ
の様な小人たちが借りていったのかも知れません。
彼女と庭で会った時に翔がこう言いました。「君たちは滅びゆく運
命の種族だ」と。彼はその後その発言を撤回しましたが、僕はこう
思います。人々がこの様なメルヘンを思い描かなくなった時、そし
て寛容さを失った時に間違い無くそれは現実となる。
でも、そんな世界の存在を夢見て、姿は見えないけれどきっと何処
かで慎ましく彼女たちは暮らしている。そう思う人がいる限り、彼
女たちは永遠に借り暮らしを続けて行くのだと。
以上、拙い感想でした。
2019.11.04 初回投稿
2019.11.05 誤字修正