USB_DAC さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
何年も待ち望んで掴んだ出逢いは、やはり美しい
物語:
今までの新海作品で感じた胸が締め付けられる様な思いは、余り感じません。
圧倒的に明るく笑いもあり、各キャラクターの表情は非常に豊かです。過去
の作品からのオマージュも複数存在しています。そして今作品は三葉の未来
改変を描く作品。新海監督らしい和歌や古の正史を引用した伏線など、より
考察も楽しめる内容となっています。
作画:
とにかく精細な描写が美しい作品。自然豊かな飛騨の景色や普段目にする都
会の雑踏など、ただフィクションを精密に描くだけではなく、若干のファン
タジー要素も加えられているところが、アニメらしくまた素晴らしい。
そして、あの美しく描かれた糸守町をほんの一瞬で破壊した映像には衝撃を
受け、暫く放心状態だったのを未だに覚えています。
声優:
主人公の立花瀧役は監督のお気に入りだという神木隆之介さん。ヒロインの
宮水三葉は上白石萌音さんと共に若手俳優。厳正なオーディションで決めた
という通り、キャラとの違和感は全く感じず、その他豪華キャストとの掛け
合いもとても良かったと思いました。入れ替わりの声の変化も良かったと思
います。それにしても花澤香菜さんがチョイ役なんて、何と贅沢なことか。
音楽:
劇伴を含む全ての楽曲をRADWIMPSが担当。物語へのさり気ない感情の補足
や空気感を伝えるかの様な楽曲です。特に「スパークル」・「なんでもない
や」は個人的にとても印象に残る爽やかな曲です。
キャラ:
入れ替えに戸惑い、いがみ合いながらも惹かれ合う二人。ただ助けたい一心
で御神体に向かう瀧、ただ逢いたい一心で瀧の住む街に向かう三葉。容姿は
勿論、そのひた向きな姿に当然の様に魅了される自分がいます。そして一切
迷わず三葉の言葉を信じて協力する勅使河原と早耶香。瀧の3人の友。二人
に関わる全てのキャラが優しく、そして魅力的です。
入れ替わり後の朝、三葉に入れ替わった瀧を起こす度に一言二言語り、一々
襖を閉め怒鳴る四葉もまた、とても印象的な人物の一人です。
[あらすじ:始まり]
{netabare}
暗記カードを見る電車の中で、突然見知らぬ少女から声を掛けられ戸惑う瀧。
何故か淋しく乗降する彼女に慌てて名前を聞き、咄嗟に渡された組紐を掴む
途中でふと目を覚ます。見知らぬ部屋の風景に暫し茫然とする瀧。やがて身
体の異変に気付き驚くのだった。
翌日、何食わぬ顔で朝食を取る三葉。祖母と四葉、二人の友人にも昨日の様
子を指摘されるものの全く覚えてはいなかった。登校の途中、選挙演説をす
る父を見かける。しかし土建屋を営む勅使河原の父との癒着を噂さされる父
が許せず距離をとる毎日。その後の授業中、ノートに書かれたある文字を見
て薄っすらではあるが別人の生活を意識するようになる。
代々糸守を守る宮水神社の宮司を務める宮水家。三葉と妹の四葉は共に巫女
として過ごしていた。古伝である口噛み酒の儀式が揶揄われることが苦痛で
しかなく、来世は東京のイケメン男子になりたいと常々ボヤいていた。
翌日それが現実のものとなる。東京の四谷に住む立花瀧と入れ替わった三葉
は、戸惑いながらも東京生活を次第に楽しむようになっていく。その後、週
に2~3度は入れ替わりが発生する中で、互いの為にルールを決め、曖昧に
なる記憶を留めようと記録を残す仲にもなっていた。
ある日、一葉たち3人は口噛み酒を奉納する為、山上の中心にある宮水神社
の御神体に出向く。そしてそれは「その身の半身」だと一葉から伝えられた。
{/netabare}
[あらすじ:止まった時間]
{netabare}
その翌日、 目を覚ました瀧はある一通のメールに気付いた。それは入れ替
わった三葉がセットした憧れの先輩奥寺ミキとのデートの約束だった。慌て
て待ち合わせ場所に向かう瀧。しかし奥手の彼は場を持たすことが出来ずに、
ただ悪戯に時間だけが過ぎていく。
ふと立ち寄ったギャラリーである写真に釘付けになる瀧。それは何処か見覚
えのある湖を写した作品だった。その姿を見て彼の気持ちは別の場所に居る
ことに気付いたミキ。結局、散々だった二人の初デート。ミキは言葉少なに
その場を後にする。瀧は暫くその場に残り、ただひたすら携帯電話を手に取
る。しかし幾らコールをしようと、三葉への報告は叶うはずもなかった。
その頃、糸守町は地元の神社で行われた祭りで賑わっていた。そしてこの日、
あのティアマト彗星が現れる日。ぼんやりと夜空を見上げる髪を切った三葉。
二つに割れた美しい彗星に見とれた瞬間、彼との時間がぷっつりと途絶える。
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[あらすじ:真実を知る]
{netabare}
この日を境に、二人の入れ替わりは起きなくなっていた。次第に三葉の記憶
が薄れていく瀧。その後、何かに取り憑かれたかのように飛弾の風景の絵を
書き続けていた。いた堪れなくなった瀧は三葉に直接会いに行くことを決心
する。自ら描いた絵だけを頼りにミキと司を連れ、彼女が住む町へと向かう。
手掛かりが見つからないまま、ふと立ち寄ったラーメン店で、彼が書いた絵
が消えた町「糸守町」であることを知らされる。それは3年前、ティアマト
彗星の隕石が落下し、多数の命を失った事故の被災地であることを知った。
急遽、地元の図書館に出向く3人。事故の詳細を調べる中で多数の見覚えの
ある名前に驚愕する。そして、今迄の入れ替わりの真実に気付くことになる。
翌日、瀧は記憶だけを頼りに御神体へと向かった。あの口噛み酒を口にする
ことで、再び三葉と結ばれると確信する瀧。やがて、三葉の様々な記憶が頭
の中を走馬灯の様に巡りながら、その場で気を失ってしまう。
目を覚ました瀧は再び三葉と入れ替わっていた。そして彼女の生存に安堵す
る。今日は彗星が落下する当日。朝食を摂る中、一葉から幼い頃に夢で入れ
替わりの様な不思議な経験があることを聞き、代々受け継がれる宮水の家系
の入れ替わりは、この日の災いから糸守を守る為だと確信する。
{/netabare}
[あらすじ:未来の改変]
{netabare}
三葉に入れ替わった瀧が必死に町民に避難を訴え掛ける中、前日に突然東京
へ向かったと四葉から聞かされる。ただ彼に逢いたい一心で、3年の時間差
を知らぬまま必死だった三葉。例え出会い声を掛けたとしても、まだ中3の
瀧は当然彼女を知る由もなかった。淋しさと恥ずかしさから次の駅で降りる
三葉。名を聞かれ懸命に手渡す組紐が、やがて二人を永遠に結ぶ事になる。
見つめる先に三葉の存在を感じる瀧。勅使河原の自転車を借り、傷を負いな
りながらも懸命に御神体へと向かう。山頂の縁を走り回りながら声を掛け合
うが何故か互いの姿は見えない。やがて片割れ時となり、時空を超えて漸く
出会うことが出来た二人。
涙を流しながら瀧に近づく三葉。瀧は笑顔で組紐を三葉に返し、目が覚めて
も忘れぬ様にと、お互いの手に名前を書こうとする。しかし、あっという間
に片割れ時は終わり、ふと気づくと名前も書けぬまま三葉の姿は消えていた。
次第に記憶が薄れていく二人。既に互いの名前は忘れてしまっていた。
その後、仲間を巻き込みながら町を守ろうとする三葉。送電所を爆破し、町
の避難放送を乗っ取り、町中の人々にただひたすら訴える。被害が及ばない
高校へと誘導させようとするが、やはり彼等だけの力では及ばない。一度は
突き放されたものの、再び父を説得するために町役場へと走り出す三葉。
辿り着いた父の元には、何故か一葉と四葉の姿があった。血相を変え真っ直
ぐに父の前に向かう三葉。と、次の瞬間、隕石が神社の麓に直撃し、激しい
衝撃と爆風で町のほぼ半分が壊滅してしまう。
{/netabare}
[あらすじ:再会]
{netabare}
あれから5年が過ぎ、大学生となっていた瀧は就活に必死な毎日だった。既
に、あの日の出来事は記憶さえも薄らいでいた。町に隕石が落下したあの日、
偶然にも町を上げての避難訓練があり、ほぼ町の住民が助かっていたと報道
されていたことは覚えていた。何故だか良く分からないが、不思議とあの町
に興味を惹かれていたことは確かだった。
朝、目が覚めると何故か泣いている。そういうことが時々ある。あの美しい
星が降った日からずっと何かを、そして誰かを探している。偶然立ち寄った
カフェで聞き覚えのある二人の声にハッとする瀧。いつしか暇を見つけては
街の図書館に行き、あの町の景色を見ては心を締め付けられる様な気がする。
そんな日々を送る瀧。ある日、自分が乗る電車の車窓から併走する電車を眺
めると見覚えがある女性と目が合う。
赤い組紐で髪を結った女性もまた、瀧の顔を見て表情が一変する。互いに次
の駅を降り、ただ闇雲に街中を走り回る二人。漸くある坂を間に見つめ合う。
向かい合いながら一旦足を止める二人。名前など覚えていない、何を話して
いいかさえも分からない。暫くして無言のまま歩き出す二人。坂を上りきる
ところで勇気を振り絞り「君を何処かで」と声を掛ける瀧。振り返えるその
女性は涙を流しながら頷いていた。そして声を掛け合う「君の名前は?」と。
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[誰そ彼]
{netabare}
誰そ彼と 我をな問ひそ 九月の 露に濡れつつ 君待つ我を(巻十2240)
誰あの人は、などと私に聞かないで下さい。それは秋が深まる九月の露に濡
れながら、あなたを待っているこの私のことなのだから。
夕暮れになると、薄暗さからそこに居る人の姿が分からなくなることがある。
それ故に、古くから夕方のことを「誰そ彼時」と言うようになりました。こ
の短歌は、恋を抱く男性を待つ女性の歌。そして自分は問い掛けるのに、相
手からは聞かれたくないという矛盾。それは互いが結ばれる為に必要な、最
初の言葉を大切にしたいという思いが込められている様にも感じられます。
{/netabare}
[宮水家]
{netabare}
1,200年周期で訪れる隕石の災害を回避させる為に、自らの数年先を生きる
審神者(さにわ)との夢を通わせる力。宮水神社の神楽舞台での舞や奉納も、
200年前の「繭五郎の大火」によって文献の消失と共に意味も失われました。
宮水家で重要視される「ムスビ」。神の力で結び付けられる物や現象を全て
呼ぶとされるそれは組紐と口噛み酒の二つの風習に保存されています。そし
て組紐は、その複雑に絡まり合い生み出される様から神の業と時間の流れを
表していると説明されています。
{/netabare}
[口神酒]
{netabare}
口噛み酒もまた、ムスビを司る重要なアイテムとして描かれています。小さ
な洞窟の中にある御神体は、小川で囲まれていて、内側は幽世、即ちあの世
であり、一度入ったら出るときに自分の半分(口噛み酒は半身と一葉により
説明されています)を置かなければならない、とされています。
冒頭で世界最古の酒として語られ、舞の奉納と共に幽世で時間をかけて発酵
させる。それは3年後に口に含んだ瀧と隕石によって死んだ三葉とを再び引
き合わせるものとして、非常に重要な伏線となっています。
{/netabare}
[瀧が選ばれた理由]
{netabare}
宮水三葉の名前は水の神である罔象女神(みつはのめのかみ)即ち瀧神とい
う古事記・日本書紀との繋がりがあるようです。また神楽舞台で奉納に使う
織物も蛇や龍を模していることからも関連性が伺われます。
詳細は外伝「Another Side:Earthbound」にて
{/netabare}
[組紐]
{netabare}
隕石落下の3年後に瀧と三葉の入れ替わりが始まります。瀧の世界線でいう
と、三葉が3年前に瀧に組紐を渡した為に、二人の間にムスビができ、入れ
替わりが起こり始める。その後の終盤に瀧が糸守町を訪れ、片割れ時に三葉
に組紐を返すことによって三葉は難から逃れ、無事に助かるという訳です。
{/netabare}
[最後に]
5年後、雨の降る歩道橋で擦れ違う二人。「秒速」のラストを連想させるか
の様なこの一瞬に、やはりそうなるかと思わせられる。出会えるのかどうか
分からない中で芽生える恋など、最後まで本当に叶うのかと思ってしまう。
そしてあの劇的なラストシーンの安堵感。それは当然の様に感動へと誘ない
容赦なく涙腺を刺激する。まるで感動と不安を綯い交ぜた彩り豊かな組紐の
様な美しさです。
何年も待ち望んで掴んだ出会いと幸せ。いつ迄も大切にして欲しい。
以上、拙い感想でした。
2019/10/27 誤字修正