退会済のユーザー さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
「永遠」のプレパラート
いうまでもなく、「百合」という今につながるジャンルを確立させた名作ラノベのアニメ化作品です。
物語としては、英国風喜劇のようなたわいもないエピソードが次々と重ねられていくだけのシンプルな作りなのですが、日本にも古くからあった「少女小説」の枠組みを復活させ応用し、舞台である名門リリアン女学院に作られた ふたつの”しくみ”を軸にゆっくりとした流れでお話が進んでいきます。
ひとつは、「姉妹(スール)」と呼ばれる制度。
学園の高等部の生徒は、それぞれひとりの後輩を選びロザリオを渡して「妹(プティ スール)」とすることで特別な関係=姉妹となって、教え導かれることで絆を深めていく…というしくみ。
選ばれた「妹」もまた、自分の「妹」を選び、「姉妹」は代々受け継がれていきます。
もうひとつは、「山百合会」と呼ばれる生徒会の制度。
ひとりだけの「生徒会長」が選ばれるのではなく、3人の紅・白・黄の「薔薇さま(ロサ)」と呼ばれる役員が生徒会を運営し、その薔薇さまたちの「妹」がそれをサポートしながら世襲のように次期の役員=薔薇さまに育っていく…というしくみです。
3人の薔薇さまたちは伝統的に生徒の中で最も優秀で美しく生徒の見本となる生徒で、彼女たちが次期の薔薇=「つぼみ」として選ぶのも、やはり次代を担え人望も得られる秀でた生徒…というふうに「山百合会」は常に生徒たちの憧れの対象となり、三色の薔薇さまたちやその妹たちは、さながら美しい少女の標本のように見つめられ、学園のイコンとなります。
少女たちの憧れという薄いガラス片には色も濁りもなく
その上に載せられた薔薇の薄片は柔らかく光を通し、重さも汚れもありません。
思春期という一瞬にだけある美しさ。
でもそれは高等部のわずか三年間の出来事です。
やがて彼女たちも卒業し、「薔薇さま」のプレパラートの上にもそれぞれに年を追うごとに1枚、また一枚とガラス片が重ねられ、標本の花弁は遠く青く、幽かになっていきます。
しかし、
その光は再び開かれることのないガラスの層に閉じ込められ
それゆえにその一瞬は永遠となり、決して色褪せることはありません。
そしてこの輝く光の層は、姉妹(スール)という受け継がれていく仕組みによって
遠い過去から現在へ、そして未来へと、果てしない循環を続けていきます。
輝きや微笑み、とまどいや憧れは青い光のまま妹たちへと引き継がれ
永遠の思春期が繰り返されるのです。
それは学園という閉じられた世界だから起き得る奇跡。
このほんの短い一瞬を愛してやまないひとたちが作りあげ
守られ続けていく「人工の楽園」です。
マリア様に見守られた 永遠の秘密の花園
その中でしか通用しないルール
そこでしか熱を持たない愛情
いびつで偏った、異形の翼を持った少女の世界
しかし、そこには何という平和があるのでしょう。
安らぎとときめきが同居し、不安と喜びが調和の中でフーガのように交錯していきます。
「百合」とはおそらく「閉じられた愛情」です。
”不純物”を挟まずに 相手と同一化することを求める想いがそのままに実現できる…という夢。
閉じられた円環は回転し、永遠を紡ぎいつまでも輝きを失わない…
もちろん、リアルでは異性愛でも同性愛でも、そんなことはほぼあり得ないので、
それゆえに「百合」がこんなに人気があるのでしょうが…(^_^;)。
この「マリア様がみてる」は、数ある百合作品のなかでも、ひときわ完璧にその「秘密の花園」を創り出し魅せてくれる作品なのではないかと思います。