蒼い✨️ さんの感想・評価
3.9
物語 : 3.5
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
アイドルアニメでした。
【概要】
アニメーション制作:ミルパンセ
2017年10月 - 2018年1月に放映された本編12回+声優特番1回=全13話のTVアニメ。
監督は板垣伸。
【あらすじ】
アイドルグループ“Wake Up, Girls!”は、2015年のアイドルの祭典で優勝したものの、
翌2016年には日本アイドル界の王者、“I-1club”が優勝して奪還。
日本全国にアイドルたちがひしめく状況で、
彼女たちWUGは東北地方で未だにローカルアイドルのままであった。
2017年3月13日。アイドル業界にも不況の波が訪れる中、WUGは地元・仙台のTV局で仕事をしていた。
それとは別に仙台の同じ学校に通う女子中学生、速志歩、守島音芽、阿津木いつかの仲良し3人組は、
WUGの話題で盛り上がり、アイドルに強い興味を抱いていた。
【感想】
監督の板垣伸というと、『化物語』の“帰り道(八九寺真宵)”のOPディレクターで、
絵コンテ・演出を担当して原画にも参加している人。あのOPアニメ凄く好きでした。
日本テレコムに入社し、『耳をすませば』『もののけ姫』などに動画スタッフとして参加。
6年程勤めた後に、フリーのアニメーターに転向。
ユーフォーテーブル、アゼータ・ピクチャーズ、ゴンゾ、マッドハウス、
ガイナックス、サテライト、シャフト、
と、あちこちで仕事していてOPとEDの演出家としては有能っぽい。
んで、代表作が、『てーきゅう』であるようにショートアニメ向きの人。
げそいくおみたいに、一人何役もこなせる実務能力がある。
その一方で30分の放送枠になると、あまり評価が高くない。
現在はミルパンセを中心に活動していて、社長兼プロデューサーをしている奥さんが、
お金の管理と納期を守ることでは、きっちりしてるので、
コストと信用の面で業界では定評があり、監督の仕事が途切れない。
元々が手書きアニメーターなのですが、ソフトウェアを導入して作業を効率化。
スタジオの規模は大きくないみたいで、専門技術を要する工程を、
デジタルに置きかえて作業ノルマをこなそうとしている感じ。
で、スタジオの実力を把握してスケジュールと相談して、
納期に間に合う妥協したクオリティで作って納品してしまうのが慣例化。
放映版がβ版扱いな、その往生際の良すぎな結果が、
銀魂の万事屋みたく会話中にずっと背景を映してたり、
実写からのレタッチがサウンドノベルの背景みたいでアニメから浮いていたりで、
作画面の低評価の原因がハッキリしている。確かに酷いとは自分も思いますね。
この新章では、BDの発売を全部二ヶ月間延期。
演出から見直して修正箇所を細かくチェックして、
各話6~8割のカットを改善して納品ということで、
パッケージ版では放映版の問題点をあらかたクリアしている状態。
監督のブログによるとリテイク作業も初期予算の範囲内で賄っていて、
追加予算をスポンサーに一切要求しないとのこと。
そこまでして拘ったリテイクをするなら放映版で頑張ったほうが良いと思うのですが、
スケジュール的にギリギリだったのでしょうかね?
旧章の作画が従来のタツノコプロのレベルからかけ離れて酷かったのをみるに、
適切なスケジュールで進行しないと腕があろうと無かろうとクオリティが保てない。
だから納期を伸ばせない放映時は妥協して、発売日を延期して全力でリテイクするっと。
「美少女アニメの中でも一番好きかも」と『けいおん!』を全話観直した板垣監督が発言し、
アニメーターの視点から京アニの表現力と育成力をべた褒めする一方で、
「やろうと思っても京アニさんの真似はできない、だから別のアプローチでアニメを作るしか無い。」
とも書いていて、自分と会社を客観視して限られた予算とマンパワーで最適解を出すために、
今のやり方で妥協とリテイクを行っているのだとは、自分は思いますね。
ちなみに自分が見たのはパッケージ版ですので、
動きの少ないシーンがあるなとは思っても、酷評レベルでもないかな?と思いました。
アニメのお仕事も道楽でなくて商売ですから、
巨匠気取りで納期を守らず悪びれないのと赤字自慢は論外で、
生産管理のQCDでQualityは有名会社に数段劣るものの、
納期厳守(Day)、赤字を決して出さない(Cost)で、
業界の信頼を得ているのがミルパンセなわけですね。
低予算で、そこそこの仕事をする会社との評判が定着して、
いつも回される予算が少ない不遇な面もあります。
この『Wake Up, Girls! 新章』も例外ではなく総予算から2000万円削られて、
前の監督が映画で浪費した追加予算1億2000万円の一部穴埋めに回されたとか?
これはネット発の要出典な話ですけどね。
とにかく、低予算で忙しい中で作られた作品っぽいですね。
新章の話に移りますが、エイベックスからの注文は2つあるのでしょうかね?
・明るいアニメにすること。
・3人組の声優ユニット“Run Girls, Run!”のプロモーション。
後発の、Run Girls, Run!を見てみると、本来このような形でWUGを売り出したかった、
というエイベックスと81プロデュースの思惑が見えてきますね。
作品の主役はアイドルキャラと担当声優であって、
旧章時代に、タレント気取りな前監督がしゃしゃり出て、
ガールズより目立つ位置で『俺が!俺が!』と言っていたの、本当に異常な状況でしたね。
明るいアニメにする=色調が全体的に明るくなりましたね。
キャラクターデザイナーをミルパンセの菅原美幸さんに変更することで、
旧章と比較すると、肉体に丸みが帯びて健康美が強調されてますね。
特に若い娘やアイドルは、頬と膝小僧の血色の良さが色で表現されていて、
化粧でごまかしてる丹下社長など大人寄りの年齢層の女性キャラと比較すると少々露骨かと。
表情にも辛気くささがなくなり、WUG7人の表情の描き分けが出来るようになってますね。
やっぱり、女子キャラの作画の魅力は肌と脂肪成分にあると自分は思うのですよ。
そこを疎かにするとネグレクトされた欠食児童みたいで不健康なキャラデザになる。
そこに丸みや柔らかさ、温かみが表現できているとは自分は思わないですね!
明るくなったのは見た目だけでなくWUGの内面も明るく元気になりましたね。
いつまでもペーペーの新人でなく、ガールズ声優もデビューから数年経っていて、
演技力の向上もあるのでしょうけど、棒気味でなく伸びやかで明るい声質になっているような?
戸松遥が、『かんなぎ』でされていたように、
島田真夢役の吉岡茉祐も前の監督の時代にパワハラ演技指導で暗い気持ちにムリヤリさせられて、
真夢が泣いてるシーンを録らされた、アレはお芝居でないから役者としてはダメだみたいなことを、
インタビュー記事か何かで見たように、旧章では前監督の黒澤明ごっこに付き合わされて、
抑圧された状況下にあったガールズ声優が、演技で伸び悩んでいたのではないか?との疑惑。
旧章:無理に感情をコントロールされた状態で台本通りに喋らされるので役に入りづらい。
→ 新章:自分でキャラの気持ちを考えたり共感をして役に入るので感情が入った演技が可能になる。
と声の印象の違いについて考えてみました。
新章で変わった部分は多く、まずはWUG7人のキャラの見直し。
例えば、七瀬 佳乃。旧章では真夢の2Pキャラとか言われてキャラが立ってなかったのが、
イマイチ頼りないけど仲間を大切にしてメンバーから愛されるへっぽこリーダーの立ち位置を、
新章第1話で確立して、洗練されたアイドルとして描かれるようになった真夢との差分化。
新章では、WUG7人が社長の命令で同じ家で同居するのですが、
彼女らの日常描写に重点を置くことで、視聴者から親しみやすくする。
これまでは同じ事務所の他人だったWUGの距離を近くすることで、個々の違いを見やすくする。
日常のコミュニティを共有することで、メンバー同士で仲間の異変に気づきやすくなったり、
行き違いで感情が爆発して喧嘩したりで、顔を合わせるからならではの展開を作りやすくする。
旧章では個々の印象が薄かったキャラの個性と人間関係の見直し、自己紹介からのやり直しで、
以前よりキャラの感情表現の幅がぐっと広がって、わかりやすくなった感。
ストーリーの方向性も大幅に変わり、業界を悪者にしない。
例えばタレントとスタッフは番組を作っていく仲間であって、
業界人は嫌がらせのような無能を撒き散らしてタレントを曇り顔にする障害物ではない。
もし不都合があれば、原因はタレントの経験不足や未熟さにあり、
芸能活動で課題を乗り越えて人間として一歩ずつ成長していく。
失敗も含めて培ってきた経験と人脈は財産であり、人との出会いは素敵なものである。
その明るさが、自分には好ましいものに見えてきました。
WUGが自発的に動かなくても、社長パンチと早坂えもんで周りが解決してくれた旧章と違い、
WUGが自分の頭で考えて周りを説得したりして状況が動く、その結果として成果が得られる。
気持ちの伝え方や行動が具体的になり、キャラの主体性が新章になって初めて生まれた。
けっして強くも完璧でもないけど、前を向いて直向きに生きるWUGの姿。
仕事も互いに相手を尊重しながら共演者やスタッフと協力して、一緒にいい番組を作ろうと邁進する。
これを単純に綺麗事・絵空事と切って捨てるなら、その人には仕事で良い出会いが無かったか、
不都合を人のせいにして生きてきたのでは?と思えてしまい、
まっとうに仕事に生きる人間の価値観が、新章になって初めて加わったと自分には映りました。
業界を露悪的に描くのを好きな方もいますが、露悪的でない=リアルではない、ということではなく、
そこは事務所によりにけりじゃないでしょうか?
WUGのファン層の拡大。アイドルは男性ファンだけのものではない。
旧章では、濃いオタクっぽい男性ファンに支えられる存在として描かれていたアイドル。
でも、リアルではそれだけでなくて、1980年代を代表するアイドルの中森明菜さんと松田聖子さんに、
熱狂的な女性ファンがついていたように、アイドルは女性に共感をもたせたり、
少女の夢や憧れであったり、髪型を真似したり歌ってみたくなるものですよね。
芸能界の扱いを変えたように、ファンの描き方を一般人目線で幅広くした。
そして、少女目線でファンにとってアイドルとは眩しく尊い存在であることを描くことによって、
芸能人であるWUGが、普通の生活をしている人たちとは違うステージに立っていることが解る。
アイドルに対する視野が新章では広がっていますね。
そして、新章で初登場の女子中学生3人がWUGの背中を追って芸能界入りを目指すようになるのです。
少女の幼い夢を大事にする。人によっては嘘っぽいと思われる話でもありますが、
そもそもWUG自体が7人中3人が素人からのスタートですので、言っても仕方ないかなっと。
気になったこととして、1クールアニメなのにやることが多すぎ!
・キャラの仕立直し。
・キャラ個別のエピソードを作る。
・“Run Girls, Run!”の宣伝、
・旧章のストーリーの回収。
・バーチャルアイドルの存在。
旧章のストーリーを作品のテーマとして回収しようとしていたのですが、
ふわっとしたテーマ?で話を煮詰めるには時間が足りなかったかな?
ドラマ撮影など途中までは物語の点数が心持ち高かったのですが、
回収部分がちょっとイマイチに感じたので評価を下げました。
バーチャルアイドルは、日本のアイドル業界を脅かす黒船的存在としての扱われていますが、
生身のアイドルより優れている部分、世間への影響力などの描写が完全に不足していたかと。
TV放映全12回のエピソードで全てをやりきるには尺的に厳しかったかな?とは思います。
最終回ではスタジオの持つ力をフル稼働して、作画面では言うことがないですね。
人と人が繋がれる素晴らしさを語った希望に満ちたメッセージで旧章に対するアンサーを出して、
成長した7人自身の(実際に声優が考えた)作詞による新曲で綺麗に終れたので、
爽やかないい感じで印象自体は良いのですが、
アイドルの概念という、旧章の問いかけがふわっとして答えにくいものなので、
新章の答え方も、ふわっとしたものにならざるを得なかったのが少々残念かな?
と、思うところが少々はありますが
旧章のカストリ雑誌みたいなマイナスだらけな世界観から、
アイドルアニメとしての正道に軌道修正できたという点で、
好感が持てる作品でした。
あと、個人的には新キャラの阿津木いつかちゃんが可愛いと思いました。
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。