なばてあ さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
攻性防壁のソードオフ、抗聖母壁のトレードオフ
隙のない重厚なドラマと隙のない堅実なアクション、どちらもリアリズムという美学を徹底的に追求していて見応えがある。
ドラマについて言うなら、あまりSF的愉悦は強くない。時代もあるけれど、電脳や義体といった概念装置は、ストーリィの本質を為してはいるものの、わたしはそこに面白みを感じることはほとんどなかった。 {netabare}その点では『PSYCHO-PASS』のドミネーターという概念装置は愉悦しかないと言える。 {/netabare} とはいえ、それが作品上の瑕疵になっているとは思わない。政府と警察と軍隊とテロリストのはざまで、それぞれの力学に翻弄されつつも逆にすべての足を掬おうと奮闘する公安9課の奮闘は見ていて気持ちいい。複雑な関係を総ざらいしつつ再配列をスマートにおこなう様は、まさにハリウッド。ハリウッドのウェルメイドなエンタメをばっちりトレースしていて、脱帽するしかない。
アクションについて言うなら、公安9課のメンバーそれぞれの身振りは、ミリ系のお約束をそれなりにちゃんとふまえていて、アニメ的な嘘をできるだけ排した写実主義にのっとっている。この手のリアリズムを志向する作品は、ほんのわずかな瑕疵がすべてを台無しにする恐れがあるけれど、SACは見事にその危機を抑え込んでいる。針の穴も逃さないチェック体制で、リアリティの水準を高レベルで維持できている。換言すれば、アニメならではの外連味あふれるアクションがほとんど無いということだけれど、それはこの作品に限って言えば、むしろ高評価のポイントになる。最新の作品とくらべるとCGの使用率は低いものの、それが視聴に際しての障害にもなっていない。背景に限れば軽い違和感はあるものの。
音楽もすばらしい。これは多くのひとが指摘しているので繰り返さない。
{netabare}ごくごく個人的なコメントになるけれど、やっぱりこのSACの路線は、その後のドラマ『Twenty-Four』のそれと駄々かぶりしている。もちろんアメリカのプロダクションがSACを模倣したことに疑う余地はない。そしてそのこと自体は責める筋合いでもない。わたしはかつて『Twenty-Four』にハマって全シーズン4回マラソンしたのだけれど、その経験をふまえて言わせてもらうなら、「隙のない重厚なドラマと隙のない堅実なアクション」という観点でいうと、SACよりも24のほうが評価は上にならざるをえない。圧倒的な資金力でハリウッドの技術を総動員したかのドラマのクオリティは空前絶後であって、リアリズムの美学に照らし合わせても、SACは分が悪い。もちろん、実写ドラマとアニメはカテゴリが違うから比較は無意味という指摘もわかる。でも、おなじエンタメという土俵に乗っていることもたしかで、カテゴリ原理主義はあまり生産的ではないことも事実だろう。その意味で、SACのオリジナリティは現在、かなり目減りしてしまっているように見えてしまうのは否めない。アニメのアニメらしさ的価値に殉じていれば、その経年変化は避けられたようにも思う。優劣ではない、のだけれど。 {/netabare}
衝撃:★★☆
独創:★☆
洗練:★★★★★
機微:★★★☆
余韻:★★★