四文字屋 さんの感想・評価
3.0
物語 : 2.5
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
流騰・・・個闘!!!
タイトルは「竜騰虎闘」のモジリ。
漂流あるいはワープの、5,000光年というド派手感=流騰。
個性・個人など「個」をめぐる戦いであるという示唆=個闘。
元の言葉が気になる人は四字熟語字典とかでご覧あれ。
今期で遭難モノといったら、「ソウナンですか?」と本作だが、
「ソウナンですか?」が、完全にギャグに振り切ってしまっているのは納得できるし、気楽に楽しめていいのだが、
問題はこちらの「アストラ」の方だ。
元気で前向きな、漂流からのワープつなぎでの母星帰還を、
熱血少年マンガ的に描いていて、
視聴ターゲットも割と中高生あたりに見えて、
スリリングなのは、メンバーの中に刺客が潜んでいる、という点のみで、
それはそれでいいのだけど、
毎度立ち寄る幾つかの惑星がちょっとバリエーション不足で、
行く先々での危機イベントもマンネリ感ひどくて見飽きるなあ、
と思っていたところだが、
第9話にしてようやく、
この作品の本筋はそんなことではない!というところから、サスペンスフルな展開が始まる。
{netabare}正直、メインテーマに持って来るまでが長すぎでしょ!
とは思うが、テーマにも絡んでくるところだし、
遭難・漂流メンバーのキャラ紹介もしっかりやりたかったのだろうなと思うと、そこも仕方がないかも知れない。
もうちょっとスマートに出来なかったのかなとは思うが。
出ましたね、第1のメインテーマ。
「クローン」!
これ自体は、70年代の「ブラジルから来た少年」あたりから注目され始め、日本では「エヴァンゲリオン」で一気にブレークした問題で、
本来なら、もっと導入部から鬱展開でやっていてくれたら、
作品の質もずっと上がっていたような気はする。
「ブラジル~」では人格を100%生得的気質だと単純化してしまっていたのが気に入らなかったが、
この作品では、同じDNAで構成されていても、習得的気質でクローニング個体にも全く別の個性が醸成されるものだ、
という当たり前のことが明確に描かれていて、「ブラジル~」の不満は完全に克服できている。
一方で、「エヴァンゲリオン」の綾波レイのように、人格の生じないコピー体を培養し続け、記憶だけを上書きしていくやり方だと、
ひょっとしたら、「習得的人格の生じる余地がすごく小さくなる」という仮説があり、これを映像化してみせたエヴァは、まさしく衝撃的だった。
(もっとも、それでも3番目の綾波レイはゲンドウに反旗を翻すほどに、2番目とは異なる人格形成を成し遂げていたのではあるが)
「故郷に生きて帰ろう!」「そして俺たちをこんな謀略で抹殺しようとした“親”を告発しよう!」という明るい展開は、
この作品の視聴ターゲットにマッチしていて、敢えて問題を深堀りしない潔さが感じられて、これはこれで、「アリ」だ。
でも、クローンの元人格を消し去るのは、今でも割と簡単な脳手術で出来る
が、
作品中で、脳科学者が研究して実現できそうだとしている、
元のDNA提供者の人格を移植する技術が確立したら、これはちょっとすごいことですよ!
ホントに身体を乗り換えながら延々と生きる、ハガレン水嶋版みたいなことが実現できちゃうじゃないですか!
ていうか、すでにiPS細胞の獲得によって、人類は、自分の身体を丸ごとコピーできる科学技術を獲得しつつある訳で。
癌やら心臓病やらに罹ったときに、あらかじめ用意して、
健康なまま保存しておいた自分の臓器と取り替えることは、もうさほど未来ではない時期に実現するのだ。
これに脳科学が加われば、この作品の示唆するとおりの、大変なことが出来てしまうじゃないか!
という大問題だが、これはこれで。
で。
作品の第2のメインテーマ。
「地球なの?アストラなの?」問題。
ポリーナのいう西暦と、カナタたちのいう西暦に齟齬が生じているうえに、
アストラと、地球は似て非なる存在。
ポリーナの発言からは、地球は絶滅の危機に瀕している状態だったようで、
カナタたちの生きてきたアストラとは状況が違い過ぎる。
ここはちょっと、世界線とかのご都合主義が出て来て、並行世界とかの凡庸な話に丸め込まれそうで、なんか嫌な気配がする。
高校生がキャンプに行くぐらいの感覚で操れるワープ航法できる宇宙船「アストラ号」と、まだ成し遂げたことのないテラフォーミング可能な星を探す宇宙飛行士ポリーナとの、持っている科学技術の大きな落差と、ポリーナの母船とアストラ号のドッキングが簡単に出来てしまっているという事実があるので、「実は何千年も年の離れた人でした」説は無理だし。。。
やっぱり残念ながら並行世界なのか?
もっと格好いい冴えたやり方があるなら、大喝采だが・・・
このふたつの問題が顕在化したことで、一気に盛り上がったが、
忘れちゃいけない、仲間の中にひとり刺客がいるってこと。
まあもっとも、気の利いた視聴者になら、もう判明しちゃってるが。
メインテーマがはっきり見えてきたことで、
作品は、終盤に来て、ようやく盛り上がったけど・・・
{/netabare}
肝心の、ことの顛末、全部 端折っちゃうのかい?!
そりゃあないでしょ。
だったら、少年少女の生還劇、しっかりと描いて欲しかったところだ。
盛り上がった気分を着地させる場所が見つからない、
漂流者のような気分で終幕となったのでございました。