みかみ(みみかき) さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.5
作画 : 4.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
エンタメ職人芸
とりあえず見たので、見たよという、報告まで。
簡単に思ったことなど、メモ程度に箇条書きで適当に。
▼ストーリーがめちゃくちゃクラシックで、シンプル。これは作品制作チームの仕事の組み立てがしやすそう
基本は、「大事な人が死んでゆく話」で、「女の子の死と引き換えに世界が救われるはなし」という構造がしっかりと守られている。
この手のはなしは昔からすごく多い。2000年以後のヒット作だと、FF10とか、恋空とか。
すべてのシーンがこの骨格をもとに、きちんと構造的に組み上げられている。その意味では、きわめて、高度なエンタメ職員としての仕事だという感慨がある。新海誠は、完全にエンタメ職人となったのだな、ということがしみじみとわかる映画だった。
エンタメの「お仕事」としたは、配給なども含めてすばらしい仕事としか言いようがない。
▼エンタメとしてのクライマックスをどうつくるのか、ということが計算され、そのために、すべての小道具が、作品をもりあげるためのフレーバーとして、計算されている感じで、見ていてほぼ完全に物語の設計が──つくり手側が何をしたかったかというレベルで──クリアにわかったので、それは個人的に新鮮。
▼他方で、純粋なエンタメとしての評価ということから、目を離せば、まあ別の評価になるだろう。
▼たとえば、警察は、「理解してくれない大人」の小道具でしかないというのが、徹底されている。ここまで物語の道具として記号的に使われていることが露骨だと、むしろ嫌味がない。
警察は「理解してくれない世の中」のシチュエーションを描くためには不可欠な小道具であり、「銃」も警察ががんばってほだかくんを追ってきてもらうためには、不可欠だし、非日常の扉として使いやすい。
▼もちろん、この作品をマジで、現代のある程度リアルなはなしとして捉えるのであれば、ほだかくんは「迷惑なクソガキ」以外のなにものでもないと思う。ほんと。
反権力とか、正直なんにも関係ない。ただ単に、子供が子供の世界のロマンを徹底するためには、ロマンのもり立て役として、記号的な「世の中」が必要だったというだけで、警察は召喚されて、子供が相手をさせられている。大雨で東京が沈みかけているような日に家出少年の捜索などで、そんなに人員がかけられるとは、とうてい思えないが、映画の構造上クライマックスの役者として、警察は絶対に必要だという以上の理屈が一切ない。
ほだかくんは、なんか、あれだけ必死で家出しているということは、なにかDVでもあるのかと思ったけど、そんなことは何もなかったようで、さすがにそこぐらいは、もう少し設定をつめてほしかったとは思う。まじなはなし、「家に帰れよ」としか言いようがない。
スガさんは、まあ、こういう人、リアルでいたら、多分、子供っぽくて仕事相手としては迷惑そうな人だなあと思った。まあ、作品内で完結している範囲では、いい人そうな世の中にしばられない人ということになっているけれども……
▼新海さんを頂点とする、このチームが貴重なのは、この子供っぽいダメさをもちながら、他方でこれだけ金のかかった大規模プロジェクトをまわしているところだと思う。ほんとうに。
大規模プロジェクトまわしている監督はだいだいの場合、気のつよいタイプの人格の人になりがちなんだが、ナヨナヨっとした主人公を描く人でこれだけの大規模プロジェクトがまわってるというのは、なんかプロジェクトとしてすげーなと思うわ。
川村元気さんとかがすごいのだろうか?
▼ほか
・単にエンタメというところにとどまらないというとこだと、バニラが登場した時点で個人的には、とてもよかった。新宿の風俗がそのまま表現されていたのは、すばらしい。というか、個人的にベタによかったのはそこがメインだった。
・すでに、言われてるけど、話がエロゲーっぽい感じはある。ヒナちゃんのギャルゲヒロイン感はすごい。二次創作でどこがエロシーンになるかの想像がおそろしく容易でなんだか、これがメジャー映画だっつうのは、時代がかわったなあと感じる。
・RADWIMPSかかりまくるのには、相変わらずで、申し訳ないがちょっと笑ってしまった。新海さんの純粋なRADWIMPSへの好意みたいなものもかわいらしいな、と思うが、映画自体がまるで巨大なJPOPのMVみたいだという気もする。
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もうすこし大きな感想をすこし述べておくと、新海さんがエンタメ職人として洗練されていくこと自体はいいんだけど、時代を代表する作家に、もう少し、知性を感じる人がほしいな、とたまに思ってしまう。
国内のコンテンツ史的には、手塚や宮崎駿のような左派インテリが、偉大なエンタメ作家であった時代というのはある意味では、本当によかったと思う。それはエンタメと、社会的な議論の間が架橋されていたということでもある。
右でも、左でもいいので、もう少し社会的な議論とかかわるような作品が、ドーンと、超ヒットをとばしてほしい。もちろん、そういう作家はいるにはいるのだが、国内のマーケットがわかれてしまっていて、最メジャーにはならない感じが、なんだかさみしい。
『ズートピア』みたいなものを生み出すことができた北米のコンテンツ産業には、歴史的な評価ということだと徐々に勝てなくなっていくよなあ、と思う。