蒼い✨️ さんの感想・評価
3.8
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
夢のあと。
【概要】
アニメーション制作:スタジオジブリ
1994年7月16日に公開された劇場オリジナルアニメ。
原作・監督・脚本は高畑勲。
【あらすじ】
大昔から狸たちは東京の多摩丘陵の山林で楽しく暮らしていた。
狸たちは人のいないところでは二本足で立って人と同じ言葉を喋っていた。
しかし、昭和40年代に入り多摩ニュータウン建設で山は削られ木は切り倒され、
都会化する地の人間の利便性と引き換えに、狸たちの住む場所の多くが奪われていった。
狸たちは自分たちの棲家をこれ以上人間の手で荒らされてはかなわんと、
餌場を巡る今までの縄張り争いをやめて団結して決起。
狸の伝統的変化術である化学(ばけがく)を復興し、変化の術であの手この手を使って、
人間を驚かせ、時には工事を妨害して事故を起こし、
人間たちの畏れ・信仰心を呼び起こすことで、
山地開発事業を止め撤退させようと日々勤しむのだった。
【感想】
この作品を見る前に、原作者であり監督でもある、
故・高畑勲の生い立ちをおさらいしておくのを推奨。
9歳で岡山市で空襲を体験。長じては東京大学文学部を卒業。
マルクス思想に傾倒したガチの共産主義者であること。
高畑勲の人生を踏まえたうえで、この作品で描かれているものを考えてみると、
表向きは環境問題や古き良き時代へのノスタルジーをテーマにしているかのようではあるが、
昭和の左翼闘争史を化け狸たちに仮託したものに見えてしまう。
人間たちは打倒すべき体制側、狸たちは反体制の闘士。
一見コミカルに描かれているが狸は自らの目的のためならと、
過激派に身を投じる狸もいて人を殺すことを厭わず。
実際に工事関係者3名を狸が殺害しているし、
犠牲になった人間への黙祷を形だけは捧げているものの揃いも揃って大笑い。
陽気にヤンヤヤンヤと踊りだす狸たちの姿に日本社会で反権力に身をやつす層の本質が、
赤裸々に描かれている。人間たちを殺さなくても化かして驚かし歓喜する姿。
沖縄にて米兵への嫌がらせを繰り返したり、勝手に道路を封鎖して私的検問を作ったり、
大量の車を持ち込んで横向きに停車して地元住民の生活道路を使用不能にする等のやりたい放題。
挙げ句に出動した機動隊とやり合う、今の時代になお残るリアル活動家の姿が狸とかぶる。
活動家の本質は闘争であり暴力なのだ。加害行為の正当化のために被害者アピールをする。
それは、煽り運転&暴力行為で逮捕された例のM容疑者のごとく。
自己の正義を主張しつつ自己矛盾を無かった事にする御都合主義。
狸たちは、活動家連中との共通点が多い。
自分たちを理解してほしいくせに他者への洞察力が足りない。
自分たちが正しいことをしているから、当然周りからも支持されるべきだという考え方。
狸たちは頭が良くないし、目的に結束する自分たちの姿に酔っていて、
ビューティフル・ドリーマーの学園祭前日の友引高校生徒たちみたいに楽しそう。
かといって決して一枚岩でもなく、いくつものセクトに分かれて内ゲバを繰り返している。
作中での狸は馬鹿騒ぎして暴れまくった挙げ句に最終的には敗北者になってしまう。
敗北の理由が明瞭に描かれている。身内同士での盛り上がりに反して、
狸と人間の価値観が違いすぎて民衆からの理解と支持を得られなかったからだ。
アカがマルクスだのレーニンだの議論しても大衆からの興味が皆無であったかのと同様に。
主人公である穏健な狸・正吉の冷静な視点から狸たちの問題点が客観視されており、
それは、共産主義に染まりながらも活動家たちの姿を俯瞰して見れていた高畑勲の知性ということか?
反抗することは彼らの主観では楽しい夢の世界。
狸たちが人間たちに紛れてストレスだらけの日常の中で人として生きる結末は、
夢から醒めて現実の社会に還ることのメタファー。
要は、この作品は昭和時代にはびこり、
今も残り火が続いている活動家のマインドへのシンパシーを醸し出しつつ、
時代に置き去りにされて廃れていきつつも、
今日も生きていく彼らの姿を客観視して動物の姿で記した物語。
権力との戦いに身を投じた若き日の自分の姿に重ねて涙する者もいれば、
自分らと関係ない世界だと狸が愚かと思ってしまう者もいる。
視聴者の人生経験から経た価値観によって評価が分かれる作品に見えた。
平成生まれには理解が難いかもしれない老人が学んだことや人生経験の集大成。
そういう古き世代の心象風景を後の世代が理解するに適した作品が、この映画なのである。
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。