「天気の子(アニメ映画)」

総合得点
84.2
感想・評価
714
棚に入れた
3102
ランキング
296
★★★★☆ 3.9 (714)
物語
3.7
作画
4.5
声優
3.7
音楽
4.0
キャラ
3.7

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ネタバレ

sinnsi さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

現代の歪みへ訴えかけるメタファー (※小説版必読?)

【物語(+キャラ)評価】
{netabare}本作は、現代の歪みを非常によく描いた作品である。
しかし小説版を読まなければ、それを描くラストシーンの展開を、理解し難いかもしれない。
(以下の物語評価中のネタバレは、小説版で大きく提示された部分になる。)

大前提として、示し合わせたかのように須賀・夏美・凪が、陽菜を救おうとする帆高に協力していたのは、
三人ともに共通して、{netabare}「鳥居のあるビルの屋上から、晴れ女が空に昇っていく」夢を見ているのだ。
それもこの三人だけではなく、最低でも東京都民全員が、夢という知覚差の大きい事象で見ている。
帆高を追っていた警察だって、見ていたのだ。
(映画でそのことを示唆されたのは、萌花からの電話・Twitterの1つぶやきだけ。){/netabare}

だから廃ビルで帆高が銃を向け、
「なんで邪魔するんだよ? 皆なにも知らないで、知らないふりして!」
と、須賀や警察に言い放ったのは、見て見ぬふりをする者たちへの、正当な叫びだったのだ。
知覚差が激しく、犠牲の上に成り立ち、見て見ぬふりをされる歪みを、帆高はただ別の方向にねじ曲げたいだけでしかない。

まさしくそれは、現実の気候変動や搾取と同じである。
けれどもそんなことを変えるのは難しく、変えようとしても大きな力でねじ伏せられるだけだ。
本作上においても警察は聞き入れず、帆高はねじ伏せられ、左手首に手錠をかけられたのだった。

しかし須賀は、{netabare}もう二度と亡き妻に会えないという自分自身の立場から、
何もかもを犠牲にして陽菜に会おうと、救おうと、奮闘する帆高に強く共感し{/netabare}、帆高に迫る警察を殴り飛ばしたのだった。
間もなく駆けつけた凪も加勢し、「姉ちゃんを返せよっ!」と帆高に言い放つ。

ありのままの世界で見れば、彼らのやっていることは犯罪行為でしかなく、嫌悪感すら覚えるかもしれない。
しかし、彼らの世界から見れば、彼らが正しい。

彼らは潜在的な共通認識をねじ曲げようとしている。これは革命なのだ。
誰かが行動を起こせば、歪んだ構造は別の方向にねじ曲がるかもしれないが、
誰も行動を起こさなければ、絶対に変化はしないのだ。

また本件はトロッコ問題と通じる部分があり、陽菜の命を守るための緊急避難が成立するため、犯罪行為と断罪することはできないだろう。
(※ただし天気の巫女という特殊性のある案件のため、立証は難しい。)

~~

鳥居をくぐった帆高は、積乱雲の上に広がる草原で、陽菜と再会する。

本作の日本国上において、何千万人も影響を受ける強烈な気候変動と、一人の少女である陽菜との命を天秤にかけたとすれば、どうだろうか。
関係のない第三者からすれば、そのまま見て見ぬふりをしてしまうかもしれない。

現実の途上国でも、ずっと気候変動や搾取で苦しんでいる人たちがいる。
快適なエアコン、このインターネットも、そうした犠牲の上で成り立っている部分もあるだろう。
だけどそれだって、潜在的な認識でしかないだろう。関係のない第三者として、見て見ぬふりをしているかもしれない。

だけど主人公である帆高は、当事者だった。
帆高にとって愛する人とは、国とは、陽菜そのものだったのだ。

だから帆高は、こう叫んだ。

「もう二度と晴れなくたっていい!」

「青空よりも、俺は陽菜がいい!」

「天気なんて――狂ったままでいいんだ!」

~~

その後、日本国の気候は狂ってしまった。
雨は3年間やむことなく、東京の1/3は沈んでしまった。
これで良かったのか。そう思ってやまないのは、帆高だけでなく、救われた陽菜自身もだった。

不安げな陽菜に対し、帆高は次のように力強く告げ、物語は終わりを迎える。

「僕たちは、大丈夫だ!」

この3年間、人々は努めて生きていた。
失ったものはあれど、復興から発展へと向かっている。
人間は、変化に適応できるのだ。{/netabare}

【作画評価】
間違いなく★5.0級である。

これまで新海誠監督の作品は、あらゆる美術背景を綺麗に描き出そうとしているように見受けられたが、
本作は綺麗なだけでなく、都会の雨の陰鬱な感じを、最初から最後まで豊かに描き出すという付加価値まで加わり、
雨の日特有の空気感、静かな高揚感がずっと続く。実写映画にはないような空気感で、本当に実写顔負けである。
{netabare}(陽菜が人柱になって雨が上がったあと、晴れで過剰に明るくなっていたのは、良い演出であったと思う。){/netabare}

キャラデザと作画においては、やはり背景から浮くこともなく、一体感が強くハイクオリティである。
また前作『君の名は。』よりも動きのあるシーンが多かったが、非常に生き生きと躍動している。

雨・雷・雲・晴れの天気の作画においても、表情豊かに描ききっており、
観客を見ていて飽きさせることはない。

作品を重ねるごとに、作画はまっすぐ、素直に進化を重ね続けているので、
次回作にも非常に期待ができることは、間違いない。
(物語は一体何が出てくるのか、毎作未知数ではある。)

投稿 : 2019/08/18
閲覧 : 231
サンキュー:

6

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