退会済のユーザー さんの感想・評価
4.3
物語 : 5.0
作画 : 3.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
深遠な闇から浮かび上がる恐怖
享年34歳という若さで亡くなった伊藤計劃氏原作のSF長編アニメです。
冷戦時代より世界大戦へ進まんとする流れを、大国の「権力]によってコントロールし、
政治的に利用され続けている現在。その流れがもしそのまま突き進んでしまっていたなら。
この物語は、その後の人類が求め、行きつく先を想定し描く世界。
医療福祉と称し、絶対的な権力を持って人類を管理せんと目指す世界。
その後人類が築き上げた、病死や老いが無くなった医療福祉社会の中で、
この世界に抗う白髪の美少女ミァハが口にする「ミシェル・フーコー」。
フランスの哲学者ミシェル・フーコーの定義する「医療への権力論」とは。
真理には権力が伴う。合理性を理解出来ない者を排除し、効率的に人々を統治かつ制御する。
そして人々を監視し管理する社会。「正常」という概念を権力によって定義され、
同時に逸脱の定義によって監視し飼いならされる人々。
ミァハが求めた「権力」からの脱却方法は死することのみであるという事。
そして、ミァハが望む「完璧なHarmony」とは、選択という「意志」が無ければ「意識」も無い、
説明のいらない明白な道理のみが存在する、苦しみや悩み、そして哀しみや喜びも存在しない
恍惚の世界。
それは、この世界に生きながらも権力に抗おうとするトァンとは相容れぬ世界。
ミァハが言う「権利が押し付ける優しさや倫理、病気や老いの無い世界など、
決して人間に幸福をもたらすものでない」という言葉。
しかし、だからと言って人を排他していいものでは絶対にない。
人の意思の選択や意識のコントロールなどは絶対すべきではない。
ミァハを撃ったトァンが伝える思いとは、きっとそういう事なのでしょうか。
いつの日か絶対医療の世界が達成された時、人々は同じように管理し、管理されてしまうもの
なのでしょうか。医学の進歩と高度な遺伝子工学(ナノマシン)はいずれこの様な世界を生み
出してしまうのでしょうか。考える程に恐怖心が高まる作品です。