退会済のユーザー さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
青い鳥
私という人間は、他者から見れば人間そっくりに作られたロボットと見分けはつきませんが、私だけが知る私の内側の世界には、生命があり、すべてを感じ取っている心があります。
そこで感じられているものが美しく貴重であればあるほど、私はそれを大切に守ろうとします。
そしてそれは硬い殻をかぶり閉じこもることと とてもよく似てしまいます。
たとえその大切な感情が、他者を求める愛情であっても。
守ろうとする気持ちが強ければ強いほど、外からの危険に備えて感覚は研ぎ澄まされ、そして心の内側では人知れず膨大なエネルギーが消費されます。
その緊張から唇は閉ざされ、他人とコミュニケーションをうまく取ることができずに逃げてしまいがちになってしまいます。
瞳の色は暗くなり、伏し目がちになります。
この映画自体もまた、「ガラス越しに少女達を覗いてているように」と意図された色彩が全編を通して透明な美しさを極限まで高め、それゆえに観る者の心に緊張を生んで画面から目を離すことも、大きく息をつくことすら許しません。
みぞれの張りつめた想いを通して見つめられることで、天真爛漫に見えるのぞみもまた、胸の内は危うい均衡の上にあることがあぶり出されてきます。
これはほんの短い時間のたったふたりの人間についての物語ですが、これほど繊細にすみずみまで人の心の揺れや震えを描ききった表現を、私は他に知りません。
そしてこれが机の上のまっさらな白紙に描かれ、すべてがゼロから人の手によって生み出されたものであることに改めて驚嘆します。
これを作りあげた人達の到達した境地には畏怖すら覚えます。
もし人や人生に「価値」というものがあるとするなら、それは自分の外の世界に対して「何をしたか」ではなく、自分の内側で「何を感じたか」にあるのだと思います。
それは他人に測られるものではなく、本人にしか知り得ないものです。
多くのアニメーションが、この世界に住む本当に多くの人たちの知られざる心の中に譲れない宝石のような感覚を与え、感情を残し、それはその人たちの人生の「価値」を高めてきました。
この映画を観て、感想を書き表したり誰かに向かって話したりする人はほんの一部のひとでしょう。
でも、たとえ無口ではあっても、この物語に心を動かされた人に残された強い感情は、そのひとの胸の内で、透き通るオーボエやフルートの音のようにいつまでも鳴り響き続けるに違いありません。