じゅん さんの感想・評価
4.2
物語 : 3.0
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
あなたにとっての大丈夫になれたか否か
※レビュー前にひとつ。今作は単純に”晴れ女が世界を晴れにして終わる”ようなストーリーではありません。特に近年の集中豪雨の被害に遭われた(今年の九州などの)方が観るのは辛いのではないか、と思いました。そういった水害が身近にあった方は心にゆとりができた後で鑑賞された方が良いと思われます。※
公開前から賛否両論になるかも?とされていた今作。観終わって思ったのは人によって本当に様々な感想が出てくるだろうな、という印象。前作『君の名は。』のスッキリで爽やかな後味を求めて観にいくと「えっ?これで終わり?」という感じの肩透かしを食らうかも。個人的には好きなラストだった。
映像の美しさはそれはもう圧倒的で、そこは裏切られようのない所。
あと、予報で気にされている方も多いと思われる本田翼の演技も思いの外悪くなかった!(というか気にならなくなるくらいキャラが良かった。)他の俳優勢の演技も概ね良かったのでキャストを見て躊躇しているならそこは気にしないで見に行って良いかと。特に陽菜の弟である凪 役の吉柳咲良さんは声優初挑戦とのことだが凄くうまかった。
以下、ネタバレ含みます。長いです。
{netabare}
今作は前作『君の名は。』よりずっと伏線の張り方がよりわかりやすく、しっかりと皆が気づきやすいように描かれていると思った。この辺も前作のエンターテインメント性を意識して作った感じがする。その辺りで言えば音楽のRADWIMPSは前作以上に貢献している。劇中歌「グランドエスケープ」は今作のクライマックスをより盛り上げ、正直ここのシーンだけでも観に来てよかったと思えるくらい素晴らしかった。三浦透子の声がまた良い。
で、本当に評価する点は丁寧にエンターテインメント性を意識しているからこそのラストの救われない感じ。「天気なんて狂ったままでいい」と帆高は言うが、実際東京は沈みかけている。このまま永遠に雨が降り続けるとしたら、この物語は果たしてバッドエンドなのか?ひとりを救うか世界を救うか…。帆高は陽菜を選び、その代償として東京が水没してしまう。言ってしまえば身勝手エンドなこのラストを受け入れさせるためにはいかに主人公に感情移入できるかが大きい。同じような結末に至ったエヴァ破(シンジはサードインパクトを起こすリスクを無視して綾波を助け出した)は大成功しており、基本的にこういう展開だから嫌われるというようなものでもないのだと思う。ただその後順当に滅びかけた世界を描いたエヴァQは不評が勝っている印象なので、今作がふたりの再会で終わったという点ではエヴァより余程エンターテインメントしていると言えるだろう。
個人的に気になった点、というかツッコミをいれるならば、110分の大作ではあるが正直それでも尺が足りていないように思う。
序盤で主人公の帆高が持っていた小説「ライ麦畑でつかまえて」は、作品全体を表す隠喩的なものというよりも、「帆高が家出を決意した理由」のひとつの説明付に使われた小道具だったのかな、と解釈している。家出をした訳については全編通して明言されなかったためそういう解釈に至ったのだが、この小道具一つではよくわからないし、地元での帆高が描かれていないので本当はどんな奴だったのかもよくわからない。先にも述べたが、特に帆高の選択を観客が受け入れられるかどうかがこの作品の評価を左右するポイントだと思うので、もう少し掘り下げていたら良かった。
あとは人柱についても、陽菜以前の人が実際どうなったのかが神主のおじいさんの話で少し触れただけだったので、「空の上にあるもうひとつの世界」という設定が若干弱くなってしまっている。作中の描写から、水の魚が陽菜を取り込んであの巨大な水の龍の一部になってしまうのかな?、などと解釈しているが、それならそうなる前例を描いていないとなかなか納得しにくい。
ただ、新海監督はパンフレット内で「調和を取り戻せない世界で、新しい何かを生み出す物語を描きたい」と書いている。自分は監督が描きたかったものや何を主軸にしているか等を重視しているので、ツッコミを入れた点に関しては監督がそれ程重視していない点だと納得している部分ではある。もやもやは残るけど。
では、監督が描きたかったことはきちんと描かれていたのだろうか。ラストでもう晴れ女でも何でもなくなった陽菜がそれでも雨の降り続ける空に向かって祈っている。帆高はそれを見て「大丈夫」と言ったがそれは劇中歌の言葉を引用するなら「君の大丈夫になりたい」という意味だ。このまま永遠に雨が降り続けるとしたら、この物語はきっとバッドエンドに向かうだろう。でもその前に物語が閉じたことで希望は残ったとも言える。須賀や夏美たちも含めた彼らが新しい何かを生み出す事を、観終えた観客が願えた時、この作品はその人にとって「大丈夫」になるのだと思う。
{/netabare}