TaXSe33187 さんの感想・評価
3.6
物語 : 4.0
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
まあ賛否あるよなっていう
野崎まどが大好きなので視聴、今更ながら感想書いてなかったので
序盤は本当に驚きの展開みたいなSFと政治の融合で、正統派なワクワクを感じていた
中盤で「おや?」というところがあり、終盤で「なんじゃそりゃ!?」に変わっていく感じ
野崎まどらしさ前回の展開で、小説だったなら間違いなく名作になるだろうと思う
ただ、1クールアニメで表現するにはあまりに突飛すぎたことと、野崎まどを知らない人は序盤と終盤のギャップを肩透かしに感じるだろうことはわかる
実際、野崎まどファンとして視聴していた自分もこのラストには呆然として正直ガッカリした
ところが、視聴を終えたあとに話を整理してもう一度最終回を見直してみると本当に納得の行く結末だったんだと感動してしまった
この作品で最初に真藤が語っていた、「互いの利益を生み出す」という交渉の考え方をより根本的な部分まで考えると結末が見える
ラストの展開を、「真藤を求めるザシュニナと、それを断った真藤がバトルする」みたいに捉えると、最低のラストという評価でも仕方ないと思う
ただ、これを「相互利益の追求のために、あらゆる手段で交渉を行う」と捉えると途端に見方が変わる
両者の表面的な欲求は
真藤「自分が異方へ行ってしまうのを阻みたい」
ザシュニナ「真藤とともに異方へ行きたい」
ただ、実際の本質的な欲求は
真藤「人類が異方へ連れ出される=強制的に変革されることを阻みたい」
ザシュニナ「処理しきれない程の情報=驚きを得たい」
となる
この場合重要なのは、
「人類の変革を阻止することが重要な課題=自身の変化を不安視しているわけでない」
「繭から解き放たれた世界でより高密度の情報を生成してもらいたい=人類が異方へ旅立つこと自体が目的ではない」
この二点なので、真藤はこの2つを同時に達成させることこそ「交渉のゴール」と認識している
その結果が物語ラストの展開
「特異点を生み出し、ザシュニナの想定を超えた驚きを与える」
という結果になった
もちろん人類全員が異方へ旅立つことに成功した場合に得られる情報には到底及ばない
しかし、人類の変革は真藤が求める利益に真っ向から反対するため実現は不可能
そこで、ザシュニナ個人に驚き(処理できない情報)を与えるという形で利益を生み出した
つまりザシュニナは当初求めていた最大の利益こそ得られなかったが、「相手の利益を損なわない範囲の最大の利益」を手に入れた
真藤にとっては「人類の変革を阻止する」ということが最大のテーマのため、解決手段としてアンタゴニクスとユキカを用意した
もちろんユキカがいればアンタゴニクスなど必要なく、簡単にザシュニナを追放してしまうこともできる
ただ、その場合「真藤が一方的に勝ちすぎて、ザシュニナに利益を与えられない」結果に終わってしまう
これは真藤の考える交渉の理念に反する振る舞いでしかない
そこで、自身がアンタゴニクスを使用してザシュニナに直接対決を挑む、という形をとった
仮にこの対決に勝利すれば、「ザシュニナの想定を超える装置を人間が生み出す」という驚きを与えられる
失敗した場合は真藤の死という「想定通りの結果」を与えることでユキカが存在することを隠すことに繋がる
あとはユキカが登場してしまえば、「人類と異方の特異点」という衝撃をより大きく与えることができる
つまり真藤は自身の生命こそ支払ったが、「人類全体の変革の阻止」という利益を得ることができた
神にも近いザシュニナではなく、自分を捨てることすら交渉材料にしてしまう真藤こそ、この作品の真の化物だった、というオチ
反対にザシュニナこそ、人間関係に拘泥し自身の目的を暴走させてしまう、真に人間らしい存在だった、とも
意見が真っ向から対立する立場にあった二人が、それぞれに利益を得るという、完璧な「交渉」を成功させてみせたのがこの話の結末といえる
こうしてみると実は全体でテーマは一貫していて、SF的なギミックを利用してうまく目くらましを行う「これぞ野崎まど」といった作品だった
ただ、1クールでは展開の変化が急激すぎて違和感がどうしても拭えないし、そもそもアニメで表現することを想定したとはとても思えない
「最初の展開のまま進めば名作だった」は厳然たる事実だし、「終盤は超展開」もやはり厳然たる事実
そこを踏まえた上で、それでもこの作品を考察してみると深い納得を得ることができる
人を選ぶし両手を上げて好きと言える作品ではないけど、それでも面白い作品だった