fuushin さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
歌に生きる力を込めて。
シンガーソングライターとしての二人の少女の生き方を縦軸に
出会いやふれ合い、ぶつかり合いから生まれる化学反応を横軸にして
地球と火星、政治と暮らし、ビジネスとドリーム、ヒトとAIなど、さまざまな要素を対峙させながら、背景に重ねていく構成になっています。
2クールの時間をとった物語は、丁寧に描きこまれていたと思います。
とはいえ若い2人の感性や目線がベースになっているみたいですので、社会的リアリズムに寄せる味つけではなく、どこかお伽話じみた軽やかさを見せるシーンが多いように感じました。
どうやら、現実の重々しい圧力や、苦々しい喘ぎは、周りの大人たち、たぶん視聴者が心のうちに担う役割になっていて、自然と2人を応援するような演出になっていたのかもしれません。
彼女らのクリティカルは、あくまでも楽曲のパフォーマンスに限定・集約されていて、それゆえにあどけなさや頼りなさを含みながら、しかし、何ものにも縛られないまっすぐなメッセージとなって、視聴者に届けられていたのではないかと感じました。
ベテランミュージシャンたちの重厚なキャリアと、初々しいビギナーの真っさらな立ち位置の落差が、2人の音楽性を深く思索させたり、強く繋ぎ止めたりして、やがてステキな歌と心地よい曲を生み出すエネルギーになっていることがよく伝わってきました。
それにしても、毎回の楽曲が魅惑的でした。
日本語歌詞のテロップを目で追いかけながら、奏でられるメロディーに耳を委ねてみると、キャロルとチューズデイの楽曲への想いが、じかに伝わってくるようです。
そのメッセージを、ストーリーの展開や作画にも関連づけながら、さらにイメージを膨らませていくと、2人の想いはもちろんのこと、彼女らが肌感覚で受け止めている火星の世相そのものが、作品自体のテーマを語ることにつながっていて、そこに込められたメッセージか少しずつ見えてくるような感じがしました。
ほんとうに「歌は世相をあらわす」と申しますが、2人の暮らしや息づかいを今としてインプットし、生まれようとする明日へとアウトプットするプロセスの一つ一つを見ることは、コンサートだけを楽しむそれよりも、ずっと上質な陶酔感が得られたように思いました。
Mother.
どんな出生でも、どんな生き方でも、みな等しく地球をルーツとして生まれた存在。
Mother.
どんな未来でも、どんな人生でも、みな等しく歌に生きる力を込めていける存在。
アンジェラとタオの成功者としてのエピソードは、AIよりのミュージシャンの設定として描かれていましたが、むしろ人工的にデザインされた存在としての生きづらさが強調されています。
それでもなお、生きる意味を歌に求め、歌うことでこそ自分を取り戻していく筋みちがあることを感じさせる最終話のステージの演出には、どこかほっと胸をなでおろすものでした。
期待値の高い作品でしたので、物語としてはややライトなシナリオだったこと、人間描写にも今ひとつのもどかしさ、物足らなさを感じたことは、正直なところです。
ですが、楽曲メインを楽しむ作品としては、上手くまとまっていたかなと感じました。
赤ちゃんの産声は、ラの音だと聞いたことがあります。
音楽もラララ〜♪と歌うので、ヒトの生命との根源的な関連があるのでしょうか。
せめて、OPやEDのメロディーを、ラララ♩と歌ってみようかしら。
長文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本作が、皆さまに愛されますように。