ドリア戦記 さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
花火と祝祭
相当昔に見たアニメですが見直す時間がないので軽く書きます。
劇団新感線の中島かずき脚本の新感覚時代劇アニメ。
これもちょっと評価が難しい。
新劇の要素をアニメに入れた江戸を舞台にした作品なので
合う人合わない人の差が出るのでは。
その前にこうした洒脱なアニメについて一言。
江戸時代というのは町人文化が栄えたのですが、
藩も様々な所から江戸にやって来る人が入り乱れた町らしく
それなりに「異文化」摩擦というのがあったようです。
むやみに人様の心理にズカズカ立ち入るのは野暮という考えがあったようで
テンプレの忠義モノや人情モノは人気を博しましたが
心理描写の濃い作品はほとんど見かけませんでした。
近代以降文学作品に心理描写が欠かせなくなり
アニメもその影響を受けるのですが、
一方でそうしたディープな心理描写を排除した作品もアニメにあります。
この『大江戸ロケット』もそうです。
他にもあえて心理描写を薄くして、軽さとドライさ、クールさを狙った作品に
『ルパン三世』『博多豚骨ラーメンズ』が思いつきます。
『大江戸ロケット』は劇団新感線の新劇にも通じますが
一種の「お祭り」なのですね。
ミハエル・バフチンが好きな人ならこの辺りけっこう詳しく解説しそうです。
人々が集まって徐々にお祭り気分が盛り上がり
花火のように華麗に賑やかに打ちあがって、サッと散る。
祭りの中で生と死が転換し、この世とあの世が繋がり、聖と俗が交差する。
お話はナンセンスでご都合主義のてんこ盛り。
あの手この手で様々な「お約束」を突き崩し、お江戸にケータイ、テレビまで出現します。
そんなシチュエーションに登場人物からのメタ発言も連発されます。
お祭り(カーニバル)らしくパロディや風刺も豊富です。
ただ演劇の場合は客席と舞台の距離が近く一体感というものが感じられる。
観客と役者が同じ「時間」を共有するという演劇の性質を
フルに生かしたのがカーニバル性の強い劇団新感線のような
一過性の祭りや盛り上がりを重視する新劇の強みです。
(もちろん新劇には観念性の強い作品もあります)
役者の演技の熱量がすぐに客席に伝わり、
観客の反応が役者にも伝わり相互作用が齎される。
ライブならではの盛り上がりというのは音楽や演劇に良く行く人なら分かるでしょう。
一方、アニメや映画等の映像は作り手と受け手が同じ時間を共有しません。
熱気というのが直に伝わりにくい。
ちょっと劇団新感線のノリ重視は
アニメという映像媒体に向かなかったのじゃないかと思うところがあります。
終盤に向けてカタルシスを溜め、熱狂に観客を巻き込み
ボルテージを上げていく手法は演劇と同じなのですけど
舞台と同じだけのボルテージをあげ切ったようには思えません。
舞台は観客の反応を読んだ役者のアドリブなども楽しいし、
盛り上げに一役買うのですが
そういうのアニメではありませんものね。
それでも一風変わったアニメをお求めの人には一見の価値があるのではないかと思います。