岬ヶ丘 さんの感想・評価
4.4
物語 : 3.5
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
手に余る青春、ただひたむきに頑張れることの尊さ
100分で描き切れるほど「響け!ユーフォニアム」の世界は簡単なものじゃない。それくらい久美子たちの日々はたくさんの事でいっぱいで、色んな事を考えなくてはいけなくて、とにかく目まぐるしい。
部活に、恋に、将来のこと。どれもここまでは部活の領域、ここからは将来のことなんてふうに、単純に線引きできるものじゃない。色んなことが繋がっていてぐちゃぐちゃだ。
久美子と秀一が一定の距離をとることになったのも、彼らが自分たちの手に余るほどの青春を送っていて、もう自分でも制御できないくらいに日々を頑張っているからなのではないかと思う。
本作で久美子は2年生になり、クセの強い後輩の面倒見係を担当することになった。その中でも同じユーフォ担当の奏が本作の重要なキャラクターになっている。二人の会話で印象的なのは「頑張るとは何なのか」について。本作の大きなメッセージにもなっている。
最近いつの間にか老け込んだなあと、自分の老いに気付くことがある。それは何かを頑張れなくなったときだ。頑張れないとはいっても、今でもなんとか頑張って生きてはいるつもりだ。ただ後先考えずに闇雲に頑張れなくなった、そこに老いを感じるのだ。ただがむしゃらに頑張ることが怖くなってしまった。
作中で奏は中学の辛い経験から頑張ることの意味を見失い、頑張ることに疑心暗鬼になってしまう。結果ありきの頑張りしかできなくなってしまっている。久美子と同じ教育係の加部先輩も顎関節症で部員からマネージャーになったが、彼女もまた頑張ることに少し疲れてしまったのかもしれない。
久美子も頑張った先に結果が伴わないかもしれない現実を知っている。麗奈からは将来プロの演奏者になる決意を告げられているが、久美子は将来の明確な進路をまだ決められていない。色んな迷いや不安が彼女にもある。
それでも彼女は面倒な後輩の面倒を見ながら毎日練習に励み、一生懸命吹奏楽と向き合っている。もちろん部としては全国大会金賞という目標があり、久美子もそれを目指してはいるのだが、彼女はそれ以上の何かを目指して日々ユーフォニアムと向き合っているように思える。
人間は基本的に頑張ることが苦手だ。何か明確な目的や打算、結果がないと頑張ろうと思えないし、実際続かない。頑張るにしてもなるべく効率よくやろうとか、他人と比べられることを避けたがるし、とにかく面倒で臆病だ。
久美子がすごいのはそれでも頑張る意味を見失わず、今をひたむきに頑張り続けていることだ。それができていることが尊いと、私は思う。
結果や理由・見返りを求めなければ頑張れなくなってしまった私には、久美子の姿が眩しかった。けれど奏が大会を終えた後「悔しくて死にそう」という言葉を口にしたように、もしかしたら私ももう一度頑張れるのではないかと、ほんの少しだけ思えたような気がする。
久美子は3年生となり、部長になった。時が進むのは早いような遅いような、不思議な感覚だ。ただ彼女にはこれからも変わらず、迷いながらもひたむきに頑張って、前に突き進んでほしい。私にとっての、人生の憧れの先輩でいてほしい。久美子にとっての憧れの先輩が、ずっと明日香であるように。
視聴日 19/5/16