101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
穢れた心から噴き上がる地獄の業火
原作小説『ノートルダム・ド・パリ』(『ノートルダムのせむし男』)は未読。
15世紀・パリ。ノートルダム大聖堂の鐘衝き部屋に閉じ込められたジプシーの“せむし男”
外見は醜悪だけど、心は清らかな青年・カジモドの物語。
(せむし男は放送禁止コードのため、本作邦題は改変されたそうですが、
そんなガラパゴスな言葉狩りは無視の方向で)
黄金期の再来と評された90年代のディズニー長編アニメ群ですが、
私はこの時期のディズニーは正直、苦手です。
自分は特に作画構成と折り合いが悪いです。
巨費を投じて、CGを活用した迫力の背景や群衆映像を構築する一方、
キャラクターは伝統的な手描きタッチを残す。
後年のキャラまでCGらしい造形で背景と統一されたディズニー作品を観ると尚更、
この時期のディズニーは大人でも楽しめるアニメへの進化の途上と感じてしまいます。
さらに私は脚本、演出にもアンバランスさを感じてしまいます。
シナリオやテーマに大人向け要素がある一方、
セリフ回しやギャグのノリは子供向け。
キャラ動作は伸縮の激しい『トムとジェリー』では……。
ミュージカル曲も近年の日本語吹き替え版でも大人の心に響くレベルにまでは達してない印象。
今観ると『アナ雪』ブームに至るまで、
ディズニーも色々試行錯誤して来たんだなぁ……と感慨を覚えます。
そんな相性の悪い90年代ディズニー作品の中でも、
比較的、興業不振だったと言う本作は個人的に出色。
やはり、作画の評点こそ高くなるものの、作画、演出のバランスは好きになれず。
後年、作画レベルを大幅に落してCG作画が削減された続編OVA『ノートルダムの鐘Ⅱ』の方が、
私はまだ安心して視聴できるくらいですが、
つんのめりながらも鑑賞して掴み取った本作の肝。
ディズニー得意の美醜設定の再生産でありながら、
差別や心の在り方を問うたテーマは重厚。
定住民から移動民・ジプシーへの差別にしても、魔女狩りにしても、
差別する側は至って真面目に正義に則って罪を重ねるあたりに唸らされます。
原作から改変されたと言う展開についても、
嫉妬と言う感情を収められた人間とコントロールできなかった人間との対比がお見事。
終盤、{netabare} 最高裁判事フロローの妄執からパリに燃え広がった魔女狩りの炎が、
ノートルダム大聖堂に迫る描写には鬼気迫る物があります。{/netabare}
ラストについても、テーマとの合致という意味では筋が通っていると思います。
ただ……やっぱり、最後、{netabare}カジモドがエスメラルダと結ばれないのは悲しいです。
嫉妬を必死に抑えながら、フィーバスとエスメラルダの関係をアシスト、祝福する言動を通じて、
清らかな心を貫き通した故、醜男が陽の当たる場所に出てくることができた。
という教訓はしっかり伝わって来るのが余計に切ないです。
悲劇に終わると言う原作に比べればハッピーエンドなのでしょうが、
悟れない私は、結局、イケメンじゃないと幸せになれないの?
と言う黒い感情がどうしても芽生えて来てしまいますw
ブサ男の幸せを願う世界の男性その他のみなさん。
今なら続編と言う救済措置があるので、是非『Ⅱ』でリベンジを果たしましょう。{/netabare}
付記:先月のパリ・ノートルダム大聖堂の大火災、衝撃的でした。
映像を観て、不謹慎にも真っ先に本作の再鑑賞を思い立ち、TSUTAYAに駆け込んだ私。
私のレンタルで在庫3本は全て貸し出し中に。
同じこと考える人がいるのかなぁと切なくなりました。
大聖堂の“立体迷路”としてのアクションやギミック、
隠し場所としてのシナリオ展開への活用等も多彩だった本作。
今回、消失した尖塔にはさらに、修復工事用の複雑な足場が組まれていたとのこと。
某国大統領はヘリから消火剤を云々とツイートされていたそうですが、
本作を観ると、大聖堂に一度、火の手が及べば消火活動は相当困難だろうなと感じます。
文化財を火災から守る難しさを再認識させられる出来事&再鑑賞となりました。
ノートルダム大聖堂は5年後の再建を目指すとのことですが、
その時に良い意味で改めて本作を思い出すニュースを聞ければ幸いです。