「王立宇宙軍オネアミスの翼(アニメ映画)」

総合得点
71.9
感想・評価
275
棚に入れた
1129
ランキング
1247
★★★★☆ 3.9 (275)
物語
3.8
作画
4.3
声優
3.7
音楽
3.9
キャラ
3.7

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ネタバレ

Progress さんの感想・評価

★★★★★ 4.5
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

王立宇宙軍オネアミスの翼 レビュー

週末にみて平日ずっと悶々と作品の感想を考えてしまうほど、この作品は衝撃的でした。

物語の感想に入っていきましょう。完全に物語を考えるネタバレレビューですのでご注意ください。

最初のモノローグのシーン、ここにテーマがつまっています。
というのもモノローグ内のシロツグ少年は、水軍パイロット(空軍)になりたかったのです。それは成績によって叶わないことを理解し、(人類は宇宙に到達していないものの存在する)王立宇宙軍に仕方なく入ることにしました。
作品を通してこのモノローグを再考すると、この作品の物語に「妥協」というテーマを感じ取りました。理想と現実、妥協をする人間、夢を諦めない人間、妥協という言葉がない人間、自分の理想に妥協を許さない人間。様々な出会いがシロツグにあって、妥協を繰り返してきたシロツグを変えていきます。

物語の中で変わっていくのはシロツグであり、シロツグの変化させた出会いの中でも大きな存在は、意中の女性、リイクニ・ノンデライコです。
シロツグはリイクニに「みんな妥協して生きている、君も衝突を避けるなら妥協して生きれば良い」とこんな感じのニュアンスの言葉を投げかけます。
それに対してリイクニは悲しそうは顔でシロツグを見た後、話題をそらそうとします。
それは、リイクニがシロツグに対して自分の理解者であるということを感じていたことを、そうではないということを思い知らされたからなのか、単純にシロツグの妥協した生き方が悲しく見えたからなのか、考えがいのある場面です。

リイクニは神の教えを強く守っていたり、祖母の家を守る強い意志を持った女性であることで、周囲と衝突することがあったために、妥協して生きれば?というシロツグの軽い発言をしてしまう流れなのですが、
彼女が妥協しなかった結果、彼女の身に起こる不幸(都市開発の為に家を無理やり取り壊される)に、シロツグは様々なことを考えるようになるのです。

その中でも人間の歴史、とりわけ戦争による火の歴史について、リイクニやカイデンの話を聞いて、シロツグは何かを感じ取っていきます。
リイクニの「宇宙から見たら、町の光も、戦争の光も同じようにみえるのかしら」という、人間の営みの光を肯定するのと同時に、おぞましい行為と考える戦争の光と見分けが付かなくなってしまうことへの悲しみがつまった言葉が、私の頭から離れません。

リイクニが信仰している神の教えは、神は人間の罪のすべてを知っており、人間は生まれながらにして罪を背負っている、というものです。なぜ私が罪を背負っているのか、そんな事を思わせる教えです。
町の中で聞けば、耳障りな言葉でしょう。ですがそれが貧富の差と考えるとしたら?
ロケット開発をできる人間がいれば、その周りで餓えている人間もいる。その差が果たして悪であるのか、シロツグのように、そんなにその差が気になるならくれてやると、金を物乞いにばら撒けば良いのか。人は生まれながらに貧富があり、それを悪として、それを埋めようとしないのも悪か、そういったことを、妥協して生きてきたシロツグに投げかけるのです。折り合いの付かない問題、妥協で解決できない問題に、シロツグはいらつき、金を物乞いに投げ与え、自分を縛るロケット開発から抜け出すようにリイクニの家に行く。
そこでシロツグがリイクニに行なった行為は、そういった一連の流れにあるのでしょうね。

終盤のロケット打ち上げで、宇宙軍のメンバーが命と打ち上げを天秤にかけ、命を選んだ後に、シロツグが1人「俺はやるぞ!ここまで来てやらなかったら俺たちは本当に馬鹿じゃないか」と憤るのです。
何に対しても妥協で合わせる事を怒らないことを選んできた、シロツグが怒ることに意味を感じます。
彼は自分の命を引き換えにしてでも、あの時妥協したくなかった。その時に率直に感じた、シロツグの男の意地のような感情に胸が熱くなりました。
夢を追い続けてきたが命とは引き換えにできないと諦めかけた宇宙軍の将軍カイデンをも奮起させた、シロツグの憤り、シロツグの変化に気付いた時、ああ、妥協し続けてきた男が、最後は腹を決めて事を動かしたんだという、あの感動の余韻が今でも鮮やかに感じられます。

そして、宇宙に達した後にシロツグは、誰か聞いているかわからないラジオを宇宙から流します。あのときのシロツグの言葉は、リイクニの家が開発によって壊されたこと、シロツグが命を狙われて刺客の命を奪ったこと、町の営みの光と戦争の光が混在する人の歴史を感じた事などの経験から、人間の業を認めつつも人の営みを肯定し、ただ静かに、人が帰ることができる家があることを願う祈りを捧げたことに、私は深くシロツグの祈りを肯定していたと思います。

物語のまとめとしては、妥協して生きてきたシロツグという主人公が、妥協をせずに様々な理想を追い求める人間を見上げながら生きてきた人間が、最後はロケットのように、爆発的な推進力ではるか彼方へ飛んでいった、とてもとても人の成長を描いた作品だったなと、拙いですが締めさせて頂きます。

ここからは映像や演出面の感想。

シロツグの声が森本レオってところが衝撃ですよね。けだるげな感じも、女の子に現を抜かす時も、後半の感情のこもった演技も、どれも自然体な感じがに馴染んでいて、衝撃を受けるんです。

空軍の戦闘機のシーンやロケット打ち上げやバイクで走り抜けるシーンはさすがGAINAXという感じ。戦闘機の細かい動作もすばらしいし、バイクと列車が併走する疾走間もたまらないです。
ロケット打ち上げシーンに関しては、これは物語から影響された感想でもありますが、あれだけ戦争をしていた兵士達が、ロケットを見上げる。この時に、戦争とあのロケット開発が全く対照的な存在であるような、そんな印象すら覚えましたね。

投稿 : 2019/05/08
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サンキュー:

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