101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
思春期の影は濃い
原作ライトノベルは未読。
初回冒頭、街を覆う影の色濃さに目を奪われます。
作画から、皆が目を背けている物、なかったことにしている物。
それらが巣くう異様を描く、引きずり込むという強烈な意志に背筋を伸ばされます。
次いで、やたら白と黒が目に付く、色彩が乏しい街並みから醸し出される、
同調圧力に似た圧迫感に気圧されます。
社会を画一的にせんと“普通”であることを強いる圧力。
それにもっとも反発するのが多感な思春期の少年少女たち。
このまま敷かれたレールに乗って大人しくしていて良いのだろうか?
疑問から意識的、無意識的に生じた言動は反抗期と呆れられるか、
もしくは普通じゃない影として無視されるのが常。
そして、いざ事が起こってから初めて、普通の子が何で……と絶句されるのだ。
よって理解されない、しようともされない彼ら彼女たちの影は、
人間社会の暗部を隠れ蓑にする怪異、異能力者の類いが
暗躍するのに特に格好の場となるのだ。
それらが活動することで、普段省みられることのない、
人間の深層心理が可視化され、世界の有り様が問い質されるのだ。
正直、物語はブギーポップの正体も含めて、私には分らないことだらけ。
視聴時は人物相関の整理すらもままならない体たらくで、
難しい考察なども全然できません。
ただ人物を光の中に置くか、影の中に置くかで露骨に立場を強調する作画演出など、
作品全体で醸し出された不気味なムードから、
簡単に片付けてはいけない心の多様性といったテーマは凄く伝わって来て、
私にとってはハートに刺さる、後々まで尾を引く、忘れがたい作品となりました。
特に時々ブギーポップら登場人物たちが溢す、
世界や心を単純化し、乱暴に扱う者に対する一言は、淡々とした口調ながら、
しかし痛烈で、ワイヤーの如く切れ味抜群。
例えば{netabare}傷ついた者に手を差し伸べない人間社会への疑問とか、
カルトの類は洗脳と断じるが、社会常識に迎合させることもまた洗脳ではないか?との指摘とか、
心の枝葉だけを捉えて、人をコントロール、救済した気になってるんじゃないとの指弾とか、
多重人格と言う解釈こそが、多彩な心の有り様を認めたくない人間の願望であるとの慧眼とか。{/netabare}
この辺りはブギーポップはかく語りきといった感じで、
後々も、事あるごとに思い返しては何度も咀嚼する視点となりそうです。
不可解な現象が繰り返されるストーリー展開も、
本作の場合は、容易に理解できない心を思い知るという意味では、
テーマに合致しているなと言った感じで、むしろ惹き付けられます。
それにしてもブギーポップ役のCV悠木 碧さん。
感情が振り切れた碧さんのボイスもグッと来ますが、
少し前のキノ役と併せて、こういう抑揚のない悠木ボイスも病み付きになります。
今後も、同調圧力に吐き気を催した時なんかに、
もう少し人物関係等を整理した上で、再挑戦して、
ブギーポップの気だるげな対応に身を任せたりしてみたい。
人知を越えた存在に、人の心だけでなく、何か社会まで審判されているような
畏怖も感じる不気味なアニメです。