「電脳コイル(TVアニメ動画)」

総合得点
83.9
感想・評価
1969
棚に入れた
11179
ランキング
308
★★★★☆ 3.9 (1969)
物語
4.2
作画
3.9
声優
3.7
音楽
3.8
キャラ
3.8

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ネタバレ

雀犬 さんの感想・評価

★★★★★ 4.7
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 5.0 状態:観終わった

こどもの世界・おとなの世界

2007年、NHK教育で夕方に放送されていた全26話の作品。

「電脳メガネ」と呼ばれる眼鏡型のウェアラブルコンピュータが普及した近未来の世界で小学生たちが電脳メガネを使って遊んでいるなか、電脳と現実の狭間で起こる不思議な出来事に巻き込まれていくSFアニメです。

子供たちの動きと表情、愛らしい電脳世界の住人たちのデザイン、電脳戦の格好いいエフェクトなど作画は驚異的なレベルで良い。古都の佇まいと最新鋭の電脳インフラを併せ持つ大黒市の景観は未来でありながらとてもノスタルジックでした。

見た目は子供向きながらかなり本格的なサイバーパンクで、情報量が多く世界観は作り込まれている。序盤の10話までは分からないことが多い。多くの謎を散りばめながら進み、徐々に作品の全体像が明かされていく作りなので人によっては難解にすら感じるかもしれません。

11話~13話は謎の電脳生物イリーガルにまつわる日常回で、ストーリー上は見逃しても問題ないのだけども、取っつきやすくてユーモアもあり「電脳コイル」ではここが好き、という方も多いようです。

14話は総集編に近いけども情報が整理され、重要キーワードも登場するため見た方が良いでしょう。15話以降はかなりシリアスな展開になります。僕は後半の方が好きで、一気に引き込まれて観るのが止まらなくなりました。

やはりと言いますか、SF作品なので「テクノロジーの進歩は本当に人を幸せにするのだろうか?」と問いかけてきます。手で触れられるものこそが本物で、メガネで見える拡張現実は本当は必要ないものなんだという大人たちの答えに対して、子供たちの出す答えは違うんですよね。信じられるのは大人の言葉ではなく自分自身の胸の痛みであり、形のないものにだって価値はある。このメッセージは、絵に命を吹き込むことを生業にしているアニメーターの矜持があるのかもしれない。

物語の中心になるのはヤサコ(優子)とイサコ(勇子)、2人の小学校6年生の女の子です。夏休み前にほぼ同時に転校してきた2人主人公の「ユウコ」はまるで磁石のN極とS極のように対称的な性格でありながらなぜかお互いに意識し、惹かれてしまう存在になっています。

ヤサコはその名の通り優しくて大人しい性格で人付き合いの良い女の子。対してイサコはきつい性格で人に心を開くことがあまりありません。電脳戦で男子たちをコテンパンにして子分にしてしまうイサコはやはりその名の通り勇ましい。

しかし物語が進み、2人が衝突すると第一印象とは異なる素顔が垣間見えるようになります。ヤサコは誰に対しても優しく接しているが、周囲の状況に合わせて取り繕っていることをヤサコに見抜かれてしまう。一方のイサコは本当はとても心が弱く、強情な表向きの顔は仮面でしかなかったことが露呈する。

ヤサコとイサコはお互いを鏡として、自身の優しさ・勇ましさと相反するもう一人の自分がいることに気付く。そして、性格も考えも異なる相手の長所にも気づくのです。物語の終盤、ヤサコは自分の意志で行動すること、イサコは他人を受け入れることで道を開いていることが分かる。他人から自分自身の本当の姿を知って成長すること事。それが「電脳コイル」のもう一つのテーマなのでしょう。本作はビルドゥングス・ロマンとしても大変優れた作品だと思います。

{netabare}
ラストシーン。シリーズ通してやや地味な色使いだったのが、はっとするほど明るい色調になるんですよね。愛するものとの別れを受け入れるほろ苦い結末に、希望を感じさせる素敵な演出でした。
{/netabare}

最初から最後まで、本当に素晴らしかった。新しさと懐かしさが同居する世界観に引き込まれる。子供が見ても大人が見ても、それぞれに楽しめるアニメではないでしょうか。

投稿 : 2019/04/28
閲覧 : 655
サンキュー:

30

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