rie-ru.2 さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
The beautiful world is sensitive, painful and saveable.
正直、書きたいことが多くて頭がこんがらがっています。
なるべく整理して書いてみる。
{netabare}
●生きたくない子
捨てられ絶望した末買われたチセは、期待もせず、ただ言われるがまま様々なものと出会っていく。
穏やかに死を迎える竜に対し、悲しむのでなくむしろ羨んでしまう。
猫殺しの罪を犯したもの、その犠牲者を消すのでなく浄化したいと願うのは、同様に安らかな死を望む彼女自身の表れでもある。
そこで、この作品はそうしたチセの触れる世界や心境を美しい作画で表現している。
顕著なのがその浄化の場面。
花畑とその中で消えゆくものたちは、青空の下なのにどこか淡く薄い、儚げな色彩で描かれていた。
それはおそらく、穏やかな死を羨んでいたこと、やっと自らの居場所を見つけたのに短命を告げられたこと、
そんな彼女の死生観を反映したものなのだ。
またそれとは対照的に、エルフの踊る夜、水鏡でチセとエリアスが会話するシーンの絵は、
夜空の下きらびやかで幻想的な雰囲気を醸し出していた。
これは、エリアスや様々なものに触れ合うことで心を開いていった彼女を表しているのではないか。
そしてその結実が、火を纏い鳥となってエリアスの元へ帰る演出なのだろう。
物語の前半部はそんなチセの出会う世界や、彼女が希望を得て前を向くまでを描いていたと言える。
●人を知りたいもの
それが後半部になると、エリアスが人間らしさを知っていく話が中心となっていく。
2クールの枠を存分に使い、緩やかながら丁寧にチセと感情を学んでいく。
そうした点において、エリアスのデザインはファンタジーならではの優れたものだったように思える。
少年、青年、大人、どの容姿であっても人間では、前半部の庇護者たる姿、後半部の人間を知っていく子どもらしさを、
容易に表現できなかったのではないだろうか。
SFだとそういう役割はAIなんかが担うんだろうけど、本作はファンタジーであるためより生々しさが出ているのも面白い。
●少しの不満
ただ一点だけもやもやとしたものが。
本作はチセの視点をメインに進むので、どうしてもチセに感情移入してしまう。
そのため終盤に「エリアスがチセの友人、ステラを呪いの身代わりにしようとしたこと」のショックが強い。
もちろん冷静に考えれば、そう簡単に上手く事を運べないのもわかるし、エリアスなりに決断したことも分かるんだけども。
いくら嫉妬や寂しさ等の感情を知ったとは言っても「知ったばかりで十分にコントロール出来ない」のだ。
そもそもエリアスは人間をほぼゼロから知り始めたことを頭に入れておかないと、
評価は変わってしまうかもしれない(私もこの回を見た時はかなり動揺した)
エリアスは「友達」という概念もきちんと分かっていないのだろうから。
…と、若干不満らしきものも漏らしてしまったけれど。とても良い作品には変わりない。
ラスト2話を見ても分かるように、本作はあくまでチセの物語なのだ。
呪われた子が、助けられ受け入れられて世界に心を開き、自らも他者を救いたいと願う。
その思い行いが「自らの中の母の呪縛」、自分自身であり母でもあるそれを解きはなつ。
そして自らに仇なす者の苦しみをも理解し救う、そんな物語。
●結構重要な余談
…ふと考える。
上記の不満、エリアスの不甲斐なく見えた姿は猫殺しの話と構造が同じ。
『愛する者のため、他者を犠牲にするよう追い詰められた』のだから。
さらには嫉妬の心理まで一致する。
「猫には九つも命がある」「チセはステラにだけ違う顔をする」…
するとこれは、『罪を犯して取り返しがつかなくなる前に、今度は罪を犯すこと自体を止める』話でもあったんじゃないか。
猫殺しが猫殺しになる前に、チセはエリアスを救ったのだ。
{/netabare}
冷静になってきちんと考えたら、これ、かなり練られたストーリーなのかも…私が鈍いだけ?
反省します。