しんちゃん さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
アレゴリー(寓話)としての名作
一言で言うと、「10年後に見ても多くの人が感動する、そして『あの作品からXXが始まった』と語り継がれるようになる」、そういうアニメだと思います。
なぜ10年後にまで語り継がれるようになると言えるかと言えば、この物語が極めて寓意に満ちているからです。
りんたち姉妹とわかばやさいしょのひと、またアカムシやシロ、さまざまなケムリクサといった存在が何の暗喩なのかについては、(すでに多くの解釈がされていますが)人によってありとあらゆる解釈が可能です。聖書の創世記がモチーフではないかという人も、最新の分子生物学理論の喩えだという人も、人工知能がシンギュラティを超えたコンピューターの内部世界を表しているのではないかと推測する人もいます。
それらはある意味、すべて正しいかもしれないし、でも外れているかもしれない。そうした無数の解釈が可能なのは、この物語が高度な寓喩として作られているからです。
そこに登場するあらゆるものが注意深く「何かをモデルとしたように見える」ことを回避するように作られています。しかしながら、物語そのものの構造がさまざまな事象に当てはまるシンプルな普遍性を持ちつつも、力強いヒューマニズムが流れている。そこに多くの人が勝手に自分がかくあってほしいと思うどこかの世界の写像を見て取り、感動するわけです。
2018年から19年にかけては、フルCGで造形されたキャラクターが商業アニメ制作の現場で本格的に使われるようになった時期として記憶されていくのでしょうが、そうは言ってもまだCGキャラは手書きの作画に比べて動きがどこか「自然」でなく、まるで人形劇のように見えてしまう部分があります。ですが、この作品はそうしたCGの特性を逆手に取り、人形を手書きアニメの「人間らしさ」に近づけようとするのではなく、視聴者自身に「この人形は何の喩えとして描かれているのか」を勝手に想像させ、ぎこちなさを頭の中で補完させることに成功しました。ポータブルゲーム端末の黎明期に、ドット絵で描かれたキャラクターの方が、最新の描画チップを搭載して本物の人間のように表現されたCGのキャラよりも感情移入できるように感じられたのと同じです。
アニメ制作におけるCG技術は今後も急速に発展し、手書きと見分けのつかないデザインや動きを実現するCGなどもどんどん増えてくるでしょうが、そうした作品が出てくるたびに「で、私たちはその作品世界に『ケムリクサ』ほど感情移入できたのか?」という問い掛けが、視聴者に対して投げかけられることになるでしょう。そういうエポックを生み出した作品として、このアニメとたつき監督というクリエイターが記憶されるに違いありません。