ブリキ男 さんの感想・評価
4.8
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
生命賛歌 しどろもどろ
言わずと知れた漫画界の巨匠・手塚治虫先生が1967年に発表された「どろろ」の二度目のアニメ化作品。映像化は1969年製作のアニメ、2007年製作の実写映画を含め、今回が※1三度目。
鬼神に体の※2四十八ヶ所を奪われ世に生れ落ちた百鬼丸が、自らの体を取り戻すため戦いの旅へと身を投じます。お供は孤児で盗人のどろろ。
目も耳も口も鼻も無く、髪も腕も足も皮膚も無い主人公の百鬼丸ですが、なんとこの百鬼丸、医師であり育ての親である寿海(じゅかい)から与えられた陶磁器と木材で作られた四肢を自在に操り、歩く事も、跳ぶ事も、戦う事も出来ます。ただし五感は無く、感じる事が出来るのは生命の持つ魂の色だけ。清らかな魂は白く澄み、穢れた魂は赤くどす黒く、彼の心には映ります。
物語の構成は、第五話と第六話の「守小唄の巻・上下」第十一話と第十二話の「ばんもんの巻・上下」を除き、基本一話完結となっており、旅の中で出会う人々との交流、遭遇する物の怪との戦いが交互に描かれます。
ぺてんに盗み、身売りに殺人、人の持つ業を悉く写し出し、同時に、その中に垣間見える優しさ、勇気を描き出す本作からは、持てるものが身に帯びる事の適わぬ持たざるものの強さ、しぶとさ、生命力の奔流が感じられます。
手塚先生の自伝漫画とも言える「※3すきっ腹のブルース」で描かれた戦後日本の風景にも似た、不安定で荒々しく、喪失感に満ちた世界。生きるために奪い、生きるために喰らう。ただそれだけ。なのに、何故こうも心が躍動し、そして締めつけられるのでしょう?
暴力と性、生物の持つ究極の武器は、安易に振るえば浅ましく愚か、自らを、子を守る為に振るえば、それは禍々しくも美しい。
搾取する者と享受する者とが隔てられ、過程が隠され、半自動化された世界の中で生きるわたしたちに彼等の持つ輝きはありません。
享楽の為に他を犠牲にする時、命を殺める時、人を嫌悪する時、わたしの魂は何色だろうか?
他の為に身を削る時、弱きものを守る時、人を愛す時、わたしの魂は何色だろうか?
どちらが白でどちらが赤か、わたしには分からない。
ただひとえに、哀しみを払う為に抗い、命を脅かすものに怒り、安楽を求め、喜び合う為に生きる。
そんな人々を描いたお話です。
※1:ゲームを含めれば5度目。1989年にPC98版が、2004年にはPS2版の家庭用ゲームが発売されていたそうです。前者はコマンド選択式アドベンチャー、後者は3Dアクションアドベンチャー。
※2:本作では12体の鬼神が百鬼丸の体を奪った事になっていますが、奪われた箇所、数については明言されていない様です。
※3:一部に当たる「紙の砦」と共に「手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL(https://tezukaosamu.net/jp/)」に電子書籍としてアップされてます。「どろろ」も少しだけ読めます。