ぽ~か~ふぇいす さんの感想・評価
3.8
物語 : 4.5
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「あなた・・・だれなの?」
アイドルってなんでしょうか?
アイドル(Idol)という言葉の意味は「偶像」ですね
ラテン語であればイドラ
近代哲学の祖フランシス・ベーコンの提唱した
人間が真実へと到達することを妨げる障害
偏見、先入観あるいは虚構、流言・・・
「私はアイドルです」というのを日本語に翻訳すると
「私はあなたたちの嗜好に合わせて演出された作り物のキャラクターです」
ってな具合になるんじゃないかと
アイドルという言葉が肯定的な使われ方をするのを耳にするたびに
何か違和感を感じるのですが
最近はアイドル稼業も大変なようですねぇ・・・
この作品を初めて観たのはもう10年以上前になります
今は亡き今敏監督の作品に初めて触れたのがこの時でしたが
当時深夜ラジオの熱心なリスナーだった私は
映画そのものではなく主演の岩男潤子さん目当てでした
声優がアイドル売りされるようになったのがちょうどあの頃
とどのつまり私もアイドルヲタクと大差なかったわけですね・・・ハイ
そんな不純な動機で観に行った映画でしたが
内容は予想以上に衝撃的でした
アイドルから女優への転身を図り
濡れ場を演じたりヌード撮影をする主人公霧越未麻
「偶像」としての未麻を崇拝してやまない信者たちにとって
その路線変更は許されざる背信行為だったわけですね
この映画を初めて観たときは
狂信者達はやり過ぎなくらい極端に変質的にデフォルメされ
もはや現実味に乏しいように思っていたのですが
今になって見返してみるとずいぶんと違った印象を受けました
最近のアイドルやアイドル声優関連のニュースを見ていると
マナーの悪いファンがイベントで事件を起こし出入り禁止になったり
変質的なストーカーに住所を突き止められて私生活を暴露されたり
ファンから一変したアンチによって写真を引き裂かれたりCDを割られたり・・・
これはまさに作品の中身そのままの世界ですね
現実味に乏しいどころか、むしろ生々しいまでのリアリティ
おそらくここ10数年でそういった事件が増えたというよりは
そういった事件の露出が増えただけで
以前からそういったことは多発していたのでしょう
アイドルそのものが事件を起こしでもしない限り
TVや新聞で大々的に報道されるわけでもありませんし
私を含めた一般人がそれを知る機会がなかっただけです
その変化の最たる要因はインターネットの普及
作中でも小道具として使われているインターネットですが
当時はまだ限られた人間しかネットを使っていなかった時代
ここ十数年の情報化がアイドルの扱われ方を急激に変化させ
以前ならば内々に処理されて拡散するはずのなかった情報が
今やちょっと興味があれば簡単に手に入るようになったわけです
さて、元アイドルを巡る様々な事件を描いた本作品ですが
現実の出来事と劇中劇ダブルバインド、
さらに未麻の夢や妄想の世界とが目まぐるしく入れ替わり
切れ目なく続く映像がいつの間にか別のシーンになっていたりするので
次第に自分の今見ている映像が一体何なのかわからなくなっていきます
しかしこれはあくまで狙い通りの演出であり
次第に現実と妄想の区別が曖昧になっていく未麻と一緒に
頭の中をぐちゃぐちゃにされてしまうのが正しい楽しみ方だ思うのですが
一緒に見に行った連れにはかなり不評でした
録画して何度も見直すようなことが簡単なTVシリーズならともかく
凝縮された90分を提供しなくてはいけない劇場アニメとしては
多少問題のあるつくりかもしれません
しかし、今回真相を理解した上で見返してみると
ストーリーを追いかけるのがやっとだった初見時と比べ
自然と細かい部分まで目を行き届かせることができ
ストーリーの大筋はサイコスリラーとしては
それ程目新しいものではないところを
演出の妙であそこまでに仕上げていたのだなぁと
あらためて感心させられました
現実と空想の入り乱れた世界の中で
何が虚構で何が現実かも判別できなくなっていき
本当の自分を見失っていく現実の未麻と
狂信者達の中でどんどん存在が大きくなり
現実から離れ独り歩きしていく「偶像」の未麻
肉体という制約からも解き放たれた妄想の中のアイドルは
まさに原義通りの「偶像」だったわけですね
劇中のものにしろ現実のものにしろ
アイドル産業って本当に歪な世界だと思いますが
その歪さこそがアイドルを「偶像」たらしめているように思います
しかしながら仕事中のみならずプライベートな時間も
「偶像」・・・すなわち偽りの自分であり続けなくてはならないとなれば
アイドルたちにとって本当の自分とは一体何なのでしょうね?