えれ さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
西尾監督の到達点
変身と戦闘をあくまで日常の延長とし、その上で人間関係を活写していく西尾大介(敬称略)の卓抜な演出力は続編「MaxHeart」最終回まで存分に発揮される。
時代や国や人種が違えば貧しさも教養も異なる中、日本の子供達のように比較的恵まれた環境下でしか生まれ得ないリアリズムを以って、普遍的な主題や日常を見つめ直すセンスが卓越している。
構成としてはテーマと強烈な人間関係が散りばめられたダークファイブ編、重要な日常エピソードと西尾演出回2話分が詰まった種の三者編、無印を前提に九条ひかりを通してアイデンティティの先鋭的な追求に挑むMaxHeart。すべての感情が収斂する最終決戦。全体の構成も良く出来ているが、一見幕間のようなエピソードでも引退や卒業まで時間が進んでいるという感覚が付き纏う。前半の熾烈な戦いから来る不安感が何気ない日常描写に情感を生んでいるのだ。キャラクターが生きるにはただ戦わせたり日常生活を写せばそれでよいという訳ではなく、コミュニティや自室と言った環境の作り込みから時間の流れ方、それに伴った感情の流れまで描き出す必要がある事をこの作品は弁えている。
監督や脚本は勿論声優までもが一丸となって立体感あるキャラクター像を確立した点も高評価。アクション演出の類まれなセンス、監督は勿論脚本羽原大介を中心としたキレのある台詞回しと悪役の在り方も注目。総決算的な内容である無印46話の幕引きから48/49話辺りの力強さ、なぎさ達の感情の発露に敵側が呼応する瞬間、自由を求め覚悟を決めた者の姿。敵としっかり拳を交えていただけあって、なぎさとほのかがぶつかり合う8話やキリヤとぶつかり合う18/21話など「人は容易に分かり合えない」中で敵側が良く絡む終盤の展開に説得力と格好良さを持たせるやり方が良かった。物語世界における本当の敵は「各々に課せられた運命」であり、現状の境遇や問題を誰かのせいにし敵を倒すという話にしていないのが妙。キリヤやひかりが抱える境遇を決してラスボス達に責任転嫁することなく、正真正銘の殴り合い、運命を切り開く者同士の戦いに納めた点が素晴らしい。いつの時代にどんな場所に生まれようとも、今生きているこの瞬間に主体性のある選択が出来ているかお前は、と。出生じゃなくて、選択が自分を自分足らしめると。自分がどう生まれて何者なのかという事じゃない。だから、闇に生まれたキリヤに対し「そんな運命なら変えてしまえばいい」と言い放つ。ここをフィクションと時代と人種を越えて繋ぐのが西尾演出の28話である。本作に至るまでの西尾大介演出、監督作品に目を通し、各インタビューや書籍、影響作を辿り彼をプロファイリングする事で初めてこの辺りの、プリキュアの神髄が見えてくると言えるだろう。端的に言うとプリキュアは西尾作品×実存主義×バディ物×ジュブナイルである。
敵が生まれながらに、本能的に、闇として生きることしか出来ないと、決して相容れる事は出来ないと、明確に線引き出来ているからこそドラマが生まれている。MaxHeart最終回まで是非通しで観て欲しい。