「さよならの朝に約束の花をかざろう(アニメ映画)」

総合得点
89.0
感想・評価
673
棚に入れた
3546
ランキング
93
★★★★★ 4.2 (673)
物語
4.2
作画
4.5
声優
4.2
音楽
4.1
キャラ
4.1

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Ka-ZZ(★) さんの感想・評価

★★★★★ 4.3
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

愛して、よかった。

「GOSICK」「花咲くいろは」「あの花」などの作品に携わった脚本家岡田麿里さんの初監督作品。
アニメーション制作はP.A.WORKS。
そしてタイトルは「さよならの朝に約束の花をかざろう」

繊細で緻密なP.A.WORKSさんの作画と、この作品のそれ以外の構成要素を勘案すると、視聴後に目を真っ赤に腫らしている自分が容易に想像ができてしまうので、中々視聴する機会が取れませんでしたが、ずっと視聴したかった作品です。
そしてようやく視聴できるタイミングが訪れました。
「この機を逃す手はない」
こうして視聴に至った作品でしたが、視聴後の自分の姿は概ね予想通り…
というか、ラストシーンを思い返すだけで今でも涙腺が緩んでしまうんですけど…
もう自分の涙腺の「おんぼろさ」を嘲笑するしかありませんね。

この物語の主人公は「イオルフ」の一族の少女・マキナ。
イオルフ族は、十代なかばの若い姿のまま数百年を生きるため、彼らは「別れの一族」と呼ばれていました。

縦糸は流れ行く月日。横糸は人のなりわい。
人里離れた土地に住み、ヒビオルと呼ばれる布に日々の出来事を織り込みながら静かに暮らしていました。
ですが、そんな静かで平和な暮らしが、イオルフの長寿の血を求める輩によって一瞬にして崩れ去る出来事が起こったのでした。

ある者は連行され…そしてある者は殺害され…みんな散り散りになってしまったんです。
そしてそれはマキナも然り…
帰る場所を失ったマキナが暗い森を彷徨っている時、ふと物音に気付きます。
その物音の方に近寄ってみると…母親に抱きかかえられた赤ん坊が泣いていたんです。

でも残念ながらその母親は既に絶命していました。
物語が始まって凡そ10分と少し…まだ始まったばかりであるにも関わらず、こんな無情で…かけがえの無い状況が目の前に広がるなんて思ってもいませんでした。

きっと母親に選択肢は無かったんだと思います。
それでもたった一つ自らが選んだ道は絶対に踏み外さず全うする…
それが親の愛情であり、強さなんですけどね。
こうしてマキナは偶然出会った命と共に歩むことを選択し、物語が動いていきます。

物語の随所に散りばめられているのは、母親であり続けようとするマキナの懸命な思いと姿です。
マキナが共に歩むと決めたのは「エリアル」という男の子でした。
マキナは見た目が十代半ばのままなので、一つの場所に長く留まることができず、あちこちを転々とする生活を余儀なくされていました。

数百年の時を生きるイオルフと人間は、当たり前ですが成長の速度が全然違います。
幼い頃には全然気付かなかったことも、年齢を重ねて周りが見えるようになると否が応でも気付いてしまいます。
この気付きは必然…
そして、この必然の先には無限の選択肢がある筈なんです。
そこで何を感じ、何を選択するかは十人十色…

だからマキナとエリアルが何を選択しようと、ただ見守っていれば良い…
そうして視聴していれば良い筈なのに、この作品を見ていると胸が痛むんです。

きっとマキナには無限に広がる選択肢が見えていなかった…
いいえ、そんな選択肢なんて彼女には必要なかった…
だって、マキナの全てはエリアルだけなんですから…

気が付けばエリアルはマキナよりずっと背が大きくなって力も強くなっていて…
そして何よりエリアルは男の子ですから…
マキナに対する思いが複雑になるのは理解できなくはありません。
でも、出来得るならエリアルには違う選択をして欲しかったのが本音です。
私もエリアルくらい若かったら、自分の思いに先走ってしまうことでしょう。

勢いがあるのは決して悪いことではありません。
若さ故の選択…なんでしょうから、エリアルを決して非難はできません。
でも、もし自分がもっと無知じゃなかったら…もっと相手の事を色んな角度から考えられていたのなら…
もしかしたら物語の方向性は少し変わっていたのかも…
どうしてもそんな考えが頭をよぎるので、マキナを見ると涙が溢れて止まらないんです。

物語では描かれなかった空白の時間…
誰がどんな時間を過ごしたのかは分かりません。
けれどマキナがその時間をどの様に過ごしてきたか、だけは容易にできてしまうのだから堪りません。

そしてこの先で描かれているのは、きっとある意味究極の愛のカタチの一つ…
縦の糸と横の糸の交差によって生じる翻弄は無情以外のナニモノでもありません…
深く…静かで…とても大きい愛はどれだけ募るんだろう…
どれほど焦がれるんだろう…
包み込む手と支えようとする心はどれだけ温かいんだろう…
身を裂くより辛かったと思います…振り返って戻っても誰も彼女を責める事はしなかったでしょう。
それでも、歩みを止めなかったのは、それだけ愛が深かったから…?
その選択はこれまでの人生で知り得ない程の寂しさに支配されるとしても、きっと彼女の選択は変わらなかったと思います。
そして、どれだけ自分の選択に下唇を噛んできたんだろう…
こうして物語は究極のラストシーンに帰結していきます。

兎にも角にもマキナの優しさと愛情に満たされた作品です。
少し頼りなげな表情の中に秘める芯の強さには脱帽することしかできません。
それもこれも、マキナのCVが石見舞菜香さんだったから…と言っても過言ではないでしょう。
彼女が演じたから、マキナはこんなにもカラフルで…ラストシーンがあんなにも儚く胸に刺さったんだと思います。

「ひとりぼっちがひとりぼっちと出会い紡ぎ出される、かけがえのない時間の物語。」
「愛して、よかった。」

どちらも公式HPに記載されている一文ですが、この言葉の意味と重みは伊達じゃありません。
そして単語一つ一つに嘘偽りが無く、作り手の全力が感じられる作品です。
ホント、これがあるからアニメはやめられないんですよね。
アニメを心から好きで良かった、とまた本気で感じさせてくれる作品に出会うことができました。
作り手の皆さまに感謝です。

投稿 : 2019/02/16
閲覧 : 402
サンキュー:

36

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