きつねりす さんの感想・評価
4.4
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
人は人を信じていたい
新作ができるということで復習一気見。
リアタイでも見ていましたが、やはり見直してみてキャラの背景やこのアニメが問うているものへの理解が深まり、有意義だったと感じました。
面白かったと思う点を何点か挙げます。
・周辺人物の関係性
仕事の関係上監視官と執行官という上下関係があるものの、教わることは圧倒的に執行官からの方が多い。それは長年の現場経験だったり、元監視官としての嗅覚の鋭さだったり、あるいは持たざる者の嘆きであったり。主人公・朱も次第にタフになっていく様子が描かれ、信頼を置かれる監視官として成長していく姿はなんだか感慨深かったです。監視官だった狡噛が犯人を追いかけるうちに潜在犯扱いされるというのも「正義も一歩間違えば悪になる」という訓示が込められていて見事。狡噛と朱の切れ者コンビ、宜野座と征陸の親子コンビは槙島の一件で戻らない関係になるが、それによって成長した残された人たちが意志を継いでいってくれることでしょう。泣けるなあ。
・悪の正当性
今作で追い詰めるべき悪として描かれていた槙島も完全に頭のおかしい奴ではない、というところもポイント。やり方として結局胸糞悪い殺人犯を生み出すわけですが「シビュラ」というこの世界のシステムにすべての信頼を置いているからこそ、それが安全と認めた赤の他人に対しての危機意識が薄れてしまった世の中に対しておかしいと一石を投じる姿は至極全うでもある気がします。システムの不完全さ、そしてそれに守られていた人間の脆さというものを露見させながら「正義の守るものは果たしてこれで正しいのか?」と問いかける知能を持った犯人としてこのストーリーを面白くしていました。物語の途中で「槙島がなぜ犯罪を助長するか」という問いに対して、狡噛が語った「世間(=シビュラ)から無視されたからこそ自分の存在に価値を見出したくなった」という推論も、死の間際に宿命の敵と互いを認識していた狡噛から「自分の替えはいない」という言葉を引きずり出せて笑みを浮かべたことから納得がいきました。孤独だったんだね。張り合いのある人間、いわゆるライバルがいるからこそ生きている価値が見いだせるというのもあるのかも。
・存在するルールを守るということ
「法で裁けないなら法の外に出ればいい」とは狡噛の言葉ですが、朱もまた物語の中で自分の守っているシビュラというシステムに対して疑問を持つようになります。こんなのおかしいと口では言いながらもそのルールを自分の手で壊してしまうことは出来ない朱。犯罪の連鎖を生む元凶をシビュラのルールで裁けないことに直面しながら、その恩恵を受け安心して暮らしている人たちのことを思うとそれを破ることは出来ないという心の葛藤を描いた20話は神回だと思います。自分では力の及ばないことを知り、シビュラの中で自分なりの正義を貫こうとするそれからの朱の言動は惚れます。カッコよすぎ。
・人は誰も善人になれるという根底
朱の根底には「人は立ち直ることができる」という考えが存在していると思います。最初のシーンでも事件に巻き込まれて精神が不安定になった人に対してシステムから「世間から排除されるべき人間」とされても善人として更生する可能性を捨てなかったし、最後の狡噛が殺人者として立ち振る舞おうとした時も銃を握らせようとしなかった。決定的な抹殺のチャンスで友人殺害の恨みを持っている槙島に止めを刺さなかったという点からも何かそういう部分を感じます。最悪の犯罪者であっても、もしかしたらこの人も必要な人間なのではと思う部分もあるといったような。朱の中に常にそういう信じる心があるからこそサイコパスが濁らないのかもしれないし、犯罪者・潜在犯であっても性根を正すことができるかもしれないと思える考え方が今作の救いの部分なのかもと思いました。
使っている言葉も引用先も知性を感じる作品なので、作品自体にも難しいオーラが漂っていますが、本質的な問題を問い直すからこそこれだけハードコアなものが出来上がったのだろうと思います。無法地帯の混沌、時代錯誤な考え方の是非、生きる意味、自分の価値、命の重み・・・そういったものを描く素晴らしい作品だと思います。