sunnyday さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
夢をカタチにする
アニメーション制作は、「夢をカタチにする」ということを表現するのに一番相応しい題材のように思います。
会議を繰り返す。プロットを書く。絵コンテを描く。原画を描く。CGを作る。声を当てる。各方面に頭を下げる。ドリフトをする。
長ったらしい全ての作業は、アニメ制作に懸ける一人一人の夢を具現化する為の工程です。
本作は、その言葉とは裏腹に、色とりどりの夢が詰まった「白箱」の完成を目指して武蔵野アニメーションとその周りの人々が奔走する物語。
言い換えれば、アニメクリエイター達の青春群像劇です。
<物語について>
本作ではアニメ制作の裏側が、とてもリアルに描かれています。アニメがどのような過程を経て世に送り出されるのか、本作を見れば一目瞭然でしょう。
しかし、物語をリアルに描くというのには、少しリスクが伴います。
本作の舞台はアニメ制作会社。アニメ制作というのは元来地味でブラックな仕事です。このような仕事を現実に沿って描くとなると、それは見るに堪えないものになりかねない。
本作ではこのリスクを、リアルと脚色の配分の上手さで回避しています。
例えば、23話は主に原作者との折衝が描かれますが、原作者との不和はシリアスに、そして出版社に乗り込む様はギャグアニメさながらで、最後のしずかのアフレコは涙を誘います。
また本作は「おじさん」が躍動するアニメでもありました。
印象に残ったのは12話の杉江さんと19話の武蔵野動画の方たち。特に後者は感動しました。セル画を持った宮森から始まる回想シーンにはこれまで登場したおじさん達が勢揃いで驚きました。
夢を小さな目標に変換していって、それを一つ一つ形にしていく。 他者から見ればとてつもない徒労に見えるこの工程が、武蔵野動画の人間に「がむしゃらに走り続けて、気がついたらここにいた」と言わしめるのです。
<作画について>
本作の作画は申し分ない程安定していると思います。もうちょっとだけメインキャラクターの鼻を強調してもいいかな、と思ったりしましたが、数話で慣れました。(作画の癖はすぐに慣れることが多いです)
<声優について>
主人公の宮森あおい役の木村珠莉さんは本作で初めてちゃんとしたアニメの役を務めるそうですが…
とてもそんな風には思えない!
キャラクターに合った声で、すっと耳に入ってくる印象を持ちました。
最近はあまり見ない方なので、頑張って欲しいです…!
<音楽について>
1クール目のOPテーマにグッと来ました。曲調は典型的なのですが、歌詞が良いです。なんていうか、物語の本筋をグサッと突き刺す焼き鳥の串のような歌詞です。少し引用します。
〽︎真っ白な世界に 夢のかけらを描いて 動き出す未来
これってもう本作のメインテーマ「なぜアニメを作り続けるのか」に対する答えそのものではないでしょうか。
…本当は歌詞全部について触れたいくらいなのですが、余白がないので省きます。
<キャラについて>
本作にはムサニの社員を始めとして、非常に多くのキャラクターが登場しますが、特筆すべきはそのサブキャラクターの濃さです。
社長、監督、本田さん、ナベP、etc…
もはやモブキャラがいないのではないかと言うくらい、本作のサブキャラは多いし、また一人一人のキャラも濃いです。特に1話でムサニのメンバーが初めて一同に会する場面は圧巻。各話でもサブキャラについて掘り下げる回が多かったです。
ではなぜここまでメインキャラクターよりもサブキャラクターを重視しているのか。
それは、メインキャラの無垢さを強調させ、そして彼女たちの成長を劇的に描き出す為だと思います。
1クール目では、宮森はまだ制作1年目の新人。多くの失敗を繰り返して成長していきます。そんな中で印象に残ったのは、無垢な宮森とそれを取り巻く人間の鮮やかさ。
みんな自分の中に信念(なぜアニメを作るのか)があって、その全てが宮森を育て、最終話のスピーチで、彼女は自分の信念を確立させます。この成長を描き切るためには、サブキャラの濃さは必要不可欠ではないでしょうか。
…このプロット考えた人すごいです。横手さんすごい。
もし、アニメーション制作に携わる方々が、本作のように一つ一つの作品に対して愛情を持って制作をされているのなら、一アニメ好きとしてこれ以上嬉しいことはありません。
劇場版アニメも鋭意制作中だそうです。
またムサニの皆さんに会えるのをとても楽しみにしています。
くれぐれも、万策は尽きぬように。