Kuzuryujin さんの感想・評価
2.5
物語 : 1.5
作画 : 3.5
声優 : 3.0
音楽 : 3.5
キャラ : 1.0
状態:観終わった
P.A.WORKSの魔法
この会社の作るアニメにはcharm(魅了)の魔法が掛かっている。
なぜ魔法と言うか。
それはいつか必ず解ける時がくるからだ。
そして監督や脚本家が違えど同じような感想を抱くケースがよくあるからだ。
また、作品の支持者も不思議と感じるほど多い。
以上で特に該当すると思う作品は、個人的に
①「Angel Beat!」②「Charlotte」③「TARI TARI」
④「クロムクロ」⑤「サクラクエスト」⑥「色づく世界の明日から」。
これらに共通して思うこと。
第1話を観た時は、「これは面白くなりそう」と
必ずワクワクさせられ、その余波はしばらく持続する。
しかし、自分にはその魔法は長くは効かないことが多いようだ。
感動してこの作品のファンとなった視聴者も大勢いるようだ。
自分は残念ながらこの作品を全く好きになれなかった。
以下タグで閉じた部分は、本作に関して否定的内容がほとんど。
本作のファンは読まないほうがいいだろう。
このサイトにおける本作の否定的なレビューは、
冷静に問題点を分析して指摘しているものが多いし、
当方も合意、共感できる意見がほとんど。
そのため以下、意見内容が他の投稿者と重複することも多いだろう。
◎その1
{netabare}
以上の6作品の内、最後まで観てよかった、
そして後悔しなかったのは、①③くらい。
(因みに、PA作品での一番のお気に入りは「SHIROBAKO」だが
PAとの魔法と言うより、水島努監督の魔法の魔法と感じるので、
上記には加えていない。)
②④⑤そして本作⑥は、遅くとも4話目の頃には、
面白さや興味は、ほぼ霧散無消。
後は惰性。最後を観届けようと、半ば義務感のように完走。
結果としてつまらない作品であっても全話視聴してしまう。
(つまらないのに完走。これも魔法でも掛かってるのかと思う原因だ。)
{/netabare}
◎その2
{netabare}
以上のつまらなかった4作品に共通するのは、見終わった後には、
魅力あるキャラクターが皆無になっていること。
初めは魅力的でも最終的に魅力が全く無くなったキャラクター。
始めから不快、もしくは途中から不快感が増して大嫌いなったキャラクター。
そんなキャラばかりだった。
それで、最後まで観ると不満もピークに達し、
こうしてレビューでも書いてストレス発散しないとやってられない。
{/netabare}
〈主人公〉
{netabare}
人間の一番素晴らしい本質的美徳は、自らの進歩向上、
そしてその先の社会貢献への意欲にあると思っている。
と偉そうなこと言っても恥ずかしながら、根がズボラな自分は、
それを十分に実践できてるとは到底言えない。
ゆえに現実はともあれ、せめて創作の物語の中だけでも
その理想が生きていて欲しいと思う。
逆に言えば、その美徳をちゃんと描けていないか、
軽んじてる創作物は基本的に好きになれない。
結果としてこの作品、主人公の瞳美はトラウマを克服して
ハッピーエンドを迎えたかのようだった。
一見そこに進歩があったんだからいいんじゃね、と思えそうだ。
しかし、瞳美は自ら進んで問題解決に努力して奔走したわけではない。
選択の自由もなく、祖母の魔法で強引にタイムトラベルさせられ
上げ膳据え膳でたまたま結果オーライだっただけにしか見えなかった。
物語の最後では、受身から卒業してこれからは、
自身で人生を切り開けるように成長したと言えるかもしれない。
しかし作劇上、人生に対して受身にしか見えない当初の瞳美を、
主人公としたのは失敗だったと思う。
主人公としては、祖母の琥珀の方が明らかに適任。
なぜなら、高校生の彼女の初登場時は、
人生に明るく前向きで、魔法で人を幸せにするという志で
キラキラ輝いていた。お騒がせな部分も魅力的だった。
しかし、瞳美を主人公にしてしまったため、琥珀の描写が足りず、
彼女は何考えてんだかよく解らないまま終わってしまった。
しかも回が進むにつれ、
脚本家は、周りのパッとしないキャラに合わせるためか
琥珀の長所も短所も抑え込み、人畜無害となり、
ただ状況に振り回されている、魅力なき存在としか感じられなくなった。
{/netabare}
〈主人公を取り巻く主要キャラ〉
{netabare}
主人公の高校生の部活仲間は、
身勝手な部分が年代に相応しくリアルだったが、
皆一様に優等生タイプでキャラ立ちが半端で面白味が全くない。
そんなキャラでの群像劇は見たくない。
部活描写、恋愛、特に三角関係とかどうでもいい。
中途半端な日常系の緩い劇はグダグダで退屈。
最終話付近でシリアスに盛り上げ感動で締めくくろうとしても
脚本家の計算が見え見えで、白けてあざとさしか感じられられない。
瞳美が主人公である以上、
魔法で彼女が過去で出会うべきキーパーソンに出会い
ドラマチックにどんな奇跡と軌跡が生まれるか、
が軸であるべきなのに、それ以外のエピソードが悪目立ちしていた。
特に邪魔で不快に感じたエピソードは、
第9話での先輩部長の瞳美への告白イベントだった。
百歩譲って好きだと単純に告白するのは、まだ許せる。
しかし脚本家は、部長に
「本気で言っている。俺と付き合って欲しい。」と言わせた。
これにはまいった。無責任であまりに身勝手だ。
なぜなら瞳美は、60年の開きがある別な世代の人間だからだ。
部長は、瞳美がその元の未来の世界に
いずれ近い内に帰っていく存在と理解しているはず。
避けえぬ別れが待っている本来交わってはならぬ相手に
付き合ってくれ、は酷すぎだ。
監督はじめ周りの誰もこの台詞にダメ出ししなかったのだろうか。
これで軸がブレブレだということを確信。
日常系青春群像劇?、タイムトラベルによる未来改善の奇跡のSF?
10話以降、まったく話についていけないまま最終話を迎えてしまった。
{/netabare}
〈美しき世界と時間魔法〉
{netabare}
決して美しい世界ばかりではないのが現実だ。
ところが本作の世界は、
背景とオブジェクトの作画の美しさばかりが際立つ。
しかも人畜無害の美男美女のキャラばかり。
周りの大人は、皆優しく人格者ばかり。
そんなキャラの周りには不浄なものの存在感は非常に希薄。
悪人、犯罪、政治や外交問題、社会の暗部など全く存在しないかのよう。
モラトリアムな高校生活が舞台とは言え、あまりに綺麗すぎる。
それでは世界は優しさしかないと騙されそうになる。
まるで10代の頃に体験した夢のようだ。
朝起きたら、すごくいい夢を見た記憶はある。
充実した幸せな気分だが、具体的な内容はほとんど覚えていないような、
もしくはあっという間に忘れる、そんな夢。
本作の現実味は、人は必ず老いて平均的寿命で亡くなる点。
そしてコンプレックスと嫉妬の存在くらいか。
本作の魔法は、琥珀登場時のみ爆発とか物騒な描写もあったが、
脚本上ギャグのつもりだったようで総合的には、
イリュージョンの範囲内に過ぎず、とても軽い印象だった。
ところがそんな中でも時間魔法が存在する。
こんなものは、未来を己に都合よく改変して
野心や欲望のため利用しようとする輩が
後をたたないため、存在したとしても厳重に秘匿すべきもの。
国家転覆の手段としても脅威だ。
国家組織、もしくは国家が監視する組織に所属しない、
一介の市井の魔法使いが、その方法を簡単に入手出来て、
それなりの研鑽で使えてしまう設定が陳腐。
しかも結局のところ時間魔法という手段は
効果的に活かせていたとは思えなかった。
恐らく老人になった琥珀は、
タイムトラベルしても絶対に未来は変わらないという
信念があるがゆえに瞳美を問答無用で過去に転送したのだろう。
そんな運命論者はタイムトラベルの物語には不要。
古今東西に生み出された物語のタイムトラベラーは、
一般的に皆、死ぬほどの苦労と挫折を味わい、
やっかいなタイムパラドックスと闘い
それを乗り越え、その努力により、
ようやく悪しき運命から解き放たれ、
より良き今、を勝ちとれたのだ。
アニメの主人公でいえば、「シュタゲ」の岡部倫太郎や
「時かけ」紺野真琴のようなキャラたちだ。
本作のような、
成り行き時間旅行で受身のままトラウマ克服などいう話では、
そういう苦労人の主人公たちに対して失礼とさえ思える。
似たような不快感、もしくは違和感を感じた視聴者は
決して少なくないと思う。
以上から、本作においてのタイムトラベル設定には
細やかな配慮が欠けていたと思う。
{/netabare}
〈アニメの評価も結婚前の男女の恋愛と一緒。
「惚れてしまえば、あばたもえくぼ」かもしれない〉
{netabare}
色々不満を書いた。
書き終えて頭を整理した後に感じたことは、
本作を好きになれなかった一番の理由は、実は単純で
気に入って感情移入できるキャラが、
一人もいなかったからのような気がした。
そんなキャラが一人でもいてくれれば、
上記の不満点の大半は許容できて
好意的な評価も出来たに違いない。
そんなわけで最終的に、キャラクターが、
作劇において如何に重要かを思い知った。
予断だが、今や超売れっ子の声優、東山奈央さんは
奇しくも同時期に、本作と「青ブタ」で
主要女子高生を演じておられた。
両者とも表面上は、大した差のない似たような性格だと思う。
しかし、どんなに実力ある声優も、脚本上一旦嫌いになったキャラを
好きに変えることは最後まで無理だった。
同じ声優が演じているのに最終的に、
方や「悪い奴じゃないとは思うけど何となく生意気でうざい」、
方や「からかい甲斐あって超可愛い」
と印象は大きく分かれた。
{/netabare}
ここでの評価点は総合点を先に決め、
各項目をそれに合わせる採点とした。
そのためかなり厳し目になってしまったことをお断りしておく。
(少なくとも作画や音楽は、話がおもしろければ4.0以上にしていた。)