「SSSS.GRIDMAN(TVアニメ動画)」

総合得点
84.9
感想・評価
1000
棚に入れた
4053
ランキング
264
★★★★☆ 3.8 (1000)
物語
3.6
作画
3.9
声優
3.7
音楽
3.8
キャラ
3.8

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キャポックちゃん さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9
物語 : 4.5 作画 : 4.5 声優 : 3.5 音楽 : 3.0 キャラ : 4.0 状態:観終わった

多層構造を持つ虚構世界の妙

【総合評価☆☆☆☆】
 当初は、次々に現れる怪獣を巨大ヒーローが倒していくだけの(大きな)子供向けアニメと軽く流し見していた。しかし、第6話辺りからしだいに深刻な展開になって引き込まれ、第10話でアカネが投げやりに最後のフィギュアを手渡したときには、昔の自分の姿と重なり本気で泣いてしまった。アニメを見て大泣きしたのは、『僕だけがいない街』第8話以来だ。2018年屈指の名作と言ってよいだろう。冒頭の何話かだけで視聴を打ち切った人は、是非、改めて最後まで見てほしい。
 原作は、1993年に放映された特撮巨大ヒーローもの『電光超人グリッドマン』。まだあまり普及していなかったパソコンを取り上げた先駆的な作品で、ヒーローも悪の首魁もコンピュータワールド内部に存在し、端末を介してリアルワールドに事態が波及するという内容。もっとも、アイデアは斬新だが、特撮が(90年代の作品としても)チープであり、大人が見るのはつらい。私は、動画配信サイトで視聴したが、数話でギブアップした。
 本アニメは、パソコン(90年代には最新鋭機だったかもしれないが、今では秋葉原でもなかなかお目にかかれないジャンク品)にヒーローが現れるという設定を原作から継承する一方、チャチなセットで表現された《コンピュータワールド》を街全体を包み込む《虚構世界》に置き換えることで、格段に深遠な内容を盛り込むことに成功した。最大の見所は、この虚構世界が異様なリアリティを持つところ。生活感にあふれながら殺風景、仲間が大勢いるのに孤独、平凡でなじみ深くて不気味。そんな生きづらさを感じさせる都市空間に、異形の怪獣たちが現れる。
 今なお制作されている実写版のヒーローものでは、怪獣/怪人の姿がいかにも作り物然としており、見る者は、自分は“こちら側”にいると感じながら、安心してヒーローの活躍を楽しむことができる。ところが、『SSSS.GRIDMAN』では、怪獣が姿を現す街の光景が、虚構のはずなのにやけにリアルで、見る者が属する現実と通底する。しかも、虚構世界自体がいくつもの階層から成っており、さまざまな階層が相互に侵食する(例えば、アカネのパソコン内部にいたはずのアレクシス・ケリヴが、いつの間にか実体化して登場する)。こうした描写と向き合ううちに、見る者は何が確実かわからず不安定な感覚にとらわれ、登場人物とともに閉塞した世界の息苦しさを感じ始めるだろう。特に、霧の彼方に「見えるのに誰も気づかない」怪獣がそそり立つ姿は、圧迫感を覚えるほど衝撃的だ。
 制作サイド(監督の雨宮哲が主導的だったと推測される)が意図的に多層構造を組み込んだことは、作画スタイルの使い分けに見て取れる。主人公の裕太、六花、将が暮らす生活空間は、錆の浮いたロッカー、蜘蛛の巣のような電線などに示される通り、陰鬱で重苦しく、不気味なほどにリアルである。ところが、怪獣とGRIDMANが闘う場面になると、一転してカラフルでキッチュな作画に変わる(それぞれ異なる作画チームが担当したという)。特に、メカが合体して巨大ロボになる過程では、マンガのように立体感のない画や、集中線を用いた過剰なエフェクトなど、完全に子供向けと思わせる表現が用いられる。そのせいで、華やかすぎて緊迫感に欠けるものの、おそらく、生活空間におけるリアルな描写との対比を際立たせるための、計算ずくの演出なのだろう。
 こうした対比的な作画スタイルは序盤から採用されており、注意深い視聴者は、かなり早い段階で気づいたかもしれない(私は、途中まで流し見していて、なかなか気づけなかった)。第2話で担任教諭とぶつかった直後、美しい音楽をバックに、がらんとした廊下の奥に佇むアカネの姿は、胸を締め付けられるほど切ない。ところが、同じ回の後半、くだんの教諭を襲う怪獣とGRIDMANのバトルシーンでは、思いっきりキッチュな作画に変わり、それをアカネがゴミ部屋でモニター越しに見て驚くという対比的な構図が採用される。一つの虚構世界がリアルとキッチュに分裂し、外側から見下ろすはずの者が、なぜかリアルな虚構と同じホリゾントに立たされるのである。
 虚構/現実という区分の曖昧さは、終盤に入るといっそう強調される。特に印象深いのが、第10話に登場する不細工な怪獣の姿。なぜノドに穴が開いているかを考えると、作品世界がいかに錯綜しているか、その一端が見えてくる。

 作画とともに指摘しておきたいのが、心理描写のうまさである。いかにも能天気に見える男性陣はそれほどではないものの、女性キャラは、ヒロインのアカネと六花をはじめ、六花の母親と友人、怪獣少女に至るまで、いずれも心理が丁寧に描写される。生きづらさから逃避しようとするアカネの苦悩は、多くの人の共感を呼ぶと思われるが、私が同じくらい惹かれるのが六花である。家でグタッと寝そべる姿は、太ももをあらわにしても色気の欠片すらなく、ただのだらしない女子高生にしか見えない。彼女は、生きづらさを受け流しながら、巧みに現実と折り合いをつけているのである。適度に距離をとった友人づきあい、熱心すぎないヒーロー支援--ややもすれば、やる気がないように見えるその姿は、さまざまな体験を経て、世間を生き抜くための知恵を体得したことを窺わせる。そうでなければ、どうしてアカネに素敵なプレゼントを買ってあげられようか。

 一つ気になるのは、原作を提供した円谷プロが、アニメの完成度を気に入ってくれたかどうかである。近年、円谷プロはアニメに積極的に関わり始めており、ショートアニメ『怪獣娘』(公認プロジェクト)やNetflixでの世界同時配信が決まったフル3DCG『ULTRAMAN』(原作提供。神山健治と荒牧伸志のダブル監督って、なんか心配だな~)などがある。『SSSS.GRIDMAN』もその一環であり、テレビ放送の最終回では、本編に続いて、GRIDMANが特別出演した『ULTRAMAN』の番宣が放映された。だが、本アニメの方向性は、もともとの巨大ヒーローものとはやや異質であり、作品世界の構造や登場人物の心理に重点を置く。古典的なヒーロー像にこだわる円谷プロと、本アニメ制作スタッフの間に、軋轢が生まれていなければ良いのだが。

投稿 : 2018/12/29
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サンキュー:

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