きつねりす さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
ひとりの心の中での正義と悪の闘い
ロボットアニメを基本的に見ない人間なのですが、この作品は知り合いに勧められて鑑賞。途中から追っかけ始めたのですが、見逃し一挙などを駆使してリアタイで完走しました。
もし、自分のいいように世界が作れたなら。
「この街を作った神」として自分が住みよい環境にするために人を消したり、感情に任せて破壊を行ってみたりとわがまま放題のヒロイン・アカネちゃん。一見萌え要素の塊みたいなキャラなので分からないけど、心の中はどす黒く、まさに「キレやすい」「ゲーム脳」といった具合。体裁は保っているけど、爆発すると抑えられなくなるアカネ。周りにはもともと好きになるようにプログラムされた人間ばかり。そんな閉鎖的な楽園を壊すのが主人公でありヒーローであるグリッドマンという存在。
話の途中までは気付かなかったですが、このアニメは「正義に反する敵を倒して平和を取り戻す」というゴールではなく、「孤独で閉じこもってしまった心を外の世界へと連れ出す」というゴールへと繋がるというところが面白いと感じました。敵のアジトを目ざとく探して悪の組織を壊滅させようとするのではなく、一人の人間の癇癪に対してその都度それを収める手段というのが「怪獣とヒーローのバトル」であり、怪獣を生み出す心に対しては直接危害を加えようとはしないということ。あまり特撮系の作品を見ないのですが、勝手に「地球を侵略しようとする敵から守る!」といったスタイルがスタンダードだと思っていたので、人間の黒い部分=怪獣と、それを駄目だと諫める正義の心=ヒーローというような構図で成り立っているということに気付いた時は「こんな話もあるんだ・・・」と感心してしまいました。
思いのままにストレスを発散させていたアカネにとってはウザい以外の何物でもないグリッドマンをどうにかして倒そうと目論むアカネ。前半敵の押し気味で後半にヒーローの逆転の一手で勝利!という展開は一種のお約束ではあると思いますが、物語終盤になってくると、自分の世界が思い通りにいかなくなってきてイライラを募らせるアカネも可愛く思えてきてしまうから不思議。いやもともと可愛いんだけど。最後には戦意喪失といった感じで自分の無力を思い知るという姿はやっぱり一人の人間だということを改めて認識させられました。
人間の中に確実にある闇の部分。こんなやついなくなってしまえばいい・・・と思ったり、痛い目にあってしまえばいいんだ・・・と思ったりする夢。それを実行に移してはいけないと歯止めをかける心。街というスケールで繰り広げられる物語でありながら、実はひとりひとりの心の中にアカネちゃんとグリッドマンがいるという講話のような物語であるということ。最後に何でも思い通りだった夢物語から外の世界へと「覚醒」するという、次元を跨いだ演出が「これは君の物語でもある」ということを教えてくれたような気がします。
もうひとつ面白かった点としてアンチくんの存在。このキャラはこのアニメにおいて大きな役割を果たしていたと思います。
最初はグリッドマンを倒す敵として生まれたアンチくんは道半ばでグリッドマンの前に倒れてしまいますが、他の怪獣とは違って人間のような形態から変身して怪獣となるため、普段は人間の生活の中で暮らしているという特異な存在。最初は生みの親として面倒を見てきたアカネも、役立たずと分かった時点でアンチくんを切り捨てる。それでも生き延びてグリッドマンを倒す、という使命で動いていたアンチくん。しかし、もう一人のヒロイン・六花と関わっていくことで次第と人間っぽくなっていく姿がサイドストーリーとしてその後も描かれていき、最終的には「グリッドマンを倒すのは自分だから自分以外の敵に倒されてはいけない」という考えからグリッドマンのピンチには共闘をする関係に。他の邪悪な心を打ち負かしていく姿はいつの間にかヒーローと被るようになり・・・そして最終回で新たなヒーローとして「覚醒」する。描写もものすごく良かったですね。目は口ほどにモノを言うというやつなのでしょうか。
作品全体として言えるのは、やっぱりメインヒロイン2人が話を大きなスケールで動かしているということ。言ってしまえばアカネちゃんはこの物語における主人公だし、その主人公を助けるヒーロー・グリッドマンを生み出したのは六花という存在に対して恋愛感情を抱いた裕太という存在だし、という具合に。アンチくんがヒーローになったのも六花の面倒見のおかげだし、奇しくも怪獣を倒せる役割のキャラはもれなく六花に特別な感情を抱いているわけで、影の立役者は間違いなく六花ちゃんだと言えると思います。
最後までアカネは敵じゃなくて友達だと言い続け、説得しようとした六花とアカネの絡みは要所要所で描かれていて、気を抜くと「かわいい・・・」と脳が活動を止めてしまいそうな場面であっても物語を完結させるうえで必要なピースだったと思えます。
一方で一般人、凡人としての内海くんの立ち位置もこの超常現象空間においてはいい味を出していました。「俺は結局何にもしてない」という罪悪感や、「ただ怪獣とヒーローが戦っている姿が見たかっただけなんだ」という自分が楽しめて害が無ければそれでいいじゃんという部外者面など、当事者と関わりがある普通の人の葛藤も12話ながら密に描けていたと思います。
下敷きとして「電光超人グリッドマン」というストーリーがあるゆえに考察やクロスフェード的描写も多かったようで、ウルトラマン系のオマージュも素人目ながら感じる部分はあり、この二つに知識を持っている人ならさらに楽しめたのではないか、と思います。アノシラスとかそこらへんが初見には分からなかったので、もう一度なぞり直して改めてこの作品を見るというのもいいかもしれません。というかコンセプト的に特撮見ない層を取り込むという考えがあったみたいなので、こう思った時点で良く出来た作品なんだな、と感じました。