「ほしのこえThe voice of a distant star(OVA)」

総合得点
68.0
感想・評価
588
棚に入れた
2980
ランキング
2266
★★★★☆ 3.4 (588)
物語
3.6
作画
3.5
声優
3.2
音楽
3.5
キャラ
3.3

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101匹足利尊氏 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.6
物語 : 4.0 作画 : 4.0 声優 : 2.5 音楽 : 4.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

自主制作アニメが全国ニュースになった衝撃

声優項目はオリジナル版の評価。


全国を巡回中の「新海誠展」の感想も交えつつ……。


私がこの短編アニメの存在を知ったのは朝のニュースで特集されているのを見て。
一人で作ったとは思えない細かい背景描写、光源処理に驚かされました。

後に視聴してみて、地球と宇宙に引き離される男女の想いが極まる中、巡っていく世界の風景。
その残酷なまでの美しさに胸を打たれました。

思えば本作がここまで話題になったのは、やっぱり背景作画の存在感故だと感じます。
これが、背景は簡素だけど人物の表情は凄い個人制作作品。
とかだったらマニアの中でもごく一部で愛好されるだけで止まったと思います。

実際、本作の作画ソースは背景に多くを割かれていることが「新海誠展」でも確認できます。
自主制作を実現するための工程の省エネなどは人物やメカ描写に向けられ、
背景の細かさとは対照的に、人物の表情などの制作工程は意外なほど簡素です。

これは、背景も登場人物の一人と言う監督のこだわりの表れなのでしょうが、
この作画構成こそが、自主制作→背景は大したことないだろう。
という先入観の裏をかいてサプライズを巻き起こし、
ゲーム会社出身でアニメ業界の経験も縁も乏しい若手クリエイターがたった一人で、
種々のしがらみをすっ飛ばして、インディーズでスマッシュヒットを飛ばすと言う、
夢のような成功例を生んだのだと思います。

いよいよ個人が自主制作で成功できる時代になったのかもしれない。
この夢物語が業界に与えた衝撃も相当な物だった……。
展覧会会場で当時、私も読んだ新海監督×『ガンダム』富野監督の対談なんかも見直したりして……。
私は、アニメ業界で働く人たちって、クリエイティブな仕事を通じて、
自分たちの思う通りの作品を世に出す夢を実現した自由な人たち
という憧れを抱いていたけれど、
現実は案外、色んな組織の制約等に縛られているんだな……。
と『ほしのこえ』への食い付きぶりを眺めて、
切ない所感を抱いたことを思い出しました。


展覧会を通じて、新海監督の足跡を振り返る中で、
再三、目に付いたのは「作品をコントロールする」と言う監督の強い意志。

この場合の“作品”とはアニメーション作品そのものは勿論、
世に出した作品が与える影響、鑑賞者や世間の反応をも含めてコントロールする。
というもので、非常に貪欲。

『星を追う子ども』で視聴者の反応が思う通りにならなかったと感じたら、
後の作品では、敏腕プロデューサーと手を組み、
プロモーションでもアイデアを出して制御していこうとする。
例えばその具現化の一端が『君の名は。』&サントリーのコラボCM。
と貪欲なだけじゃなく具体的かつ積極的。

やはり原点は、組織を飛び出して、ひとりで思う通りのアニメを世に出す。
という夢を具現化した『ほしのこえ』だと展覧会場を巡っていて改めて痛感しました。

とは言え、『ほしのこえ』以降の新海作品は拡大していく制作規模に、
監督の作家性を如何にして薄めずに反映し続けていくか?という苦闘の歴史。
『ほしのこえ』のケータイメールじゃありませんが、
監督と現場の末端との距離は作品を重ねる度に、どんどん遠ざかって行く。

それに抗うように、例えば『言の葉の庭』では、輪郭線に黒以外のカラーを当てるなど、
規模に比例して効率化されていくアニメ制作の現場に、
手間のかかる工程をねじ込んで個性的な色を出していく。
こうした“戦歴”を俯瞰すると『ほしのこえ』というビッグバンから続く、
自主制作由来の気風を感じます。

ただ流石に展覧会も『君の名は。』のコーナーに足を進めると
制作の大規模化も極まり、大量人員を動かすため、
業界でも一般的な制作体制を取らざるを得なかったとのこと。
それでも手綱を握る監督のコメントは強気で、
光源処理などで相変わらずの作家性を発揮していましたが……。
『君の名は。』以前からの新海誠ファンの中にたまに、
『君の名は。』では監督の個性が薄れた。
という感想が散見されますが、その感覚も強ちズレてはいないと私は思っていて、
大規模化した作画工程の中から生まれた背景に、
感覚的に監督ならではの存在感を見出せなかった人もいたのかな?と思っています。


先日、制作発表された新作『天気の子』
所信表明した新海監督は「賛否分かれる要素もある」などと個性発揮を予告しつつ
「純粋に『面白かった』といえる作品」などとハードルを爆上げし戦闘意欲十分。

男女の物語を基軸に、登場人物としての背景の再確立を予感させるタイトル&概要。
大ヒット作の次作でも尚、あの自主制作の気概に満ちた『ほしのこえ』は響き続けるのか?
答え合わせを心待ちにしています♪


あと……プロデューサーやスポンサーは中々、許可してくれないでしょうが、
監督にはまた、『ほしのこえ』みたいなSFロボットアニメを作ってくれたら嬉しいです。

投稿 : 2018/12/16
閲覧 : 650
サンキュー:

38

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