ぺー さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
世界って残酷だと私も思います
原作既読
“その日人類は思いだした やつらに支配されていた恐怖を 鳥籠の中に囚われていた屈辱を”
アルミン役井上麻里奈さんの印象的なナレーションで始まる本作。間髪入れずに“立体機動装置”を駆使する“調査兵団”の戦闘シーンへと変わり、OP「紅蓮の弓矢」に繋がります。
紅白出場も果たした同曲においては、曲中の歌詞をそのまま文字で見せる演出が盛り込まれ、視聴者に強烈なインパクトを残しました。
進む意思を 嗤う 豚よ
家畜の安寧 虚偽の繁栄
死せる餓狼の自由を!
Bパートの衝撃と合わせて、物見遊山な視聴者すら否応がなく作品世界に引きずり込まれる第一話。
原作は2009年に連載開始。翌年からいくつか漫画賞を受賞し始め世間での認知度も高くなり、アニメ放送を機に一気に普及した大ヒット作。
私はもともと原作から入り、アニメは少々変わった入り方をしました。3期直前の再放送「劇場版 前編~紅蓮の弓矢~ / 後編~自由の翼~」「劇場版 Season2~覚醒の咆哮~」で初めて触れ、3期放送を観た後での“今ここ”といった具合です。
あにこれ来た当初のランキングで「そういえば紅白にも出てたしな~」と有名作品の一つといった認識だけ持ってしばらく放置してました。
■立ち上がるもの
蓋を開けてみれば、正直アニメのほうが出来が良く、一気に25話完走させる力のある作品でした。
謎がほどよく散りばめられ適宜明かされていくストーリー構成。立体機動装置を使った戦闘シーンの作画が圧巻。エレン、ミカサ、アルミンその他同期訓練生を軸に多士済々。なにより世界観が・・・。いやリヴァイ兵長っしょや。これまで作品の魅力については散々語りつくされたことでしょう。
ただやっぱり・・・
“絶望的な世界で抗い続けることができる強い意志”
ここに心が震えるのです。視聴する前、交流あるレビュアーさん達からの「グロいの苦手だけど惹きこまれた」の声がひっかかっていました。
人類と天敵“巨人”との攻防の物語です。いや、攻防と言うにはおこがましいほどの一方的な力関係。
巨人と人類の力の差は拮抗したものではなく、絶望するほど圧倒的な差がある残酷な世界を描いております。聞いてるだけで嫌になる状況ですが、それでも反撃の狼煙をあげた人類の描かれ方が秀逸なため、見た目の残酷さを超えて琴線に触れるものがありますね。グロいけど…の理由が垣間見えました。
その上で時代との相性に触れた書評も当時よく見かけました。曰く、
・デフレ不況下の若者の経済不安や閉塞感
・圧倒的な自然の猛威になすすべがなかったあの日を境に変わってしまった祖国
・変わり種では中国返還以降に大量に進出してきた本省の中国人を巨人に例える香港の評論もありました。(wiki)
何に抗うのか? 描かれた空想世界がどこか自身の取り巻く環境と似ていて共感が広がったことも一理あるでしょう。
とはいえヒットがどうこうより自分が面白い!と思えればこれ幸い、が本音であって、逆境をバネにして立ち上がる者達の物語を私は好きですし、似たような嗜好の方はきっと楽しめるのではないでしょうか。ちょっとその逆境がしゃれにならんというのは本作独自の世界観だと思います。
■立ちふさがるもの
それは巨人だけを指しません。同じ人類の中での足の引っ張り合いも描かれており、作品に説得力を持たせておりました。日常描写の些細なところから物語の大きな流れの部分まで随所でそんなエピソードを挟んできます。
{netabare}巨人が現れた後も内戦で多くの命が奪われた。壁奪還の名目で口減らしをおこなった。外に目をむかせない王政府の意向。ビビってエレンを殺そうとした駐屯兵団。等々。{/netabare}
人間の業をよく表した人たちです。とりわけ示唆に富む二例は以下、
CASE1 “家畜の安寧 虚偽の繁栄”
ウォール教の司祭や信徒たち。「壁は神の英知をもって作り上げられた 何人たりとも壁を汚してはならない」と触れ回ってた集団です。
結果として“壁”は万能ではありませんでした。当然です。絶対というものなんてそうそうあるものではないのです。常にメンテナンス(保守)していかなければ現状維持も覚束ないことは世の常。そして維持するためにも新しい技術を取り入れ、試行錯誤しながら改善・改良をし続けなければいけないのです。
「100年大丈夫だったから・・・」
根拠が脆弱で全くロジカルではありませんが大衆が導かれやすい方便です。維持する努力を放棄した者とそうでない者。比較材料として彼らの役割がありました。手が悪いのは、疑問に思うことも議論することもNGというその姿勢。{netabare}彼らは第1話から登場し、シガンシナ陥落時には巨人に喰われてます。最終25話では教会に集まり祈りを捧げる信徒たちの集団もろとも女型の巨人に踏み潰されました。{/netabare}
壁が壊れて真っ先に蹂躙されたのは彼らだったということが意味するところを考えたいものです。こういった者達が力を持っているとロクなことをしないし、その他大勢のわりとまともな人たちが巻き込まれ犠牲になるのです。
CASE2 “進む意思を 嗤う 豚よ”
壁外から帰還した調査兵団に石を投げる者がいます。
「派手に出て行ったくせに、もう帰って来やがった。何しに行ったんだ!」
「俺たちの税金をどぶに捨てたみたいだな」
主人公らに肩入れしている私達は反発を覚えそうなものですが、実際のところ彼らは正論を吐いてます。一方で調査兵団の存在意義もまた真なりです。座して死を待つか?抗戦して死中に活を見出すか? ちなみに座して生き残る選択肢は、{netabare}(ミカサの両親が殺された時の描写が象徴的ですが){/netabare}ありません。そして日本から一歩出れば大なり小なり世界は残酷です。このことが、日本のみならず世界での本作の人気に繋がっている部分もあろうかと。
安全だと思い込んでるところからどうこう言うのは簡単で、現実世界の多数はこういった傍観者でしょう。本作では調査兵団を選ぶ時の葛藤も丁寧に描かれています。傍観者と当事者をいったりきたり迷いながら当事者たらんと決意した者達の集合体が調査兵団の一員であり、そこへ浴びせられる罵声に我々は心を痛めるばかりです。
救いは子供達でしょうか?{netabare}第一話でエレンが帰還した調査兵団に目を輝かせてました。22話では今は兵士となったエレン達に憧れの眼差しを向ける少年の図。歴史は受け継がれ繰り返されるのです。{/netabare}
ここについては、とある既視感※1を覚えたのでそれは最後に・・・
一枚岩ではない人類。圧倒的な力を持つ巨人。立ち向かう兵士たち。2クール以降はその構図にも変化が生じ、新たな謎が提示されて最終話を迎え2期へと続きます。
レビューはここまでです。ついでに以下、長めの余談です。
“その日人類は思いだした”
この“人類”を“日本人”に置き換えると見えてる景色が変わってくる方も中にはいるでしょう。
進む意思を嗤う豚になってないか? 私自身も自答し続ける日々です。
■既視感※1の正体
注)東日本大震災に触れてますので開帳にはご注意ください。
{netabare}
※SAPIOの2011年記事の抜粋
東日本大震災では10万人もの自衛官が派遣された。救った人名は2万人にも上る。
だが、彼らの奮闘はこうした数字だけでは推し量れないものも数多く存在する。
石巻を襲った津波による最大の悲劇の一つが大川小学校の壊滅だった。
石巻市立大川小学校は、児童108人のうち74人が死亡または行方不明となった。
学校周辺や校舎内では、自衛隊による必死の不明者捜索が行なわれ、瓦礫や汚泥が取り除かれた。
そして震災から約1か月後。
4月6日、大川小学校近くの追波川河川運動公園に設けられた宿営地内を疲れきって歩いていた
第14戦車中隊(岡山)の石井宣広3曹は、突如、背後から声を掛けられた。
「すいません!」
その可愛らしい声の主は、ワンピースを着た小さな女の子だった。
少女は、振り向いた石井3曹にこう言った。
「これ、読んでください……」
石井3曹に封筒を渡した少女は、名前も告げずに走り去っていった。
少女は、母親と思しき女性の運転する車でやってきて、偶然近くを歩いていた石井3曹に手紙を渡したのである。
そこには、覚えたてのたどたどしい文字でこう綴られていた。
じえぃたいさんへ。
げん気ですか。
つなみのせいで、大川小
学校のわたしの、おとも
だちがみんな、しんでしまい
ました。でも、じえいたいさんが
がんばってくれているので、
わたしもがんばります。
日本をたすけてください。
いつもおうえんしています。
じえいたいさんありがとう。
うみより
石井3曹は込み上げるものを必死で堪えた。
「胸がいっぱいになりました……。あの頃は、発災から1か月が経とうとしており、疲れもたまっていたのですが、あの手紙で、
『明日からも頑張るぞ!』と皆、勇気が湧いてきたのです。そして自分たちのやっていることが人々のためになっているんだ、
とあらためて認識しました」
その後、この手紙は第14旅団長・井上武陸将補の陣取る女川の指揮所に届けられ、たちまち各派遣部隊に伝わった。
井上旅団長は言う。
「手紙を見た時は、もう体中の血が逆流するほどの思いでした。『よし、どんなことがあっても全員を捜し出すぞ!』
という思いが漲ってきましたよ。うみちゃんは、どんな思いでこの手紙を書いてくれたんだろうと思うと……」
少女が自衛隊に寄せた
『日本をたすけてください』
という切実な祈りに全員が奮い立った。
中には、手紙のコピーを手帳に挟んで災害派遣活動に励む隊員もいた。
同県利府町の加瀬沼公園に宿営地を設営した北海道の第1高射特科群のある中隊指揮所にも、
この手紙のコピーがボードに貼り付けられた。
震災から49日目にあたる4月28日、飯野川第二小学校の体育館で、大川小学校の犠牲者の合同慰霊祭が営まれた。
祭壇には74の可愛らしい児童の顔写真が並んだ。
その中には、いまだ行方不明の6人の児童の写真もあった。
その間も、第14旅団の隊員たちは、うみちゃんの手紙を胸に、行方不明の児童を捜し続けていたのである。{/netabare}
与那国で騒いでみたり、隊員の子供が通う小学校の教師が「自衛隊は人殺し」と授業で嘯いてみたり、ガルパンの自衛隊イベントを中止させて悦に入ってたりする連中に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいものです。
平和を語るならまじめに考えよう。思想を問わず一緒に考えよう。不断の努力が必要でしょう。
国難から10年も経たずにこれだけボケられる輩が大手を振っているのが我が国の現状なのです。
100年の太平を経た末でのウォール教の信徒らを笑える資格が果たして私達にはあるんでしょうか?
視聴時期:2018年11月
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2019.11.08追記
3期が終わりFinal seasonを残すのみ。ここまで計59話が放送されました。
けっこうな量ですね。進撃デビューしたくても話数で躊躇されるお気持ちようわかります。
Finalに向けて、どうしても時間が取れない方は1期2期の総集編的劇場版3本をきっかけにされてみてはいかがでしょうか。
この3本で計37話分をカバーしているため、3期以降の話についていくことが可能となります。
2018.12.13 初稿
2019.11.08 追記
2022.02.27 修正